TOP PLAYER INTERVIEW #59

味の素が餃子の張り付くフライパンを3500個も回収 「冷凍餃子フライパンチャレンジ」で目指した生活者目線のコミュニケーション

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 2023年5月、SNS上で「味の素冷凍食品のギョーザがフライパンに張り付いた」という1つの投稿が話題になった。その冷凍餃子を製造する味の素冷凍食品は、その要因を研究すべく、餃子が張り付いてしまうフライパンを募集したところ、3500個を超えるフライパンが集まった。

 世間の関心の高さを感じた同社は、プロジェクト「冷凍餃子フライパンチャレンジ」を立ち上げ、フライパンの3Dモデルをデジタルアーカイブとして公開、検証の進捗をブログで継続的に発信している。また、本プロジェクトの「途中成果」として、フライパンへの張り付きを改良した商品リニューアルを発表。2024年2月11日から全国で販売される予定だ。

 今回、本プロジェクトに携わる、味の素冷凍食品 戦略コミュニケーション部PRグループ長の勝村敬太氏、本田事務所 代表取締役/PRストラテジストの本田哲也氏、I&CO Tokyo 共同代表の高宮範有氏の3人に、話題化の要因やプロジェクトの経緯、マーケティングやPRにおいて大切にしていることなどについて詳しく聞いた。
  
 

生活者の投稿から始まった、冷凍餃子をうまく焼く「フライパン研究」


――まずは、「冷凍餃子フライパンチャレンジ」が生まれたきっかけを教えてください。

勝村 ことの発端は、2023年5月に一般の生活者の方が、X(旧Twitter)上で「味の素冷凍食品の生姜ギョーザがうまく焼けなかった」と、餃子の皮が張り付いたフライパンの写真で投稿いただいたことです。私たちが拝見した時にはすでにXユーザーの中で話題になっており、他ユーザーから「それはフライパンの問題だ」や「自分はいつもきれいに焼けている」といった声も上がっている状況でした。
 
味の素冷凍食品
戦略コミュニケーションPRグループ長
勝村 敬太 氏

投稿された方も、決して悪意を込めた投稿ではありませんでしたし、私どもとしては、そんなに餃子が張りついてしまうフライパンはどんな状態なのか純粋に興味もありました。そこで、我々の社名が言及されていたこともあり、我々にできることはないかと担当者と相談し、「大変勝手なお願いでご面倒おかけいたしますが、このたび調理にご使用いただきましたフライパンを、着払いにてご提供いただけないでしょうか?」と投稿に返信したわけです。

結果として、1カ月ほど待ちましたが、その方は送ってこられませんでした。ただ、このままにしてしまうのはよろしくないということ、他ユーザーの方々からも同様のお声をいただいたこともあり、研究所にあるフライパンで複数の検証を実施。張り付きやすいフライパンでも「大さじ1程度の油をひく」または「弱火で10分蒸し焼きする」と張り付きが改善できることを確認したと、1カ月後に投稿させていただきました。

―― 普段から、SNS上の消費者の声はチェックしていたのでしょうか。

勝村 はい、Xを開設してからまだ3年ぐらいしか経っていませんが、常に消費者の発信や、当社に関するコメントは積極的に探しています。

特に当社のギョーザに対する意見やコメントは、注意深く確認しています。全ての声に反応することは難しいかもしれませんが、その声を真摯に受け止めて、商品やサービスの向上に取り組んでいきたいと思っているのです。

―― 冷凍餃子がフライパンに張り付きにくい方法を発表した後は、どうしたのでしょうか。

勝村 やはり我々の研究所のフライパンだけでなく、お客さまが普段使われているフライパンでも確認したいので、「当社のギョーザが張り付くものがあった場合、我々に送っていただけませんか?」と呼びかけたのです。とはいっても、フライパンは日常使っているものなので、送るには買い換えも必要でしょうし、送る手間もあるので、社内では100個も集まったらいいねという感じで考えていました。
  

投稿したのは金曜日の夜でした。次の月曜日の朝出社したら、複数の宅配便さんから、合わせて1000個ほどのダンボールが届いていると連絡がありました。まさか投稿から3日間でそれだけの数が来ると思っていなかったので、慌ててしまいました。急遽、募集は中止にし、まずは届いたものにしっかり向き合おうと考えました。
  
フライパンが想定よりもたくさん集まった様子

―― 集まったフライパンはどのように使う予定だったのでしょうか。

勝村 当初は、お客さまのフライパンを検証して、夏くらいにその結果を報告できればいいなと考えていました。しかし、蓋を開けてみると、集まったフライパンの数が3500個を超えるほど関心を集める話題だとわかりました。世の中への責任があるテーマだと痛感したので、PRの専門家である本田さんにご相談してプロジェクトを発足しました。

そして、集まったフライパンを3Dモデル化して、デジタルアーカイブとして公開するプロジェクトサイトをオープンしました。また、プロジェクトに連動したnoteでフライパン検証の進捗を報告しています。さらに、日本経済新聞に集まったフライパンをビジュアルにした新聞広告を掲載しました。
  
3369番目のフライパン。プロジェクトサイトでは360度回転させて、フライパンの状況を確かめることができる。
  
集まった100個のフライパンで、実際に餃子を焼いてみたことを報告する記事。
 
日本経済新聞に掲載した新聞広告。代表取締役社長の寺本博之氏によるコメントも掲載し、今後も改良を続けるという会社としての思いを発信した。

本田 本田事務所は2020年頃から、味の素冷凍食品さんのSNS含む広報・PRまわりのアドバイザー契約を結ばせていただき、定常的にご相談をいただいている長いお付き合いでした。今回は、偶発的なきっかけからどういう風にすれば、より社会から興味をもってもらえるのかを考え、I&CO Tokyoの高宮さんを含めたチームづくりなど、プロジェクト全体の仕切りを担当しました。
 
本田事務所 代表取締役/PRストラテジスト
本田 哲也 氏

高宮
 私はフライパンが集まった後にお声がけいただきました。ある種のモメンタムができているタイミングでしたので、それをどう企業のブランディングやコミュニケーションに生かしていくか、クリエイティブ周りを中心に参画し始めました。

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