TOP PLAYER INTERVIEW #67
AdobeからVisaへ転職、里村明洋氏が志す「行動変容」へのチャレンジ
多種多様な決済サービスが乱立し、私たちのお金の使い方は刻一刻と変化している。そんな中、世界最大手の決済ブランド「Visa」の日本法人にあたるビザ・ワールドワイド・ジャパンのマーケティングのヘッドに2024年1月、クリエイティブやマーケティングツールを提供するアドビで マーケティング本部 常務執行役員 兼 CMOを務めた里村明洋氏が新たに就任した。
新卒でP&Gに入社し、営業からブランド戦略まで幅広く経験するという同社では異色のキャリアを歩んだ後、Google、Adobeといずれも世界的な大企業の日本法人でマーケティングを率いてきた里村氏が、次の挑戦の場所としてファイナンスのトップブランドを選んだのはなぜなのか。前編の今回は同氏の転職背景と、Visaで取り組もうとしているマーケティングの課題を聞いた。
新卒でP&Gに入社し、営業からブランド戦略まで幅広く経験するという同社では異色のキャリアを歩んだ後、Google、Adobeといずれも世界的な大企業の日本法人でマーケティングを率いてきた里村氏が、次の挑戦の場所としてファイナンスのトップブランドを選んだのはなぜなのか。前編の今回は同氏の転職背景と、Visaで取り組もうとしているマーケティングの課題を聞いた。
「経験していない業種」求める
―― これまで多様な業種でマーケティングをけん引されてきた里村さんがVisaに転職されたのはなぜですか。
チャレンジがあってこそ発見や学びがあり、自分が成長していけると思います。「経験していない業界である」ことは大きな転職理由のひとつでした。これまで経験したP&GやGoogle、Adobeには、それぞれ約5~8年ずつ在籍したのですが、そのインダストリーについて分かってきて、オペレーションを回していけるようになる一方、どうしても新しい学びが薄れてくる感覚がありました。社内外で新しいオポチュニティーを探していたところ、Visaでのチャレンジが面白そうだと思ったのです。
と言うのも、日本のファイナンシャル業界は、フィンテック含めてペイメントのプレイヤーが増えていて、変革しているタイミングです。また、キャッシュレスやタッチ決済といったキーワードを中心に、人々の行動変容が起きている領域です。そこに私自身が一番興味をそそられます。Visaの行動によって業界が変わり得る。そこに自分がいたら、新しいことを経験できるしインパクトもすごく大きく、やりがいがあると思いました。
ビザ・ワールドワイド・ジャパン Marketing, Vice President
里村 明洋 氏
兵庫県尼崎市出身。慶應義塾大学総合政策学部卒業。新卒でP&Gに入社し、日本とシンガポールにて営業から営業戦略やブランド戦略、コンセプトや広告開発などに従事。Google転職後はプラットフォーム、ハードウェア、ソフトウェアなどの多岐にわたるマーケティングを統括。2019年にAdobeに転職し、2020年12月よりマーケティング本部常務執行役員/シニアディレクターを務める。2024年1月からVisaにジョインし現職。
里村 明洋 氏
兵庫県尼崎市出身。慶應義塾大学総合政策学部卒業。新卒でP&Gに入社し、日本とシンガポールにて営業から営業戦略やブランド戦略、コンセプトや広告開発などに従事。Google転職後はプラットフォーム、ハードウェア、ソフトウェアなどの多岐にわたるマーケティングを統括。2019年にAdobeに転職し、2020年12月よりマーケティング本部常務執行役員/シニアディレクターを務める。2024年1月からVisaにジョインし現職。
業種が変わると、企業の中でのマーケティングの役割や、方法も変わります。最初はP&Gで洗剤などのコンシューマーグッズを扱いましたが、洗剤は汚れを落とすもの。ものによっては香りが付くけれど、ベネフィット自体は差がつきにくい中で、どう戦うかが問われました。その後のGoogleはIT業界と一口にいってもアプリやプラットフォームなどさまざまなカテゴリーがあり、Adobeはプロフェッショナルツールの会社だったので、それぞれで意義深いラーニングができました。
キャリアに関してはP&G時代の先輩にアドバイスしてもらったことで、印象に残っていることがあります。「業種と職種と場所の3つのうち、2つ以上変えてしまうと自分の経験値が発揮しにくい」ということです。僕の場合、職種はマーケ、場所は日本。あとは業種を変えていこうというのを、ひとつのクライテリア(指標)と考えていました。
―― キャッシュレスやタッチ決済の領域では、今どんな課題があるのでしょうか。その中でVisaが目指すのはどんなことですか。
日本はキャッシュレス普及が、欧米やシンガポールなどアジア各国と比べても遅いんですね。金額ベースでは個人消費全体の40%程度で、6割はまだ現金決済ということです。
本来、キャッシュレス化したほうがコスト面でもメリットがあり、人為的なミスも防げます。何より、現金と違ってデータで所有者に紐づけられてセキュアですし、そのデータをさまざまな形で利活用することが可能です。また、キャッシュレス化によって消費の活性化も促されること、また、今まで現金しか使えなかったところで、キャッシュレス決済ができると、インバウンド消費の増加にもつながります。キャッシュレス化の推進は社会的意義が大きい事業なのです。
しかし日本では、特に少額の支払いでは現金を使う習慣がなかなか根強いです。数万円の買い物はクレジットカードを利用するけれど、100円なら小銭で払ったほうが手軽な感覚をお持ちの方も多くいらっしゃると思います。そこでVisaでの私のミッションは「日本のキャッシュレスを推進すること」。それは人々に、少額からキャッシュレスを利用してもらうという行動変容まで含めてです。
上白石萌歌さんの広告でおなじみの「Visaのタッチ決済」も、使えなければ意味がない。現在はスーパー、コンビニ、ドラッグストアやディスカウントストア、公共交通機関を含めタッチ決済が普及してきていて、環境が整ってきました。だからこそ今、推進を加速することが重要です。
※Visaのタッチ決済
レジにあるリーダーに対応するVisaクジレットカードやデビットカードをタッチするだけで、サインや暗証番号も不要(金額によっては必要)なままスピーディーに支払い完了できるサービス。タッチ決済対応マークのある店舗ではスマートフォンやウェアラブル端末でのタッチ決済も可能。