TOP PLAYER INTERVIEW #62

チーターデジタルからキンドリルへ転職、加藤 希尊氏がキャリアで大事にしている原理原則

前回の記事:
外資系広告会社、Googleを経てDeNAライブ配信「Pococha」 CMOに就任。キャリア選択で考えた条件
 顧客エンゲージメントを高めるソリューションを提供するチーターデジタルで副社長 兼 CMOを務めていた加藤希尊氏が2024年1月、世界各国でITインフラサービスを提供するキンドリルの日本法人 キンドリルジャパンへ入社し、Vice President, CMOに就任した。加藤氏は、WPPグループやセールスフォース・ドットコムでマーケティングに携わり、業種業態を問わず豊富な経験を積んできた。「普遍的な原理原則に基づき、一貫したキャリアを形成してきた」と語る同氏に、キンドリルジャパン(以下、キンドリル)で成し遂げたいことやキャリアについての考え方、今後の展望について詳しく話を聞いた。
 

日本の社会課題を根本的に解決したい


―― 2024年1月1日からキンドリルに入社を決意した背景を教えてください。

 その背景を語るために、私のキャリアについて先に紹介しましょう。私はこれまで一貫して、社会課題や経営課題の解決を軸にキャリアを築いてきました。
 
キンドリルジャパン Vice President, CMO
加藤 希尊 氏

 広告代理店と広告主、B2CとB2B両方の経験を持つプロフェッショナルマーケター。外資系広告代理店(WPPグループ)に12年勤務し、2012年よりセールスフォース・ドットコムに参画。マーケティングオートメーションをはじめとした10以上のSaaSマーケティング製品の日本上陸を手がけ、2019年からはチーターデジタルの副社長 兼 CMOを務め、AIやクラウドを活用したロイヤルティマーケティングの実現を啓蒙する。 また、国内100社のブランドが参加するマーケティング責任者のネットワーク「CMO X」を創設し運営。著書にその成果をまとめた『はじめてのカスタマージャーニーマップワークショップ (翔泳社)と、『The Customer Journey「選ばれるブランド」になるマーケティングの新技法を大解説』(宣伝会議) がある。2024年より現職。

 私は大学でインターナショナルビジネスとマーケティングを専攻し、大学3年生の頃に学生起業家として小さな広告会社を創業しました。そこで2年ほど企業のマーケティングのプロモーション活動を支援し、2001年にWPPグループの電通ワンダーマン(現・ワンダーマントンプソン)へ入社し、12年ほど14業種にわたるさまざまなブランドのマーケティング支援に携わりました。企業が持続可能な成長を遂げるには、社会課題や経営課題の解決を通じて新規顧客を獲得し、顧客を成約し、既存顧客をリテンションしてビジネスを安定させていく必要があります。そのためのブランディングやキャンペーン、新商品のローンチなどの施策を手掛けてきました。

 その後、時代が変わり、顧客体験をアップデートできるデジタルツールが世の中に次々と登場しました。私は早くから「マーケターはデジタルトランスフォーメーションを推進し、新しい顧客体験に向き合う必要がある」と考えていました。そこで、2012年にセールスフォース・ドットコムが日本市場にBtoCクラウドプラットフォームをローンチすると聞き、私もそこに参画したいと手を挙げました。セールスフォースには約8年間在籍し、日本企業に変革の必要性を訴え、新しいテクノロジーで新しい時代のカスタマージャーニーの構築を支援しました。

 そして2019年に、チーターデジタルジャパンへ副社長 兼 CMOとして参画しました。転職のきっかけは創業者である投資家からオファーを受けたことでしたが、これも私のミッションである社会課題の解決に紐づいています。日本では近年、少子高齢化や消費者の買い控え、物価高などを背景に、どの企業も新規顧客の獲得が難しくなってきています。そのとき重要になるのは、顧客のロイヤリティを高めて、長期にわたり顧客との関係を維持することです。そうした考えのもと、チーターデジタルでは新しいロイヤルティ マーケティングやゼロパーティデータ活用を実現するSaaSソリューションを提供し、マーケットを切り拓いてきました。

 そして、私のキャリアは現在のキンドリルに至ります。キンドリルは、2021年9月にIBMのインフラサービス部門が独立して設立された世界各国でITインフラサービスを提供する会社です。「社会成長の生命線(The Heart of Progress)」というブランドアイディアのもと、インフラの構築や運用サービスを通して、世界中の企業や政府を支えています。世界60カ国以上で事業を展開し、社員数は約9万人に上ります。

 キンドリルの最大の資産は「人」です。私たちは、お客様とパートナーと共にイノベーションに取り組む「Kyndryl Vital」、デジタル化された運用サービス「Kyndryl Bridge」、アドバイザリーサービス「Kyndryl Consult」など、さまざまなサービスを提供しています。これらはすべて人によるサービスです。またキンドリル自身はハードウェアやソフトウェアなど物理的な製品を持たないため、数々のパートナー企業とアライアンスを組み協業して提供し、お客様の成功に貢献しています。
  

 キンドリルへも、これまでのキャリアと同様に「社会課題を解決したい」というミッションを持って入社しました。私は、日本の現状を「非常に危ない」と感じています。たとえば、経済産業省の「DXレポート」によれば、日本の多くの企業がデータを効果的に活用できておらず、ビジネスモデルを柔軟に変更できないことにより、デジタル競争の敗者になってしまうリスクが懸念されています。さらに、IT人材の不足が深刻で、2025年には約43万人の不足が予測されています。加えて、2025年には基幹システムとして広く導入されているSAP ERPのサポートが終了し、多くの企業がシステムの見直しを迫られる状況になっています。

 政府はこの問題を「2025年の崖」と呼び、1年間で最大12兆円の経済損失が生じる可能性があると警鐘を鳴らしています。これは、非常に大きな社会課題です。

 私は今まで、経営課題をマーケティングで解決する、もしくはマーケターの課題をデジタルツールで解決することに取り組んできました。しかし、それだけではこの大きな社会課題に対応しきれないと感じています。その過程でキンドリルとの縁が生まれ、その豊富なマンパワーを使ったサービスによって日本企業を土台からアップデートしていけば、日本が世界に突出した競争力を生み出していけるのではないかと考えました。

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