CATCH THE RISING STAR #06

「音楽とマーケティングは似ている」奏者でもあるヤマハの若手マーケターが目指す音楽業界の未来【立畠響介氏】

前回の記事:
フェリシモで若年層向けメディアを立ち上げ、収益化模索する若手マーケター【松本美卯氏】
 企業におけるマーケティングの重要性が増す一方、「マーケターの仕事は生成AIに奪われるのではないか」とも囁かれる昨今。そんな時代の変革期に、マーケティング領域で働く若者は何を考え、どう行動しているのか。

「Z世代」と一括りにされがちな彼らの中でも、各企業が特に期待を寄せる「ライジングスター」にフォーカスしたAgenda noteの本連載。テクノロジーやSNSを使いこなす彼らの多彩な思考や行動を探ることで、マーケティング領域の近未来を照射していきたい。

 第6回はヤマハの入社4年目マーケターで、プライベートではサックス奏者としても活躍する立畠響介氏が登場。音楽の知識や経験を生かすだけでなく、先端テクノロジーや組織改善にも積極的にチャレンジし、オールラウンダーぶりを発揮する同氏。マーケターとして、そして音楽活動の当事者として、目指す音楽業界の未来とは。
 

音大から京大、そしてマーケターへ


――お名前に「響」が入っていますが、やはり音楽に親しむ環境で育ったのでしょうか。入社までの経緯を教えてください。

 両親がアマチュアの音楽家で、妹も東京藝大の大学院で学びながら音楽活動をするアーティストです。「響介」という名前については、将来的に音楽をやってもやらなくても、どちらでも大丈夫そうだという理由で名付けたと聞きました。身近に音楽があるけれど強制はしない、自由な家風で育ちました。

 小学校卒業までは習い事でピアノを弾いてきて、中学校の吹奏楽部でサックスを始めました。そこで元プロのサクソフォニストだった当時の先生に憧れて音楽の道を志し、音大に入学しました。

 ところが入ってみて実感したのが「自分は音楽が上手くなりたいけどプロになりたいわけじゃない」ということでした。プロも音楽だけやっていれば良いわけではなく、演奏会運営のために悪戦苦闘したり、人間関係の構築に勤しんだりと、全てをバランスよくこなすことが求められます。音大に入ってそういった厳しいプロの姿が間近に見えるようになったのですが、浅はかにも、好きなクラシック音楽をやりたい一心で音大に入っていた私にとっては、大きなギャップでした。

 音楽の世界にはプロだけでなく、限られた時間の中でも思い切り好きな音楽を楽しむアマチュアの道もあります。好きな音楽を続けながらも他の可能性も広げようと、受験勉強をし直して京都大学に入り直す決断をしました。

 大学3回生の時、ヤマハで2週間のインターンをしました。好きな製品をひとつ選んで販売戦略を立てるという内容で、通常のプログラムにはなかったのですが自分から提案してミニ顧客調査をさせてもらうなど、楽しく戦略立案を体験させてもらいました。この時、「マーケティングって音楽活動に近いな」と感じたのです。

 大学で200人ほどの吹奏楽団に所属し、サックスだけでなく指揮者を経験していました。指揮者は譜読みから始まって、演奏の精度を100%まで上げていくために段階を踏みながら、それぞれのステージごとに曲のバリューを奏者に語りかけることで、演奏を良くしていきます。これは企業とお客さまのコミュニケーションにも近いと思いました。音楽や楽器が好きであること、そして音楽経験を生かしてやりたい仕事ができるというイメージを持てたことから、最終的にヤマハへの入社を決めました。
 
立畠 響介 氏
ヤマハ コーポレート・マーケティング部 CXマーケティンググループ

 プライベートではサックス奏者としてイベントや飲食店での依頼演奏や自主公演など、精力的に活動を行っている。

―― 研修や店舗勤務を経て、2年目から「CXマーケティンググループ」に所属されているのですね。業務内容を教えてください。

 CXマーケティンググループはプロダクトを通じた顧客体験において、ブランドの世界観やブランドプロミスである「Make Waves」を反映させることを支援する部署です。具体的には大きく2種類の業務を行なっていて、ひとつは各事業部が新しい製品を世に出す際のGo-to-Market(GTM)の伴走です。プロダクトの価値をどのようにお客さまに提案していくか、戦略立案からクリエイティブ制作における業者さんへのオリエン、広告公開やその後の運用、モニタリングまで広告会社さんと一緒に行うなど、一気通貫の事業部支援を行なっています。私の場合はサックスをやっていたということもあり、主に管弦打楽器を扱うB&O事業部の案件が多いです。

 そしてもうひとつは、全社のマーケティング力向上に向けた活動です。たとえば生成AIのマーケティングへの活用や、ブランドとしてのビジュアルアイデンティティを保ちながらクリエイティブをSNS展開するための枠組みをキット化して、事業部に提供するといった取り組みをしています。3DCGをつくるフローを集約して決めたり、新規メディアへの出稿プロセスをフォーマット化したりして各事業部に展開することもあります。テクノロジー、戦略立案、クリエイティビティを基本的なスキルセットとして、ある意味、社内における広告会社のように、横断的なマーケティング支援を担っています。

 この業務では、2023年12月に展開を開始した企業広告である「音楽って、めんどくさい。だから、好き。」キャンペーンもプロジェクト初期から参加しました。ディスカッションで意見を述べたり、撮影現場で楽器を扱う作法をチェックしたり、演奏者のインサイトを指摘したりしました。
 

 たとえば、このムービーには吹奏楽部の中高生が登場するのですが、そこに使うコピーに違和感があったので、意見を出しました。チームメンバーの中でも私は比較的、楽器経験が多いほうだったので、肌感覚を知る人間として細かい違和感を敏感に察知して伝えていくことが、自分に求められていることではないかと考えました。

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