日本の広告最新事例を世界の潮流から読み解く #44
批判もあるが、川口春奈のキュートネスで社名を覚えてしまうテレビCMに注目
塗料会社がイメージ通りの色を提供する秀逸企画
海外の事例でも、BtoB企業が様々な工夫を凝らしたコミュニケーン施策を繰り広げている。世界最高峰の広告およびマーケティングコミュニケーションの祭典であるカンヌライオンズでも、昨年2022年に、その名も「クリエイティブBtoB部門」という部門が新設された。
その記念すべき第1回目のグランプリ受賞作が、SHERWIN-WILLIAMS(シャーウイン・ウィリアムズ)という米国のペイントメーカーによる「スピーキング・イン・カラー(SPEAKING IN COLOR)」だ。
SHERWIN-WILLIAMSは、塗料やコーティング材を扱い、主な顧客は建築関連企業や建築家になる。「スピーキング・イン・カラー」は、建築家や発注者が、自分のイメージする塗料の色を、スマートフォンに話しかけるだけで得られる、AIを活用したシステムだ。
例えば、「クリアなクリスタルで、カリビアンな感じ、水の雰囲気(Crystal clear, Caribbean, water)」と音声入力すれば、幾つかの候補色が提示される。さらに、「少し明るく(A little brighter)」や「少しだけ青味を足して(Blend in a bit more blue)」など、細かく感覚的な言葉を加えて行くことで、発注者自身のイメージに近いカラーが得られるというものだ。
建築業界については詳しくないが、広告業界の状況から類推すると、それまでは色見本など限られた色のサンプルの中から選ぶしか方法がなかった、と考えられる。AIの活用でより感覚的で発注者の要望にぴったりフィットした色を提供できるようにした画期的なシステムだと感じられた。
カンヌライオンズの部門は増え続けていて、複雑過ぎるとの批判も浴びているが、この事例は、それ以前の28部門だけでは応募しづらかったのではないかと想像できる。そこにBtoBという文脈を設定することで応募を促し、新しい光を当てることができたと言えるだろう。
ニデックの例のように、日本の広告業界でもBtoBビジネスが対象となる活動は、少なからず行われている。カンヌライオンズのこうした部門に注目してみるのも、面白いかもしれない。
広告コミュニケーションの様々な工夫やスキルが、より広い分野に活用されるようになることは、望ましいことだと個人的には考えている。今後もこうしたBtoBビジネスにおける広告コミュニケーションに注目していきたい。
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