TOP PLAYER INTERVIEW #51

老舗の三越伊勢丹で都市型メタバースを実現。仕掛け人が語るビジネスパーソンに必要な熱意

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 近年、リテール業界では店舗を売り場としてだけではなく、新たな価値提供の場として捉える動きが進んでいる。そうした中、三越伊勢丹は2021年3月に仮想都市のコミュニケーションプラットフォーム「REV WORLDS(レヴ ワールズ)」を開始し、仮想空間に新宿の街を構築して街中でのコミュニケーションや伊勢丹新宿店での買い物など、スマートフォンアプリを通じた新たな価値を提供している。

 今回は2023年11月14日から15日にかけて、リーテル領域のマーケティングをテーマにしたカンファレンス「リテールアジェンダ2023(主催:ナノベーション)」の開催に向けて、このサービスの仕掛け人である三越伊勢丹 営業本部 オンラインストアグループ デジタル事業運営部 レヴワールズ マネージャーの仲田朝彦氏にインタビューを実施。老舗百貨店でメタバース事業を立ち上げたきっかけや、体験を通じてメタバースの「大衆化」を目指した狙い、マーケティングに必要な考え方について詳しく聞いた。
 

スマホの中にバーチャル伊勢丹を建てたい


――まず、はじめにREV WORLDSがどのようなサービスなのか教えてください。

 REV WORLDSは、仮想都市のコミュニケーションプラットフォームです。仮想空間と連携したECサイトでの購買や若い世代を含むさまざまな世代の取り込み、新たな購買体験の提供などを目的に事業を立ち上げました。REV WORLD を体験するには、スマートフォンで専用アプリをダウンロードし無料で使えます。
 
三越伊勢丹 営業本部 オンラインストアグループ
デジタル事業運営部 レヴ ワールズ マネージャー
仲田 朝彦 氏

 2008年に伊勢丹(現三越伊勢丹)に入社。紳士服担当として店頭・バイヤー業務を経験。2019年に社内起業制度を活用し、アバターへのファッション価値やライフスタイルを提案する「仮想店舗とデジタルウエア事業」のトライアルを実施。2021年よりメタバースを活用したスマホアプリ「REV WORLDS」事業の運営を開始。

 仮想空間の伊勢丹新宿店では、デパ地下やファッション、ギフトなどさまざまな店舗が出店しています。そこで展示されているのは、実際に販売されている約400ブランド、約670点の商品でそのままECサイトで購入できます(※一部店頭のみの取り扱い商品あり)。

 また、リアルの街を完全に投影したデジタルツインのような仮想空間にしていないこともポイントです。リアルの要素が4割、バーチャルによるアレンジが6割のバランスにしています。たとえば、新宿の街や伊勢丹の建物などリアルの要素がある一方で、伊勢丹新宿店の店舗周辺には川や海が広がるなどバーチャルならではの世界になっています。

 メタバース化にはさまざまな企業が取り組んでいますが、1企業しかないメタバース空間ではメタバースの良さが活かせていないと考えます。三越伊勢丹の社員である私も他の百貨店や店舗で買い物をすることもあるので、私たちが手掛けるメタバースは積極的に他企業を誘致して、さまざまな体験ができるサービスにしたいと考えています。

 サービス名称を「バーチャル伊勢丹」ではなく、「REV WORLDS」にした理由もそこにあります。“REV”とはぐるぐる回るという意味で、街をぐるぐる回遊してほしいという思いを込めています。メタバースにはいろいろな形がありますが、あえて地球と同じ球体で、自転や公転の概念がある空間をイメージしているので、朝や夜になったり、天気や季節が変わったりします。現実世界のような時間・季節感を取り入れることで、より多くの人に身近に感じていただき、大衆化を目指しています。大衆化とは、男女、年齢問わず多くの人に利用してもらうことを意味します。


実際にスマートフォンで、REV WORLDSを操作しているイメージ

――仲田さんは2019年に社内起業制度を活用し、メタバースを活用した新規事業を立ち上げました。そのきっかけを教えてください。

 最初のきっかけは、新卒で入社1年目だった2008年にリーマンショックによる景況悪化とAppleのiPhone日本発売という2つの大きな出来事があったことです。そのときに、仮想空間によって百貨店ビジネスに新しい突破口を見いだせるのではないかと閃きました。

 私は入社後、フォーマルウェアの売り場に配属されたものの、リーマンショックの影響でお客さまが来店せず、1日5時間立ちっぱなしで待機し続けるということも経験しました。新人ながら、新しいことに挑戦しなければ、百貨店は生き残れないと感じました。そんなとき、スティーブ・ジョブズ氏がiPhoneの発表会で世界の観光都市の衛星写真を表示して、イタリアのコロッセオが映し出されたときに、「いつかこのデバイスの中にバーチャル伊勢丹を建てたい」と思ったのです。

 メタバースの事業が立ち上がったのは2021年でしたので、構想から13年もかかってしまいました。社内で答申するチャンスは13年間で4回、そのうち後半2回が社内起業制度を活用しました。

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