日本の広告最新事例を世界の潮流から読み解く #51

iPad 新製品の動画が大炎上で謝罪。あのアップルが、いったい、どこで何を間違えたのか?

 

メッセージが伝わる3要素。完璧だっただけに、見過ごされた視点


 長年クリエイティブの現場にいて多くのテレビCMも手掛けて来た筆者からすると、この動画が発想されるプロセスは、だいたい想像がつきます。送り手側は、おおむね、「①メッセージがしっかり伝わるか」×「②インパクトをもって伝わるか」×「③共感性をもって伝わるか」の3点の掛け算を意識して、企画を考え、企画の善し悪しを判断します。

 ①は広告なので当たり前で、いくら世の中で話題になろうとも、送り手側の伝えたいメッセージが伝わらなければ、なんの意味もないからです。②は、昔からそうでしたが、現在のような情報過多の時代ではより重要性が増していて、気がついてもらい見てもらわなければ、どんなに良い内容でも何も起こらないからです。③は、ターゲット設定と関係し、例えば10代に向けたメッセージなのに10代に共感されないようでは、目的は果たせないからです。 

 今回のiPadのWeb動画は、①と②の視点で見た時には、完璧に近いのです。①では、“今までにない驚くほどの薄さで、それなのにあらゆるクリエイティブなものをその中に入れられる”というようなメッセージが伝わります。②のインパクトも充分です。あれだけのものが、バリバリと破壊された後に、スッと残っているのが、あの薄いiPadだけなのですから。

 その①×②の完璧さにある種、目が眩んでしまって、③の共感性の部分で、“むしろ不快に感ずる人が多い”ということに想いが至らなかったのではないでしょうか。生成AIの異常なまでの発達ぶりに、今までの“人間性”が奪われて行くのではないか?という恐怖を、多くの人が持っている2024年というタイミングも、③に関する“マイナスの共感性”に拍車をかけたかもしれません。

 また、長年“広告上手”で知られるアップル社は近年、外部のクリエイターを自社に雇い入れ、社内企画に移行した、ということも耳にしますが、そのことも少し関係しているかもしれません。広告会社という“外部の目”があったほうが今回の騒動は防げたのではないか、と個人的には感じています。

 さて、サムソンがいち早く、このアップルの動画に対抗したと思われるウェブ動画を発表して、こちらは良い意味で話題になっているので、合わせてご紹介しておきましょう。
 

 必要以上に炎上を恐れていては、効果的なマーケティング・コミュニケーションは実施できません。とはいえ、“その時点での世の中の共感性をしっかりと感じ取る”という姿勢は、なによりも重要なのかもしれませんね。
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