広報・PR #15

大谷翔平選手の専属通訳・水原氏問題、ドジャースに求められる3つの対応

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事件の概要となりゆき


 メジャーリーグベースボールのロサンゼルス・ドジャース所属の大谷翔平選手の通訳であった水原一平氏が、違法賭博に関与した疑惑が浮上しました。当初、水原氏は借金を大谷選手に肩代わりしてもらったと述べていましたが、後にこの発言を撤回しました。

 3月25日(日本時間26日)、大谷選手はドジャーススタジアムで事件発覚後初めて記者会見を行い、大谷自身の口座から水原氏にお金を盗まれたと説明し、賭博行為やブックメーカーへの送金についての関与を全面的に否定しました。大谷選手は、水原氏の賭博や借金について開幕戦後に初めて把握したと述べています。
 

世間の反応、メディアの反応


 この問題は、メディアによって広く報道され、スポーツファンのみならず、一般市民の間でも大きな関心を集めています。多くの人々が大谷選手のコメントを待ち望んでおり、ドジャースの対応を注視しています。

 一方で、水原氏の行動に対する批判や、大谷選手を擁護する声も見られます。SNS上では多くの憶測や意見が飛び交い、一部では根拠のない噂も流れるなど、情報が錯綜している状態です。また、この問題を契機に、スポーツ界全体におけるギャンブルの問題が改めて注目を集めています。
  
 

ドジャースの広報対応と課題


 事件発覚直後、ドジャースは水原氏の契約解除を発表し、事態の収集に努めていることを明らかにしました。しかし、その後の公式見解では「現時点ではこれ以上のコメントはない」との立場を繰り返すのみで、具体的な解雇理由や事実関係については詳細を明らかにしていません。ドジャースの広報対応は、情報開示の迅速さと一定の透明性において評価されますが、詳細情報の不足や、球団側の責任追及への対応、水原氏への配慮については批判もあります。

 今回の事案では、ドジャースの広報に事実関係の解明とプライバシー保護のバランス、世界的スター選手のイメージ管理、違法行為への対応など、様々な要素を考慮した適切な情報発信が求められています。

 特に、大谷選手は球団の顔とも言えるスター選手であり、彼のイメージダウンは球団にとっても大きな痛手となります。こうした複雑な事情を踏まえつつ、適切な広報戦略を立てることが、ドジャース広報にとって大きな課題となっています。
  
 

日米における広報対応の違い


 日本のスポーツ業界では、組織や個人の「名誉」や「面子」を重視する傾向が強く、問題が発生したときに、関係者の処分や詳細な情報公開に慎重になる場合があります。

 一方で、米国では、問題発生時の徹底的な情報公開と責任追及が求められる傾向にあります。

 ドジャースは、米国を本拠地とする球団として、日本の文化的文脈を理解しつつも、透明性と説明責任を重視する姿勢を示す必要があるでしょう。特に問題を隠蔽するのではなく、積極的に情報を公開し、責任を明確にすることが、米国の文化では組織の信頼を守ることにつながるのです。
 

危機管理広報における「防衛ライン」の重要性


 危機管理広報においては様々な戦術や戦略が存在しますが、私の経験上、最も重要なのは「防衛ライン」を明確に定めることです。防衛ラインとは、簡単にいえば、「最終的に何を守りたいか」という危機管理対応の根本的な目的です。

 組織であれば、「長期的な信頼」がその一例です。ときには「一時的な売上」「社員の名誉」「株価」などを犠牲にせざるを得ない状況もありますが、これらは「防衛ライン」を守るための選択のひとつと考えるべきです。この「防衛ライン」を誤って定めた場合、組織は非常に大きなダメージを受けることになります。
 

ドジャースにとっての「防衛ライン」とは


 ではドジャースにとって、この危機における「防衛ライン」は何に当たるでしょうか。それは、私のこれまでの経験上から「球団の長期的な信頼と評判」であると考えられます。

 現在、大谷選手は球団の顔であり、彼の評判は球団の評判と直結しています。また、ドジャースは名門球団として長い歴史を誇り、ファンからの信頼も厚いです。この信頼を損なうことは、短期的な問題への対処よりも大きな損失をもたらす可能性があります。

 したがって、ドジャースは「大谷選手の評判を守ること」「球団の誠実さを示すこと」を最優先し、それを実現するための情報公開や再発防止策に注力すべきでしょう。ときには個人の責任追及よりも、組織としての責任を果たすことを選択する必要があるかもしれません。ドジャースの広報は、長期的視点に立ち「球団としての信頼と評判」を守ることこそが、この危機を乗り越える鍵となるはずです。

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