新着ニュース

新しい「マーケティングの定義」をどう読み解くか【特別寄稿:高広伯彦氏】

 

持続可能なビジネスを築くために不可欠なこと

 さて、2024年版の日本マーケティング協会による「マーケティングの定義」を見直そう。
 
 (マーケティングとは)顧客や社会と共に価値を創造し、その価値を広く浸透させることによって、ステークホルダーとの関係性を醸成し、より豊かで持続可能な社会を実現するための構想でありプロセスである。

注 1)主体は企業のみならず、個人や非営利組織等がなり得る。
注 2)関係性の醸成には、新たな価値創造のプロセスも含まれている。
注 3) 構想にはイニシアティブがイメージされており、戦略・仕組み・活動を含んでいる。

日本マーケティング協会による「マーケティングの定義」(2024年版)

 この定義の中には、「企業と顧客・社会は共に価値を創造する関係性(価値共創概念)」と「企業や組織だけでなく顧客もマーケティングの主体(顧客主導・相互作用性・資源統合)」が含まれているということに気づかれただろうか。

 つまり、新しい定義では、一方的な「価値」の「提供」というマーケティングの概念から、顧客(および社会やその他ステークホルダー)と共に「価値」を「創出」するという観点が盛り込まれている。そしてそのために関係性や相互作用をもって、持続可能な社会に向けたマーケティングとして定義づけられているのだろう。

 そして、私のようなサービス・ドミナント・ロジックに触れてきた者からすれば、日本マーケティング協会の定義するところのマーケティングが、グッズ・ドミナント・ロジックから、Vargo氏と Lusch氏の提示した要素を含んだ定義に変わったというように読める。

 デジタル化による社会・経済・生活者の変化は、マーケティングの方法論にも大きな影響を及ぼす。顧客データの分析、カスタマイズされたマーケティング戦略、顧客体験の向上を目指したイノベーションなどがますます重視されている。デジタル技術の発展は、今回のこの新しいマーケティングの定義をより“具体的な実践”として実現可能なものとしている。

 デジタル化された顧客情報、顧客の行動や趣味嗜好の解析、SNS上の投稿、各種ビッグデータ、AIなどのツールを活用することで、企業は顧客のニーズや行動をより深く理解し、個別化された体験を提供することができるようになっている。つまり、企業側と顧客双方の知識やケイパビリティをマッチングさせることで、最適な「資源統合」による「価値共創」が実現する可能性は高い。

 結論として、2024年版のマーケティングの定義は、従来のモノ中心のアプローチから脱却し、顧客との関係性、価値共創、体験を重視する方向へと大きく変化していることが明らかである。この変化は、マーケティングを取り巻く社会や技術の進化に呼応したものであり、今後もこの流れは加速していくことが予想される。

 企業や組織は、この新しいマーケティングの定義を理解し、単に製品やサービスを提供するだけではなく、また顧客を単なる製品やサービスの受け手として考えるのではなく、顧客との相互作用を通じて新しい価値を共創し、それを社会全体に広める役割が強調されている。このことが、持続可能なビジネスを築くために不可欠であると言える

高広伯彦氏の関連記事
 ※前編:「マーケティング=顧客中心主義」は間違い? サービス・ドミナントロジック視点から高広伯彦氏が「価値共創」を解き明かす

 ※後編:価値共創とは顧客との握手である。マーケターがサービス・ドミナントロジックを活かして価値共創を取り入れるには?【スケダチ 代表 高広伯彦氏】
他の連載記事:
新着ニュース の記事一覧

マーケターに役立つ最新情報をお知らせ

メールメールマガジン登録