TOP PLAYER INTERVIEW #64

auが追求し続ける「おもしろさ」、顧客の体験価値を高める新時代のコミュニケーション戦略

前回の記事:
KDDI 「au三太郎」新CM、生成AI活用という挑戦の先に見えた可能性
 2015年1月1日からKDDIがスタートしたau三太郎CMシリーズが今年で10年目を迎えた。CM総合研究所が発表する2023年度(2022年11月度から2023年10月度)の「CM好感度No.1ブランド」に選出(2023年度銘柄別CM好感度ランキング/BRAND OF THE YEAR 2023)され、史上初となる9年連続CM好感度No.1となった。そして2024年の年始には、新たな挑戦として生成AIを使ったCMを放映し、それと連動したUGC施策としてユーザーが今年やりたいことを入力すると、生成AIがそれぞれのMV(ミュージックビデオ)を生み出す「さぁ、何やる?メーカー」をリリースして話題となった。

 今回は、KDDI ブランド・コミュニケーション本部 コミュニケーションデザイン部 部長の合澤智子氏と、IMC推進室 室長の山中雅貴氏に取材を実施。前編では、新たなチャレンジの狙いや背景、取り組んでみて感じた課題、UGC施策からどのような可能性が見えたのかを紐解いた。後編では、KDDIが追求する顧客コミュニケーションのあり方を探るとともに、生成AIを活用したことで発見したポイントや、新しい技術との上手な関わり方、そして今後の展望について詳しく聞いた。
 
TVCM|au「さぁ、何やる?」篇
 

auが追求する、お客さまに身近でおもしろいコミュニケーション


――au三太郎シリーズは9年連続でCM好感度No.1を獲得し、愛され続けています。その理由をどのように捉えていますか。

合澤 お客さまにau三太郎シリーズを身近に感じていただけているのかなと思います。当社は、お客さまに一番身近に感じてもらえる企業を目指しています。これは、今回新たに挑戦したAIを活用するにあたっても常に意識していることです。
 
KDDI ブランド・コミュニケーション本部 コミュニケーションデザイン部 部長
合澤 智子 氏

 1999年、KDDI入社。プロダクト企画部、社長補佐、メディア・クリエイティブ企画室長などを経て、22年4月より現職。コミュニケーションデザイン部を統括し、現在に至る。

数十秒間のテレビCMは、ほとんどの人がぼーっと眺めることのほうが多い世界です。その中で我々は、お客さまに少しでも「おもしろい」と思ってもらうことを重視してCMや広告を制作しています。その点を評価していただけているのではないかと思います。

山中 9年連続でCM好感度No.1を獲得し続けられているのは、CMだけでなくリアルなイベントや楽曲との連動においてもお客さまと接点を持っているからだと思います。また、桃太郎という昔話をベースに次々と有名なキャラクターが登場し、ストーリーが展開されていくことで、親しみをもってドラマのように見てくださる人が多いとも感じています。その結果として、CMという枠を超えた人気を獲得できたのかなと思います。
  

――今年、広告やコミュニケーションに関連する部署の組織改編があったと伺いました。それによってどのような変化が起きていますか。

合澤 私の所属する部署は、もともと宣伝部でしたが、いまは改称して「コミュニケーションデザイン部」になっています。これまでマス中心だったコミュニケーションが双方化し、お客さまからの反応を見て気づけることが増えました。よりインタラクティブなコミュニケーションに変わっていっているという実感があります。

山中 当社のような通信業界は日用消費材と異なり、テレビCMを一発打てば購入(契約)数が伸びるということはありません。そのため、ブランド想起のためのコミュニケーションが重要だと考えています。常にお客さまの頭の中に長い間覚えてもらい、スマホを変えようと思ったタイミングで当社を思い出してもらえるようにしたいです。

そのためには、きちんとお客さまを理解して分析し、戦略を立てることが重要です。今年の組織改編以降は、そのための取り組みを強化していて、昨年よりもよりよいコミュニケーションが少しずつできていると思います。
 
KDDI ブランド・コミュニケーション本部 コミュニケーションデザイン部 IMC推進室 室長
山中 雅貴 氏

 ブランドマネジメント、販売促進等の業務を経て、コミュニケーション戦略立案やPR企画、データ分析等の統合マーケティングコミュニケーションの現業務に従事。

――今後のコミュニケーションは、どのように展開されるのでしょうか。また、生成AIを活用したCMを展開する予定はありますか。

山中 今回、生成AIを広告に使えることがわかったので、今後もお客さまの体験価値を上げる目的のためには活用していきたいと思います。ただ、AIを使うこと自体を目的にはしません。

今回の「さぁ、何やる?メーカー」の施策も、生成AIを使うことではなく、オリジナルのMVや歌声をハイクオリティで生み出せることがお客さまの体験価値を高めています。お客さまに楽しんでもらう手段として生成AIが活用できるのであれば、今後も継続するべきだと考えています。

合澤 当社のブランドスローガンである「おもしろいほうの未来へ。」を体現するコミュニケーションを続けていきます。ここでの「未来」は想像もつかない10年後ではなく、明日や明後日といった「身近な未来」を指します。そういった身近な未来を伝えるコミュニケーションができると、お客さまにも共感していただけるのではないかという想いがあります。変わり続ける時代の中で、我々が生み出すコミュニケーションが一歩先の未来をお見せできたらいいですね。
  

――KDDIが大事にしている「おもしろい」というキーワードについて、社内ではどのように捉えられていて、どのようにCMなどのクリエイティブにつなげているのでしょうか。

山中 「おもしろい」という言葉にはさまざまな意味があるので、ひと言では表せません。お笑い的なおもしろさもあれば、未来への期待でわくわくするようなおもしろさもあります。明確な正解はなく、施策やサービスごとに定義しています。

合澤 「おもしろい」とは何か。これを考えると禅問答みたいになりそうですよね。現代の多様性がある世の中では、その人の背景やカルチャーによって定義は異なります。そのため、映画のタイアップやその他のいろいろな接点をつくり、テレビCMだけではリーチできない人にも届くように工夫する必要があります。画一的な「おもしろい」だけでは不十分で、多様な「おもしろさ」に寄り添っていかなければいけないと思っています。

山中 たとえば、調査やデータによっては、Z世代と40代に響くものにどのような違いがあるかを見ています。そこで反応がよかった広告や施策を続けるということは重要だと考えています。
  

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