新時代のエンタメ舞台裏~ヒットにつなげる旗手たち~ #03

「YOASOBIプロジェクト」のヒットからマーケターが学べる鉄則とは?

前回の記事:
YOASOBI「アイドル」が小学生からグローバルまで大ヒットできた理由、UGCを生み出す仕組みと初動が跳ねた裏側
 日本の音楽・映画・ゲーム・漫画・アニメなどのエンタメコンテンツが、世界でも注目されることが多くなった昨今。さまざまなエンタメ領域の舞台裏で、ヒットを生む旗手たちの思考をnote株式会社 noteプロデューサー/ブロガーの徳力基彦氏が、解き明かしていく本連載。

 第1回は、いまや誰もが知る存在となったソニー・ミュージックエンタテインメントの「YOASOBI」の仕掛け人である、山本秀哉氏、屋代陽平氏が登場。2019年の結成以来、驚くべきスピードでヒットを生み出し、2020年のNHK紅白歌合戦にも出場。2023年4月12日に配信リリースした「アイドル」はBillboard Global Excl. USという米国を除くグローバルチャートで日本語曲初の1位を獲得するなど、瞬く間に日本だけではなくグローバルで活躍する存在へとなった。

 中編では、アニメ「【推しの子】」のテーマソング「アイドル」の曲づくりから、どのようにしてUGC(ユーザー生成コンテンツ)を生み出すか、ファンを巻き込むかについて紹介した。後編は、YOASOBIというアーティストのマーケティングとブランディングについて、常に新しいことに取り組む上でのポイントやその背景にある考え方などについて詳しく聞いた。
 

過去の成功方法に縛られないためには


徳力 従来からあるマス向けに大きく展開する方法と、ファンからファンへと広がっていくという価値観のギャップの狭間にいる世代が多い印象です。特に大企業では、経営陣が過去の成功体験を持っていて、若い世代が新しいことに挑戦しようとすると、リスクが大きく見えて止められてしまうケースがあると思います。山本さんと屋代さんは、いままでそういう面で悩んだことはありますか。

山本 悩んだことはないですね。そもそも従来のA&R(アーティスト・アンド・レパートリー)然としたことは、良くも悪くもあまり教わって来こなかったので、ある程度自分なりのやり方で、日々アップデートしながら進めているという感じです。

他の人の意見を参考にするかは、どれだけこの事象に対して時間を使って考えているかという軸をもとに判断します。まったく違う角度から来た意見には「なるほどな」と思うことももちろんあります。
 
ソニー・ミュージックエンタテインメント RED エージェント部ルームY チーフ
山本 秀哉 氏

徳力 たとえば、まだ自分に自信がないときに直感的にはAというやり方がいいと思っているけれど、上の人から「従来のBというやり方がいいのでは」と言われたときはどうしていますか。

山本 そのときは、1度その意見に従って、結果を見てみます。そこで合っているのか、外れているのかを判断することを積み重ねていくイメージです。小さなことでも一つひとつ知見にしようと思いながら仕事をしています。

屋代 私は幸いにも、あまり言われてこなかったのと、基本的に新規事業開発を求められる部署にいたので、人を傷つけたり誰かに迷惑かけたりしなければ、失敗してもいいし、それで成果が出たら素晴らしいという環境で取り組んでいます。
 
ソニー・ミュージックエンタテインメント
デジタルコンテンツ本部GSチーム プロデューサー
兼 RED エージェント部ルームY プロデューサー
屋代 陽平 氏

極論ですが、私は常に「やらなくてもいいことをやっている」という感覚なので、上の人から何か言われても、なにくそとも思わないですし、無理なら無理でいいと思っています。その中で、自分が正しいと思ったことに対しては、丁寧に話して理解してもらっています。

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