TOP PLAYER INTERVIEW #69

人気ゲーム『桃鉄』学校への無償提供でα世代を取り込む、累計販売本数400万本突破に隠されたマーケティング戦略

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 コナミデジタルエンタテインメントの代表作『桃太郎電鉄』シリーズ。1988年に第1作目が発売以降、35年以上にわたって多くのシリーズが発売され、日本中の多くの子どもたちがプレイし、国民的ゲームと言われるまでに普及している。

 2023年に同社は、累計販売本数(ダウンロード含む)が400万本を突破した通算23作目の『桃太郎電鉄 ~昭和 平成 令和も定番!~』に学習機能を追加した『桃太郎電鉄 教育版Lite~日本っておもしろい!~』をリリース。学校の授業で活用できるようにWebブラウザやタブレットなどでプレーできる仕様で、実際に学校教育機関に無償提供を行っている。この取り組みの背景や意図、マーケティング視点での狙い、効果などについて、同社シニアプロデューサーの岡村憲明氏に詳しく聞いた。
 

長期的な視座から始まった『桃鉄 教育版』


「北海道の苫小牧にゴールできた!」「決算で1億円の収益が出た!」など子どもたちの歓声が上がる。家庭用ゲーム機を楽しむ子どもの声に聞こえるが、これは学校の教室のワンシーンになる。

 2023年にスタートした『桃太郎電鉄 教育版Lite~日本っておもしろい!~(以下、桃鉄教育版)』の取り組みは、“教育界のノーベル賞”と称される「Global Teacher Prize 2019(グローバル・ティーチャー賞)」にノミネートされたこともある、立命館小学校の正頭英和教諭からの提案で始まった。岡村氏は以前から、「桃鉄が子どもたちに役立てることが必ずある。多くの人に日本の魅力を知ってもらうきっかけにできるのではないか」という思いをもっていた。それが正頭教諭の思いが合致したことが契機になった。
  

 岡村氏は、「『地方創生・地域再生』と言ってしまうと少し大袈裟に感じるかもしれませんが、桃鉄を通して日本を旅して、いろいろな日本の魅力を知ってもらうひとつのきっかけになるといいなと考えています。原作者のさくまあきらさんも『子どもたちのために桃鉄で何か力になれないか』と、以前から話をされていました。そのきにちょうど正頭教諭から『教育版の桃鉄をやりませんか?』と声をかけていただき、プロジェクトが始まりました」と話す。

「桃鉄」は、多くの子どもたちがプレーしてきた日本の名作ゲームのひとつであり、特にいまの30~40代では「日本の地理は桃鉄で勉強した」「桃鉄を通じて全国の名産品などを知った」とも言われるほどである。

 マーケティング視点から見ると、「桃鉄」はすでに社会的に十分認知されており、売上も上げているゲームタイトル。一方で30年以上前に誕生したため、いまではプレーしたことのない小学生も多い。桃鉄をこの先10年、20年、さらに50年と続けていくためには、「若い世代に対して届けていかないと、先細りすることになる」と岡村氏は考えた。
 
コナミデジタルエンタテインメント シニアプロデューサー
岡村 憲明 氏

 プレーヤーが鉄道会社の社長となって日本全国を巡り、物件を買い集めて資産額日本一を目指す国民的ボードゲーム「桃太郎電鉄(桃鉄)」シリーズを担当。2020年に発売された『桃太郎電鉄 ~昭和 平成 令和も定番!~』は累計販売数が400万本、2023年11月に発売された最新作『桃太郎電鉄ワールド ~地球は希望でまわってる!~』は100万本を超える大ヒットとなっている。また、「桃鉄」が、地理や経済に興味を持つきっかけとなったという声を受け、2022年に『桃太郎電鉄 教育版Lite~日本って面白い!~』の制作を発表。2023年より、学校教育機関への無償提供を開始した。そのほかにも、『スーパーボンバーマン R』や、『METAL GEAR SOLID SOCIAL OPS』、『ときめきメモリアルドラマシリーズ』、『カブトレ!』など、幅広い作品を手掛けてきた。

 ただ、人気ゲームの無償提供となると、「そんなことをして事業が成り立つのか?」「無料にする意味はあるのか?」などの懸念も出てくる。売上を上げることをミッションにしているプロデューサーの立場であれば、そう考えるのが普通だ。しかし、『桃鉄 教育版』に関して岡村氏は「意味もあるし、十分すぎる効果もある」と語る。

「α世代(2010~2024年生まれの世代)と呼ばれる現在の小学生は、生まれた頃からスマホが近くにあるデジタルネイティブ層です。スマホをフリックすると数秒で画面が移り変わるように、興味がめまぐるしく移り変わります。これはマーケティング的な視点から見ればα世代の興味を捉えることが非常に困難になっているといえます。そのような世代に対して、学校の授業で45分間、『桃鉄』を扱ってくれる機会があることは大きなチャンスです。いますぐではないかもしれませんが、将来のお客さまと考えて『桃鉄』を購入してくれる日が来れば、これほど嬉しいことはありません」(岡村氏)

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