日本の広告最新事例を世界の潮流から読み解く #43

打ち解けられないパパの生態を見事に描き切った、あばれる君主演のサントリーCM

 

子どもに対する母親と父親の違いを、見事に描き切ったテレビCM


 米国でもまた違った意味で、母親と父親の立ち位置は一般的に異なるようで、そのコントラストを見事に描いている名作CMを紹介しよう。

 思春期の息子を想う母親の切なく(そしてかなり滑稽な)感情を見事にかつハチャメチャに描き切った事例である。続編では、母親と父親の立ち位置の違いがメインに描かれている。カンヌライオンズ2014フィルム部門でゴールド等を受賞したOld Spice 「Momsong」「Dadsong」だ。
 
Old Spice 「Momsong」
 
Old Spice 「Dadsong」

 Old Spiceは老舗の男性用化粧品だが、一時期すっかり「オジサンの男性用化粧品」のイメージが付いてしまっていた。ところが、2010年頃から若者に向けた広告コミュニケーションを続けざまに展開し、復活を果たしたと言われている。「Momsong」「Dadsong」では、思春期の男の子が女性にモテるために使用する男性用化粧品という位置づけになっている。

 Old Spiceのボディスプレーを身体にかけてデートに出かける息子。可愛い息子が大人の男になって行ってしまうことに、戸惑い、嘆く母。その切ない気持ちは、息子がデートしているクルマに引きずられながら付いていき、レストランにまで掃除人に扮して現れ、ビーチの砂の中から出現し、息子がガールフレンドといちゃついているソファの中からズルズルと飛び出て来て“ゾンビ化”さえしかける。

 続くDadsongで父親は、「息子はもう(大人の)男だ」と主張するが、母親達は受け入れない。「息子はまだまだ子供」で「彼にはオモチャが必要なのよ」と主張する。父親たちは「He is a man(息子はもう大人の男だ)!」と歌い、母親たちは「He is a boy(息子はまだ少年よ)!」と歌い続け、さらには、「Child(子供)なの、Baby(赤ちゃん)よ」と主張し続ける。

 このテレビCMの中で、ひとりの父親は「彼を(好きな場所に)行かせてやれよ!」と主張するが、これも母親にはまったく聞き入れられない。

 息子をいつまでも子どもと見ていたいという母親の心情をユーモラスに描きながら、そうすることでOld Spiceのボディスプレーが、大人になりかけの思春期にいる青年のための男性化粧品であることを強力に印象づけている。自分としても大好きなテレビCMである。

 たいていの幸せなことは、かなりの程度で大変である。それは筆者のモットーでもあるのだが、「たいへんで幸せなこと」の筆頭は、子育てだろう。それはベビーカーに乗るような幼少の時代から、恋人ができ始める青年期まで、変わらず続く。もちろん人にはいろいろな事情や考えがあるだろうけれど、自分自身は、さまざまな子育ての頑張りに、最大限のエールを送りたい。
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