トップマーケター直伝 マーケティング用語解説 #02

DM(ダイレクトメール)とは? デジタル・DX時代の有効活用法 【トップマーケター直伝 マーケティング用語解説:青山商事株式会社 藤原尚也氏】

前回の記事:
CRMとは何か?データを活用した顧客体験の向上【トップマーケター直伝 マーケティング用語解説:GDO 志賀智之氏】
 マーケティングを取り巻く状況は、近年急激に変化している。本連載ではマーケティングを巡る重要キーワードについて、トップマーケターの独自の視点を交えながら、基礎からポイント解説していく。

 第2回のキーワードはマーケティングの必須アイテム「DM(ダイレクトメール)」。デジタルマーケティングのエキスパートであり、「全日本DM大賞」(日本郵便株式会社主催)の最終審査委員も務める青山商事 デジタルコミュニケーションヘッドオフィスゼネラルマネージャーの藤原尚也氏とともに、デジタル全盛時代に敢えて活用したいDMの可能性を探る。


出典:123RF
 
【目次】
1. ダイレクトメール(DM)とは?
2. DMのメリット
3. DMのデメリット
4. 効果的なDM送付のための工夫
5. 藤原尚也氏に聞くDX時代のDM
 

1.ダイレクトメール(DM)とは?


 郵送などの配送方法によって見込み顧客の元に直接届けられる手紙やチラシ、パンフレットなどの印刷物、またはその手法を指す。電子メールやSNS のダイレクトメッセージとは区別して、主に紙媒体のものを指すことが多い。

 DMの傾向は近年、以下のように変化してきた。

【コロナ禍前】顧客に開けてもらうためのインパクト重視
            ↓
【コロナ禍中】QRコードなどが掲載されたデジタル融合型が増加
            ↓
【コロナ禍後】デジタルとリアルを掛け合わせた複合型が増加

 なお、電通の「2023年 日本の広告費」(2024年2月27日発表)によると、2023年のDM市場は3103億円で前年比91.8%だった。コロナ禍の沈静化によって、DMが代替していた在宅向けやBtoB営業向けの需要が減少するとともに、印刷資材の高騰でより効果的なDMを求める動きが活発化したと分析している。一方、広告費には含まないが、DM制作関連市場は1115億円(前年比101.1%)で、データマーケティングやレスポンス測定のためのツールなど経費が増加した。
 
ワンポイント
コロナ禍を経て、DMは単に店舗に送客する装置ではなく、オンラインとオフラインの間をシームレスに送客し合い、利益を最大化するものとして注目されるようになってきました。たとえばアテンションでDM送付→QRコード経由でECサイトに誘導→アクションした人にメール送付→それでも購買に至らなかった人にさらにDMで「キャンペーン終了間近!」とお知らせする…といったような運用です。コロナ禍中に営業先を回れないBtoBビジネス事業者が、代わりにDMを使う例が増えたのも近年の特徴です。(藤原尚也氏)
 

2.DMのメリット

 
  • ターゲットを絞り込み、それぞれの属性や購買データに基づく情報を自宅やオフィスなどに直接届けることができる。
  • チラシ、カタログ、セールの告知や割引クーポンなどを同封し、ターゲットの行動につなげやすい。
  • 掲載した電話番号やQRコードなどへのアクセスを追跡することで、効果を測定できる。
 
ワンポイント
何よりも顧客の「滞在時間」を増やすことができます。メールやLINEが全盛の今、ポストに届くものはそれほど多くありません。メールは一瞬で閉じても、紙のカタログはたまにじっくり見たくなりますよね。紙でもお店でもWebサイトでも、滞在時間が長いほど客単価、コンバージョン率は高くなります。(藤原尚也氏)
 

3.DMのデメリット

 
  • コストと環境負荷:紙などの原材料費や印刷、配送代、クリエイティブにかかる人件費などのコストは、デジタルツールよりも高くなりがち。環境への配慮から、紙の削減を経営目標に掲げる企業も多い。
  • 個人情報利用への忌避:個人情報の取り扱いに関する規制や社会的関心が強まり、消費者が、自分が許可した覚えのない企業からの広告や、パーソナライズされ過ぎた情報提供を警戒する場合がある。
 
ワンポイント
コストがかかる分、費用対効果を意識しましょう。その点、DMは既存の優良顧客向けに絶大な効果を発揮します。たとえばスキンケア用品の顧客に「アンケートに答えてくれたらシャンプーの新商品をプレゼントします」というDMを送り、答えてもらえれば、顧客情報のみならず髪の悩みなども聞けて、単にプレゼントを配るだけの場合と比べてリターンが大きくなります。レスポンスをくれた人にはさらにメールやDMでリテンションして…と良い循環ができます。(藤原尚也氏)
 

4.効果的なDM送付のための工夫

 
  • ターゲットを絞る:顧客の属性や購買履歴、嗜好などを考慮してターゲットを絞り込む。既存の優良顧客に対して効果を発揮しやすい。
  • カスタマイズ:パーソナライズされた情報や特別感のあるオファー、特典を受け取ることでレスポンス率の上昇が見込める。
  • 明確な行動呼び掛け:顧客に対して、商品購入や店舗来店、ECサイト訪問、アンケートなど具体的に取ってほしい行動を明確に示す。あるいは、行動を促す仕掛けを施す。期間や数量に限定感を出すことで、より行動を促しやすくなる。
  • クリエイティブの工夫:開封・保存をしたくなるような魅力的なクリエイティブを目指す。ポイントカードやクーポン風にすることでリアル店舗への来店を促したり、QRコードからECサイトや、店舗スタッフとのチャット相談に誘導したりできるDMも登場している。
  • 送付タイミングの最適化:イベントやシーズンごとに送付するだけでなく、個別の顧客のアンケート回答内容やECサイトの行動履歴などと連動することで、より「かゆいところに手が届く」DMになる。
 
ワンポイント
意外と見落としがちなのが組織のあり方です。昔から通販をしている企業はDMとデジタル部門が別になっていることが多いですが、一緒にストーリーを作ってシームレスにお客さまとの関係を紡いでいけなければ、効果が上がりにくいでしょう。(藤原尚也氏)
 

5.藤原尚也氏に聞くDX時代のDM


 私が「全日本DM大賞」の最終審査委員になる前の事例ですが、全日本DM大賞で金賞グランプリに輝いた「ディノス・セシール」のDMは、ECサイトで商品をカートに入れて離脱した顧客のもとに、即座にDMが届くというもので、秀逸でした。

本質的にはDMでもデジタルでも、求められることは同じだと思います。クッキー規制によって、サイトを閲覧した人をトラッキングして広告やマーケティングに生かす従来の手法が通用しなくなる中、企業が顧客から直接得られるゼロパーティー、ファーストパーティーデータはとても貴重です。DMにしろデジタルにしろ、このデータを活用して、顧客とのコミュニケーションのタイミングと商品・サービスをどう組み合わせるか。複合的なマーケティングプランをつくれる人が求められています。それも単にDMやメールを見たお客さまをお店に送客するのではなく、たとえばスタッフとのチャットルームに飛んでいただいて、パーソナライズされた接客を受け、来店予約もしていただく、というような店舗体験とマージするOMOが重要です。

 既存顧客の重要性が増す中、MA(Marketing Automation)やレコメンデーションを担うデジタルツールがどんどん出てきます。当然ながらそれらは高い導入コストがかかる上に、導入してもマーケティングにうまく生かせない例が非常に多いです。ツールの導入ありきではなく、純粋に顧客が喜ぶコミュニケーションとは何か、その実現に向けてDMやメール・デジタルツールを組み合わせたマーケティングを考えるべきではないでしょうか。デジタルもDMも店舗も、本質的には同じです。複合的なマーケティングを検討してみてください。
 
 
藤原 尚也 氏
青山商事株式会社
デジタルコミュニケーションヘッドオフィスゼネラルマネージャー

  カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)でTSUTAYA店舗、ツタヤオンライン事業、DBマーケティング事業を立ち上げる。その後、外資系化粧品会社のデジタルマーケティング責任者を経て、独立。アクティブ合同会社CEOに就任。青山商事にて「洋服の青山」のデジタル戦略などを推進する。
 

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