新時代のエンタメ舞台裏~ヒットにつなげる旗手たち~ #02

YOASOBI「アイドル」が小学生からグローバルまで大ヒットできた理由、UGCを生み出す仕組みと初動が跳ねた裏側

 

「アイドル」のヒットを支えた曲づくり


徳力 マニアな人から教えてもらって面白いなと思ったことは、「アイドル」はリリース直後のスタートダッシュがものすごかったということです。

屋代 
実は「アイドル」を出す直前に、別の曲を2曲リリースしています。1曲目は「アドベンチャー」、2曲目は「セブンティーン」、そして3曲目に「アイドル」と、3カ月連続でリリースしたのです。
  

1曲目の「アドベンチャー」と2曲目の「セブンティーン」は、比較的若い人向けに行ったキャンペーンの曲でした。熱量高く発信してくれるファンに向けた曲が立て続けに出たときに、3曲目で「アイドル」が登場し、さらに「【推しの子】」のオープニング主題歌として出てきた。日を経るごとにファンの間に新しい情報と熱量が加速度的に広がっていたことが「アイドル」の初動につながったと思います。

徳力
 凄まじい数字が、YOASOBIの新曲を待っていた人たちがいかに多かったかを表していると思います。「アイドル」は世代を超えて広がり、小学生でも踊っている子が多いですよね。

山本 はい、子どもに聴いてもらうのは、海外の人に聴いてもらうよりも難しいと思っています。そこに届いた要因としては、「体を動かしてほしい」というコンセプトでAyaseも私も丹念に楽曲制作をしたからかなと考えています。
  

徳力 最初から子どもをターゲットにしたわけではなく、結果的にそうなったということですね。もうひとつ、海外向けの視点についても聞かせてください。「アイドル」は、国際チャートで1位を取ったのが象徴的ですが、これも100を250にする努力の成果と考えていますか。

山本 それはどうなんですかね。我々としては、起こったことに対しての最善策を取ったということだと思います。もともと「アイドル」の英語版は出すつもりだったのですが、初動として想像以上に海外で聴かれていることが確認できたので、英語版のレコーディングとリリースを早めました。リリースのタイミングとしては、「いつ出すと海外のバイラルチャートで換算されるか」といった細かな調整はしましたね。

徳力 以前から海外への思いは強いと聞いていますがいかがでしょうか。
  

屋代 はい、チャンスがあれば海外に行きたいと思っています。ただ、海外を意識しすぎて国内をおろそかにしてしまったら、将来的にアーティストの可能性を狭めてしまいます。そうはなりたくないので、しっかりとタイミングは見極めないといけないと思います。

徳力 
YouTubeの再生数でも、YOASOBIは海外の割合が継続して高いですよね。それも狙っていたことではないのですか。

山本
 はい、それは狙えないと思います。海外向けに広告を出したことはありません。ただ、そもそもアニメーションのミュージックビデオや、ボカロP出身というだけで、もちろんAyaseに限らず割と海外から人気があります。

「アイドル」の曲の特徴でいうと、たとえばブラジルを象徴するサンバを聴いたら我々もテンションが上がりますよね。そのような感じで、みんなで楽しく音楽を共有すること自体、グローバルで大きな違いがあるわけではないと思います。Ayaseは楽曲のグルーヴを大事にするタイプで、「アイドル」もそこを意識して制作しています。

今後もJ-POPや海外など関係なく、みんなが聴いて楽しくなれる曲をつくろうと考えています。
  

※ バイラルチャート(バイラルランキング):定額制音楽配信サービス「Spotify」で使われている言葉。SpotifyからSNSやメッセージアプリでシェア、そこから再生された回数などをもとに、Spotifyが独自に指標化したランキングのこと。

後編「YOASOBIプロジェクト」のヒットからマーケターが学べる鉄則とは?に続く
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