新時代のエンタメ舞台裏~ヒットにつなげる旗手たち~ #05
目指すは「DRAGON BALL」超え 集英社「少年ジャンプ+」が実現する究極のUGCと価値共創
日本の音楽・映画・ゲーム・マンガ・アニメなどのエンタメコンテンツが、世界から注目されることが多くなった昨今。そうしたヒットコンテンツの舞台裏で活躍する旗手たちの思考をnoteプロデューサー/ブロガーの徳力基彦氏が、解き明かしていく新連載「新時代のエンタメ舞台裏~ヒットにつなげる旗手たち~」の第2回は、集英社のマンガ誌アプリ「少年ジャンプ+」(以下「ジャンプ+」)を取り上げる。
前編では、多くの紙媒体が苦戦する中でマンガがデジタル化に成功している要因や、「初回全話無料」といったサービス誕生の背景を、「ジャンプ+」副編集長の籾山悠太氏に解説してもらった。後編は「切り抜き」機能など、従来の枠を超えたUGC(ユーザー生成コンテンツ)施策で読者を広げていく「ジャンプ+」の戦略に迫る。
『SPY×FAMILY』などオリジナルのヒット作を生み続ける「ジャンプ+」。籾山氏は「『DRAGON BALL』のような大ヒット作品を生みたい」と語る。
前編では、多くの紙媒体が苦戦する中でマンガがデジタル化に成功している要因や、「初回全話無料」といったサービス誕生の背景を、「ジャンプ+」副編集長の籾山悠太氏に解説してもらった。後編は「切り抜き」機能など、従来の枠を超えたUGC(ユーザー生成コンテンツ)施策で読者を広げていく「ジャンプ+」の戦略に迫る。
『SPY×FAMILY』などオリジナルのヒット作を生み続ける「ジャンプ+」。籾山氏は「『DRAGON BALL』のような大ヒット作品を生みたい」と語る。
頂上が変わる? デジタル発で海外も席巻
徳力 前編でもお話ししたように、私は「漫画村」(海賊版ビューアーサイト)のような騒動を残念に思う一方、これを機にマンガ業界が一気にクローズドになってしまうのではと心配しました。
それだけに、「ジャンプ+」の「初回全話無料」サービスや、Web上でリンクを踏めばアプリがなくてもそのまま読めるといった開放感は衝撃だったのです。2021年に「ジャンプ+」で公開された『ルックバック』(『チェンソーマン』作者の藤本タツキ氏の読み切りマンガ。2024年に劇場アニメ公開発表)がX(旧Twitter)でバズっているのを見た時、何気なくリンクを押したら全部読めてしまって。それまでマンガの電子書籍は課金しないと読めないと思い込んでいたので驚きました。「ジャンプ+」の読者を増やす意図の仕掛けなのでしょうか?
籾山 確かに、SNS上のリンクからアプリに飛ばざるを得なくした方が、アプリが浸透しやすいのではないか、といった議論や試行錯誤はあったと記憶しています。ただ、基本的には話題になったものが手軽に読め、SNSからも新しい読者が増えていく循環をつくりたいというのが優先され、今はその方針で落ち着いていますね。
少年ジャンプ+副編集長
籾山 悠太 氏
籾山 悠太 氏
徳力 以前、トップマーケターとして名高い足立光さんが「ビジネスマンたるものトレンドを知るには『少年ジャンプ』くらい読まないとだめだ」とお話になったことをnoteで書いたとき、読者から「徳力さん、今は『ジャンプ+』がメインだ」とコメントされたことがあります。
実際、読んでみるとめちゃくちゃ面白い。私はまだ、マンガというと紙媒体がメインと思っていたのですが、若い世代にとっては頂上が変わろうとしていると感じます。いい作品が集まるようになったという手応えはどのあたりから感じましたか?
籾山 一歩一歩進んできたという印象です。藤本タツキ先生が2016年から連載を始めた『ファイアパンチ』がインターネットを中心に話題を集めて以降、「ジャンプ+」にマンガを持ち込みたいという作家が増え始めました。2019年に始まった『SPY×FAMILY』はさらに大きな転換点となったと思います。
最初は新しい連載をデジタルから始めたいという作家さんも編集者も、読者もそこまで多くなくて、創刊と同時に利用者が自由にオリジナルマンガを投稿・公開できる「ジャンプルーキー!」の募集を開始しました。受賞すると「週刊少年ジャンプ」や「少年ジャンプ+」に掲載を確約するという「ルーキー賞」もつくりました。当初から、編集者としてゼロからデジタル出身の作家を育てたいという思いがあったこともありましたが、必要に迫られてという面も強かったですね。
徳力 「ジャンプ+」として新しい作家さんを発掘して、育てていくサイクルが既に10年前から回っていたわけですね。「ジャンプ+」連載作品は海外でも人気で、投稿サービスも展開されていますよね。
note noteプロデューサー/ブロガー
徳力 基彦 氏
徳力 基彦 氏
籾山 海外では2000年代に『NARUTO―ナルトー』の人気が爆発し、2010年代はcrunchyrollやNetflixなどを通して日本アニメを見てマンガも好きになった人が増え、コロナ禍でさらに拍車がかかった印象です。日本で数年前に連載された作品ではなく、新連載や最新話を日本と同じタイミングで読みたいというニーズも増えました。これまでは、現地の出版社から「このマンガを売りたい」とオファーをもらって、ライセンス展開するのが一般的だったのですが、2019年からは「ジャンプ+」の海外版のように、日本と同時に最新話を読めるマンガ誌・Webサービス「MANGA Plus by SHUEISHA」というサービスを始めています。
@SHUEISHA Inc.All rights reserved
※MANGA Plus by SHUEISHA:少年ジャンプ+編集部が運営するマンガ雑誌アプリ・WEB サービス。2019 年 1 月に開始。連載作品の最新話を日本と同時に、多言語(2024 年 3 月現在、英語・スペイン語・タイ語・ポルトガル語・インドネシア語・ ロシア語・フランス語・ベトナム語、ドイツ語の9言語)、全世界(※日本・中国・韓国は除く)で公開。 「週刊少年ジャンプ」と「少年ジャンプ+」、「ジャンプSQ.」「週刊ヤングジャンプ」などの連載作品の最新話を更新している。
現在、MAU(マンスリーアクティブユーザー)は600万を超え、「ジャンプ+」連載作品では日本の単行本の部数より海外の部数の方が多くなるというケースが続出しています。海外読者の増加にはさまざまな背景がありますが、日本での「ジャンプ+」の展開と同じように、まだ無名の作品でも無料で連載する中でどんどん知っていってもらっているのがひとつの要因かなと考えます。
海外クリエイター向けのマンガ投稿・公開プラットフォーム「MANGA Plus Creators by SHUEISHA」は2022年に始めました。海外作家の募集自体は、2018年の「週刊少年ジャンプ」創刊50周年や、2021年の「第100回手塚賞」などでやったことはあるのですが、やはり言語の壁がありコミュニケーションが難しくて。投稿サービスの運営もリスクや気遣うべき点があり、海外版「ルーキー!」はようやく環境が整ってスタートできたというところです。
徳力 「コミック」ではなく「MANGA」という単語の検索が明らかに増えているのは、間違いなく集英社さんのおかげでもあるのでしょうね。