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羽田空港事故、記者会見のメディアからの質問はなぜ炎上してしまったのか? 今後の事故報道を考える
2024/01/09
記者会見での質問が「不適切だ」と問題視
2024年1月2日、羽田空港で起きたJAL旅客機と海上保安庁航空機の衝突事故では、海上保安庁の乗組員5人が亡くなり、1人が重傷を負った。一方でJAL516便に乗っていた379人は全員が無事だった。今回の事故で亡くなられた方々に心からお悔やみを申し上げる。
この事故に関するJAL及び、国土交通省と海上保安庁の記者会見では、一部の記者による質問が不適切だとネット上で大きな議論を引き起こし、炎上した。これはメディア関係者にとって重要な教訓となった。そこで今回は、事故報道においてメディアはどのような点に注意すべきかを考えてみる。
行き過ぎた質問か?メディアが引き起こした炎上
メディアは一般的に、社会的な監視機能を果たしつつ、公衆の期待に応える責任を持っている。特に、日本の記者は政府や企業などの権力構造に対する厳しい監視者としての役割を重視し、事故の原因や責任者を明らかにしようと詳細な質問を行うことが多い。これは、長年にわたって培ってきた報道文化の一部である。もちろん、正義の追求や透明性の確保のために厳しい質問が必要とされる場合もある。
しかし、今回のJAL機衝突事故の記者会見において一部の記者による質問が炎上してしまったことは、「メディアの責任」と「公衆の期待」との間にある緊張関係を浮き彫りにした。特に公式の調査が進行中にもかかわらず、詳細な見解や交信内容の開示要求、機長の名前に関する質問が緊急事態では適切でないと捉えられた。SNSなどインターネット上では、記者会見の目的が情報提供ではなく、責任追及へとシフトしているとの批判が巻き起こった。
日本のメディア質問内容の問題点
日本のメディアと比較されて賞賛されているのが、一部の海外メディアである。これらの報道は、客室乗務員や機長の勇敢で迅速な対応、災害や危機における乗客のポジティブな反応や英雄的な行動に着目し、人間性や希望といった側面を強調していた。
日本のメディアが危機状況下で行った質問内容に問題があったとされる主な理由は、情報提供と責任追及の適切なバランスを見失いがちな点にあるだろう。緊急事態では、公衆に必要な情報を提供し安心を与える役割もメディアには求められる。しかし、一部の日本のメディアが事故や不祥事に過度に厳しい質問を行うことで、むしろ公衆の不安を不必要に増幅してしまう可能性がある。
特に、先述の詳細な見解や交信内容の開示要求は、緊急事態で適切ではないと捉えられることが多く、事故の関係者の人間性や感情を十分に考慮していないと指摘されている。また、メディアが責任追及やインパクトのあるニュースづくりに重きを置いていると受け取られてしまうだろう。
したがって、日本のメディアは、緊急事態における質問の方法やタイミングについて、より慎重な姿勢を取る必要がある。これはメディアが公衆からの信頼を維持し、社会的責任を果たすためにも重要なことである。
民間企業と政府機関のメディア対応の違い
今回の記者発表では、民間企業と政府機関のメディア対応の違いも明らかになった。民間企業であるJALでは、事故にあった乗客への配慮に加え、ブランドの保護と危機管理が重視されたと考えられる。
そのため、メディアからの厳しい質問に対して、JALはブランドイメージを損なわないように慎重に回答していた。具体的には、感情的にならず冷静に、事実に基づいた情報を提供ようとしていたのだ。また、株主や顧客への影響を考慮し、企業の透明性を維持するための対応も重視していたと考えられる。
一方、国土交通省と海上保安庁の場合、公的な情報提供と政策説明に重点が置かれていた。政府機関としての責任を果たすため、正確かつ包括的な情報を提供が試みられていたと推測される。特に厳しい質問には、法的枠組みや規制内での対応を説明し、公衆の安全と利益を最優先に考慮した情報提供がされたと想定される。
このような対応の違いは、それぞれの組織が担う役割と目的の違いに起因している。民間企業はブランドと顧客の信頼の維持が重要であり、政府機関は公衆に対する説明責任と透明性の確保が求められる。したがって、メディア対応の訓練や教育では、それぞれの違いを重視し、組織に応じた適切なコミュニケーション戦略が確立されなければならない。同時に、民間企業は政府機関の透明性の高い情報提供のスタイルを取り入れることで信頼性を高めることができ、政府機関は民間企業の顧客中心のコミュニケーション手法を採用することで公衆に対する親しみやすさを増すことが可能である。両者の違いを意識つつつ、互いの長所を取り入れることで、メディア対応の質を向上させることが重要だ。
まとめ:メディアは「公衆の期待」にも応えるべき
繰り返しになるが、今回の炎上騒動は、メディアが公衆の不安を増幅させないように事実の追求だけでなく、人間性や人の感情を考慮した報道を行うべきことを示している。炎上したメディアは、事故報道における質問の適切な範囲とタイミングを再考し、大衆の感情を刺激する質問や取材対象に対する敵対的な態度を避けるべきである。
ただし、厳しい質問を行うこと自体はメディアの重要な役割のひとつであり、常に公衆の反応を恐れるべきではない。問題は、緊急事態で不適切な方法やタイミングで厳しい質問が行われることである。記者は公衆の感情や事故当事者の立場を尊重することによって、メディアは公衆の信頼を維持し、さらに社会に貢献することができるだろう。