日本の広告最新事例を世界の潮流から読み解く #47

サッポロ「大人エレベーター」は、最高のコンテンツ。だが、ビールの広告としては疑問も

 

「飲んで酔って、ダメになる楽しさ」シズル感が満載の豪州ビール


 さて、では、「ビールを飲みたくなるテレビCM」だと筆者が感じた、海外事例をご紹介しましょう。2011年のカンヌ・ライオンズでフィルム部門ゴールドを受賞した豪州のビール「カールトンドラフト」のテレビCM「スローモー(slow mo)」です。


 そのテレビCMは、オペラを思わせる荘厳な音楽で始まります。ビジュアルは、カールトンドラフトと書かれたグラスに生ビールが注がれるシーンのスローモーション映像。朗々と歌い上げられるのは、「ノーマルスピードで人を見ると、だいたい酷いものだ。けれども、スローモーションで見るとかなりマシで、私は大きな声で歌いたくなる」といった歌詞になります。

 スローモーションが続く映像は、ダイニング・バーのようなところに集まる人々(酔っ払い)の“ダメな行動”を次々に描き出して行きます。的を目掛けて投じられたダーツの矢は、大きくはずれて壁に突きささります。他の男性にカメラが移ると、料理に塩を少々ふろうとして先端部分がはずれてしまい大量にかけてしまいます。別の男性は生ビールを飲もうとして上手く口に運べず、周囲の人に巻き散らかす醜態。ビリヤードで打たれた球は、台の反対側で手をエッジにかけていた男性の指に当たり、本気で痛がる始末です。

 今度は、お尻が見えてしまいそうなほどズボンがずり落ちながら椅子にドスンと座る男性がいます。洗面所で手を洗おうとして勢いよく出し過ぎた水がはねて股間を濡らしてしまう人。彼はハンドドライヤーで濡れてしまった股間を乾かそうとします。

 さらに、楽しそうに談笑する二人組。一人の口から小さな何かが飛び出して、相手の頬にぶつかります。スポーツ中継を見ているのか、盛り上がってビールを持ちながらジャンプする人々。3杯の生ビールを持った男はお盆ごとひっくり返してしまい、テーブルに座っている女性達の料理にぶちまけてしまいます。
 


 とにかく誰も彼もがカールトンドラフトで酔っ払って、徹底的にダメなのですが、でもみんな徹底的に楽しそうだし、どこか憎めず、微笑ましささえ感じます。

 一般に、その商品らしさのことを、広告界ではシズル感と呼びますが、このテレビCMでは、ビール製品のシズル感も、「飲んで酔って、ダメな状態になる楽しさ」というビールのもう1つのシズル感も、見事に描かれていて私自身はカールトンドラフトを(少なくてもビールを)飲みたいという気持ちを、強く感じました。

 筆者は、「直接的に売上に繋がらない広告はダメだ」とは、まったく思いません。むしろ、ファンを増やしたり、好感度を上げたりするブランディングに寄与する広告の重要さを訴え続けてきたつもりです。

 それでも、ファンづくりや好感度アップの中身を、もう一度考えてみたいと思わせられた事例でした。皆さんは、どんなふうに考えますか?
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