TOP PLAYER INTERVIEW #68
Visaに転職の里村明洋氏がマーケティングで重視する「ビジョン」と「正直に個性を出す」キャリア観
多種多様な決済サービスが乱立し、私たちのお金の使い方は刻一刻と変化している。そんな中、世界最大手の決済ブランド「Visa」の日本法人にあたるビザ・ワールドワイド・ジャパンのマーケティングのヘッドに2024年1月、クリエイティブやマーケティングツールを提供するアドビで マーケティング本部 常務執行役員 兼 CMOを務めた里村明洋氏が新たに就任した。
Agenda noteではインタビューを実施し、その意義を深掘り。前編ではP&G、Google、Adobeと、いずれも異業種のグローバル企業を経て、さらなるチャレンジを求める里村氏の転職背景やVisaにおける課題観を聞いた。後編の今回は、里村氏が重視するマーケティングにおける「ビジョン」の策定や外資系企業における役割、さらには「個性」を前面に打ち出した独自のキャリア観に迫った。
Agenda noteではインタビューを実施し、その意義を深掘り。前編ではP&G、Google、Adobeと、いずれも異業種のグローバル企業を経て、さらなるチャレンジを求める里村氏の転職背景やVisaにおける課題観を聞いた。後編の今回は、里村氏が重視するマーケティングにおける「ビジョン」の策定や外資系企業における役割、さらには「個性」を前面に打ち出した独自のキャリア観に迫った。
マーケティング・ビジョンとローカライズの重要性
―― 業種に限らず、マーケティングにおいてKPI的な目標とは別に、より大きな「ビジョン」が重要というお話でした。「ビジョン」についてもう少し教えてください。
ビジョンには課題設定がとても重要で、マーケターにとって物事を進めるうえで非常に大切な要素です。たとえば「靴を売りたい」という時に、「売るためにどうするか」ではなく、「走ることがもっと楽しい」と思ってもらうにはどんなことをしたらいいかと考えたら、どうでしょう。施策が全然、変わってきますよね。ユーザーから見たバリューやベネフィットをしっかりと課題設定して、ある種の「再定義」をしないと、インスピレーションやアイデアは生まれにくくなります。
ペイメントにしても、Visaを使ってどんなことを感じてほしいか、考えるのがマーケターの仕事です。ユーザーによっては「スマートな人と思ってもらいたい」かもしれないし、学生なら「大人の仲間入り」と言う価値があるかもしれない。マーケティングとはどういうことを目指していて、そのために何をしているのか、誰もが思い浮かべられるようなビジョンが必要なのです。
ただ、その重要性を感じ取れない人もいて、それは日々のマーケティング活動の中で発信し、具体的に示していくしかないと思っています。チームメンバー全員にビジョンが浸透し、目指している世界観を実現するために日々動いていくのが理想です。マーケティングのビジョンというのは、社内はもちろん、社外のパートナーや、社会に対するメッセージでもあるのです。
ビザ・ワールドワイド・ジャパン Marketing, Vice President
里村 明洋 氏
兵庫県尼崎市出身。慶應義塾大学総合政策学部卒業。新卒でP&Gに入社し、日本とシンガポールにて営業から営業戦略やブランド戦略、コンセプトや広告開発などに従事。Google転職後はプラットフォーム、ハードウェア、ソフトウェアなどの多岐にわたるマーケティングを統括。2019年にAdobeに転職し、2020年12月よりマーケティング本部常務執行役員 兼 CMO を務める。2024年1月からVisaにジョインし現職。
里村 明洋 氏
兵庫県尼崎市出身。慶應義塾大学総合政策学部卒業。新卒でP&Gに入社し、日本とシンガポールにて営業から営業戦略やブランド戦略、コンセプトや広告開発などに従事。Google転職後はプラットフォーム、ハードウェア、ソフトウェアなどの多岐にわたるマーケティングを統括。2019年にAdobeに転職し、2020年12月よりマーケティング本部常務執行役員 兼 CMO を務める。2024年1月からVisaにジョインし現職。
――ビジョンを策定するにはどんなことが必要なのですか。
ユーザーと会うこと。これしかありません。アイデアのつくり方には決まったやり方はありませんが、私の場合はいろんな人や情報を触れていることで出てきます。前職のAdobeでは、何人ものクリエイターに会いに行ってインタビューしました。話していくとみんな、クリエイティブってワクワクするとか、自分が楽しくて心躍るんだという風におっしゃるんです。そうしているうちに「心躍るようなデジタル体験を提供しよう」というイメージが湧いてきて、社内でのディスカッションを経て「心、おどる、デジタル」というビジョンの策定に至ったのです。
マーケティングで「顧客体験」や「価値共創」といった言葉は、みんなどこかで聞いたことありますよね。だけど「心、おどる、デジタル」はユニークです。ペイメントにしても、たとえばレストランで「支払いはカードで」と、カードを出す瞬間とか、あるいはレジで後ろに列ができているのに現金で払おうとしてまごついてしまった時とか。そういう瞬間に、Visaが提供できるユニークな価値が宿っているし、実現できる世界があるはずなのです。そういったインスピレーションは、社内でデータだけ見ていても出てきません。特にペイメントの業界は多様なユーザー、パートナーさん、プレーヤーがいるので、もっと外に出て行って、今後ターゲットになるだろう方々に会っていきたいと思っています。なかなか「言うは易し、行うは難し」なのですけれど。
―― 外資系であるVisaにはグローバルレベルのマーケティングビジョンもあると思いますが、日本法人として独自のものが必要なのですか。
外資系の大手企業の中には、タレントだけ変えて同じフォーマットのテレビCMやプロモーションをすることもあります。しかし実際は、カルチャーに合わせてローカライズする必要があるかどうかは、会社や業界によって違います。Visaの場合、日本でのマーケティングは日本独自にやらないと上手くいかないという、ある種のリスペクトを持って任せてくれていると思います。
実際、米国をはじめ全世界で利用率の高いデビットカードですが、日本においては、まだまだ世界レベルとは異なります。データからも、日本独自の戦略を練るべきなのは明らかなのです。これは、決済という誰もが当たり前に使う、生活に根差した領域の商材だからこそだと思います。ローカルのインサイトや生活習慣を理解しないとなかなか変われない、使ってもらえないというカテゴリーなのです。
私僕自身、カードやスマホでキャッシュレス決済をする中で毎日、ペイメントについて考えます。生活に根ざしている部分に影響を与えていくというのは、やりがいを感じますね。