TOP PLAYER INTERVIEW #67
AdobeからVisaへ転職、里村明洋氏が志す「行動変容」へのチャレンジ
変わらないマーケティングの本質
―― 里村さんがこれまで培ったマーケティングの知見は、Visaではどのように落とし込まれていくのでしょうか。
業種を問わず、マーケティングの本質として変わらないのは、人々の態度変容を促すために、ユーザーの本当のインサイトを見つけ出すことです。人の行動は無意識に習慣化してしまっているものも多い。たとえばタッチ決済について、利用するかどうかの意向をアンケートなどでユーザーに聞いたら、多くの人は「便利だったら使う」と答えるでしょう。でも、実際はそれほど使われていない。そこには「本当に安全なのかな」という不安や、マジョリティが使っている安心感がほしいといったインサイト、あるいは「かっこいいと思われるなら使いたい」という欲求が隠れているかもしれません。これらのインサイトをしっかり理解して、刺激することで行動を変えることができるのです。
また、私がこれまで経験した業界はBtoB、BtoC、そしてBtoBtoCなど多様です。P&Gはto Cと思われがちですが、売り先は小売店さんで、彼らにとって何があればお客さまに売りやすいかを考えました。Adobeはプロフェッショナルツールをクリエイターさんや法人に売るto B企業で、ここではいわゆるリード獲得やナーチャリング、商材に対して顧客の理解を深めてもらうことが重要でした。Visaの場合は、全部なんです。イシュアと呼ばれるカード発行会社や、アクワイアラ(ブランドのライセンスを取得して加盟店を開拓したり管理したりする機関)、加盟店といったパートナーがおり、私たちはさまざまな形で彼らと組んで、その企業がコンシューマーに対してモノを売りやすくするための支援をします。ここでは、これまでの経験を全部生かせると思います。
―― 里村さんの視点では、Visaが取り組むべきマーケティング課題をどのように捉えていますか。
私が入る以前から進んでいたVisaのタッチ決済を促すキャンペーンによって、タッチ決済自体はだいぶ浸透してきたと思います。従来の「Visa」のイメージは、世界で使えるクレジットカードという印象を持つ方も多かったと思うのですが、このキャンペーンは、もう少し楽しい身近なストーリーによって、コンビニなどの日常利用での買い物などで毎日気軽に使ってもらうようなイメージがつくれてきました。
出典:Visa 2024年3月21日リリース「北海道中央バスの空港連絡バス等でクレジットカードやデビットカード等のタッチ決済による乗車サービスを開始」
公共交通機関とのパートナーマーケティングも、キャッシュレス推進の象徴的な取り組みです。改札でVisaをピッとタッチするだけで、電車に乗れるようになります。すでに東急電鉄や京王電鉄など全国の鉄道会社とのパートナー化が進んでおり、日本全国で、鉄道や電車やバスなどさまざまな公共交通機関で利用できるようになってきています。観光客の多い地域でもあるので、インバウンドのユーザーにとっても大きな価値を提供できるし、その旺盛な消費意欲を掻き立てることもできます。ここでもさまざまなパートナーさんと協働しており、Visaが率先して認知を広げていくなどリードすることで、「人々が毎日タッチ決済を使う」という行動変容に近づけていると思います。新任のマーケティング本部長としては、まずこれらの施策の加速を目指しています。
それと同時に、目下私が取り組んでいるのが「ビジョン」の策定です。もちろん、顧客を増やすとかアクティベーションの率を増やすといったKPI的な目標はあります。ただ、たとえば「タッチ決済の普及率を増やしたい」という時に、単に数字を追うのではなく、それによってどんなことが実現されるかということを考える必要があります。 「タッチ決済を推進します」と言っても響かないけど、「支払いはVisaで、と楽しく言ってもらえる世界をつくる」と言われると、イメージが変わりますよね。あるいは「支払いはVisaで、と言うことでスマートな買い物客と思ってもらえる世界をつくる」なら、また違います。今まさに、タッチ決済を増やすための大きな機会はどこにあるかを探し、こういう世界を目指すというビジョンをつくろうとしています。ビジョンが定まるとインスピレーションが広がり、実現のための具体的なアクションも見えてくるはずです。そしてリソースとしてどれだけの人やお金を注ぎ込めば、Visaとしてインパクトを達成できるか。その全体像を描くために、私自身、まだ理解しきれていない部分があるので、試行錯誤を重ねて、さまざまな方とお話ししながら勉強していっているところです。
※後編 Visaに転職の里村明洋氏がマーケティングで重視する「ビジョン」と「正直に個性を出す」キャリア観 に続く
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