TOP PLAYER INTERVIEW #63

KDDI 「au三太郎」新CM、生成AI活用という挑戦の先に見えた可能性

 

CMにおける生成AI活用の課題と可能性


――はじめて生成AIを活用したCMを制作するにあたり、戸惑うシーンもあったかと思います。実際に取り組む中で、どのような課題や発見がありましたか。

合澤 生成AIは、画像のつながりまでは理解できません。そのため同じシーンでも、au三太郎のメインキャラクターである桃ちゃん(桃太郎役の俳優 松田翔太)の衣装の柄やアクセサリーのデザインが変わってしまう、という出力の不安定さに直面していました。

生成AIはどんどん進化していくので、よりよいものを生み出そうと思えば永遠にアウトプットを出すことができます。テクノロジーの進化と並走して、何回もトライアンドエラーを繰り返す必要があることを学びました。
  

山中 これまでと同じように撮影してから制作するCMと違って仕上がりを想定できないので、その点は苦労しました。AIが映像を自動生成してくれて、効率化もしてくれるという先入観でいくと、やはりまだまだだと感じることも多かったです。

出力されたものをクリエイターが調整し、カット数を減らして見やすいようにするなどの工夫が必要でした。当社としてもCMに活用するのは初めてだったので、トライアンドエラーはかなり繰り返したと思います。

――今回の新たな挑戦から生成AIの活用の可能性をどのように感じましたか。

合澤 いずれはクリエイターがAIに置き換わるという言説もありますが、人間の感情に訴えるときには人間のクリエイターの存在が必要だと気づきました。AIは、新しい表現にチャレンジしたいときにたくさんのバリエーションを出すことは得意です。

たとえば、桃ちゃんひとりを描くにしても、60秒のCMの中で生成AIはさまざまな表情のパターンを生成し、着物の柄のバリエーションも豊富でした。これは生成AIの大きな可能性だと感じます。したがって、クリエイターがAIの特性を上手く生かしながら、これまでになかったクリエイティブを制作していくのがよいのだろうと思います。
  
  

山中 今回は、イラストレーターの松本ぼっくりさんとコラボして、松本さんのイラストを学習したAIを用いてクリエイティブを制作しました。具体的には、まず、過去のCM映像を編集して1秒24枚のフレーム(1枚1枚の静止画)に分解します。

一方、AIには松本さんが描かれた約200枚のさまざまなパターンのイラストを学習させ、分解したフレームをアニメーション画像に変換させます。最終的にAIが生成した画像を繋ぎ合わせ、映像コンテンツが完成しました。60秒のCMを制作するのに使ったフレームの数は、なんと1440枚にも及びます。

言い換えれば、松本ぼっくりさんのイラストの世界観をこのCMでも再現できたということになります。生成AIの使い方によっては、決してイラストレーターの職業を奪うことはせず、その人たちがさらに世の中に出ていくチャンスをつくることができるのではないかと感じました。

※後編「auが追求し続ける「おもしろさ」、顧客の体験価値を高める新時代のコミュニケーション戦略」に続く
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