TOP PLAYER INTERVIEW #55

「モノ消費」から「コト消費」へ、エアークローゼット天沼社長が考える消費行動の変化

前回の記事:
エアークローゼットがディズニーとコラボ、自社プラットフォームを活用した新戦略を解剖【代表取締役社長 兼 CEO 天沼聰氏】
  女性向けの月額制ファッションレンタルサービスを運営するエアークローゼットが、ウォルト・ディズニー・ジャパンとライセンス契約を締結し、2023年10月12日からディズニーアイテムのファッションレンタル「Disney FASHION CLOSET」を開始し、注目を集めている。

 この新しい取り組みは、エアークローゼットにとって、どのような戦略的意味を持つのか?また、サブスクリプションモデルに与える示唆とは何か?前編では『Disney FASHION CLOSET』の戦略的位置づけやターゲット、提携に至るまでを紹介した。後編では、「コト消費」の重要性と消費者の購買行動や嗜好の変化、経営やマーケティングの考えを代表取締役社長 兼 CEO 天沼聰氏に詳しく聞いた。
 

「コト消費」と「相対的な時間の価値」


――現在は、どのようなプロモーションを実施しているのでしょうか。

 サービスの魅力がアイテムそのものよりも、そのアイテムを使った体験にあるので、モノ消費よりもコト消費に意識を置いたプロモーションを展開しています。

 特に「バウンドコーデ」という文化を多くの人に知ってもらう必要があるので、実際にDisney FASHION CLOSETを体験してくださった人が、その楽しさをSNSで発信してもらうことが大切になります。
 
エアークローゼット 代表取締役社長 兼 CEO
天沼 聰 氏

 1979年生まれ、千葉県出身。ロンドン大学にて情報・経営を学び、帰国後アビームコンサルティングにて IT・戦略コンサルタントを約9年間従事。2011年、楽天に移籍し、 UI/UXに特化したWebのグローバルマネージャーを務める。2014年7月、「“ワクワク”が空気のようにあたりまえになる世界へ」をビジョンを掲げ、エアークローゼットを創業。2015年2月、日本初の普段着に特化したファッションレンタルサービス『airCloset』を立ち上げる。日経優秀製品・サービス賞2015「日経MJ優秀賞」、GOOD DESIGN AWARD 「グッドデザイン賞2015」、「第4回日本サービス大賞」内閣総理大臣賞など数々の受賞歴あり。

 バウンドコーデやリンクコーデが、限りある時間を特別な時間に変えていくスパイスとなり、大切な人とファッションはもちろんのこと、気持ちもリンクしていくことを届けたいと考えています。そうした思い出の瞬間をSNSなどで発信してもらえたら嬉しいなと思っています。今後は、そうした投稿を促すような訴求を行っていく予定です。

――「コト消費」がキーワードだとお話されました。天沼さんは、「コト消費」について、どのように捉えていますか。

 モノを買うときに「これがあれば何ができる」というイメージを持って購入することは、本質的に変わっていないのかもしれません。ただ、今後はさらに超情報化社会になっていくにつれて、その具体的なイメージを誰もが得やすくなってきていると思います。以前は、テレビCMや周囲の友人の口コミからしか情報を得られませんでしたが、SNSの隆盛でその商品やサービスを使っている人の体験を垣間見る機会が増えています。





 それによって、「モノ」そのものよりも「コト」の重要性が増してきていると感じています。同じように、我々がバリューで掲げている機能的価値の「ひとりひとりの時間価値の最大化」と本質は同じだと思います。

 つまり、すべての人にとって人生の時間は有限で貴重なものであるという本質が変わらない一方で、情報量やコトが増えているために、一人ひとりが1日に考えなければいけないことが増えています。人間の脳の構造は変わらないのに、時間の消費先が細分化しているので、相対的に時間の価値も高まっているのではないかと思うんです。だからこそ、マーケティングのプロセスの中でも「コト消費」の重みが変わってきているのではないでしょうか。

――Disney FASHION CLOSETに限らず、ファッションに対する現代の消費者の購買行動や嗜好の変化については、どのように考えていますか。

 これまでは、ブランドやメーカーがトレンドのアイテムを大量生産して、それをマスマーケティングで伝え、消費者はトレンドに乗ったアイテムを購入するという循環がメインでした。しかし、現代はITやSNSの隆盛で多様な情報が手に入るようになり、特定のトレンドが世の中を席巻することは少なくなっています。

 トレンドは緩やかに残っていると思うものの、個々人がそれをどのように取り入れるのかという部分は、多様化が進んでいると感じます。ブランドやメーカーにとっては、多様化する個にどのように対応していくのかが難しくなっています。また、マーケティング手法も多様化しているので、その対応にも頭を悩ませています。

 一方で消費者も、自分に合うものを探そうとしたときに、対象のモノや情報は増えているのに使える時間は変わらないので、相対的に時間が足りず、結果的に新しいファッションやブランドとの出会いが限定的になってしまっています。つまり、先ほど話した「相対的に時間の価値が高まっている」ということです。それに対してairClosetは、新しいファッションやブランドに出会える仕組みを提供しています。


エアークローゼット 2023年6月期 決算説明資料

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