日本の広告最新事例を世界の潮流から読み解く #51
iPad 新製品の動画が大炎上で謝罪。あのアップルが、いったい、どこで何を間違えたのか?
私は長年、多くの広告コミュニケーションの海外事例を紹介、その分析に努めているのですが、この連載では、いつもとはある意味では逆に、まず日本の話題作に目を向けて解説し、そのうえで、その意図や施策の在り方が、海外のどんな潮流と関連しているのかについて考えていこうと思います。今回は、その第51回で、少しイレギュラーな構成になっています。
薄さが売りのiPad Pro大炎上、日本からも批判が集中
いつもは、「日本の広告最新事例」を取り上げているこの連載ですが、今回はあえて、米国アップル社のWeb動画を取り上げてみます。この動画は、世界中から非難が殺到したそうですが、SNSで見たところによれば、日本からの非難が最も多く激しかったと言います。いまやWeb動画は全世界でいっせいに見ることが出来るので、その意味からすると、この事例も「日本の広告最新事例」のひとつだと言えなくもありません。
その60秒強のウェブ動画は、「Crush!iPad Pro」と名付けられていて、メトロノームが拍を刻み、アナログレコードが再生されているところから始まります。楽器を始め、様々な芸術関連グッズがあるスペースに並べられており、上下には圧縮プレスのようなものが見えていて…。上のプレス盤が降りて来て、まずトランペットを無残に破壊。美術関連グッズが破壊されたのか、色とりどりのペンキが流れていきます。
次にメトロノームが破壊され、美術作品も潰されます。カメラのレンズも砕け散り、ギターも壊され、上下の圧縮プレスが完全に隙間なくくっついたと思うと、上側の圧縮プレスが上がって行き、そこに、新しいiPad Proが置かれているのが見えます。
「今までで最もパワフルなiPad、そして最も薄い」とのナレーション。BGMとして流れていた往年の名曲のフレーズ「All I ever need is you(私が欲しいのはいつだって君だけ)」で終わります。
これ、ある視点から見たら、完璧だと思うのです。でも一方で、普通に考えれば、不快に思う人が多いであろうことも、すぐに想像がつくでしょう。では、アップル社の優秀な人々がなぜこのように考え、なぜこの企画にOKを出し、なぜ仕上がりに疑義を唱える人もいなかったのでしょうか?
それは、ある視点で見た時に「完璧」だったから、一方のリスクに眼が行かず、あるいはリスクに気づいた人がいたとしても、そのリスクを知ったうえで実行することこそがチャレンジだよ、といった議論が大勢を占めたのではないでしょうか。このあと、その辺りをもう少し詳しく考えてみたいと思います。