広報・PR #17

香港投資ファンドによる花王への要求から考える、物言う株主がマーケティング戦略に与える影響

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広報戦略に影響を与える投資ファンドの介入


 投資ファンドのアクティビストとしての活動が企業の広報およびマーケティング戦略にどのような影響を与えるのか。オアシス・マネジメントが2024年4月8日、花王に対して経営戦略の見直しと改善を求める声明を発表した事例を通じて、広報やマーケティング担当者が注目すべきポイントを明らかにしたい。

 オアシス・マネジメントの主張は、花王のブランドがもつ潜在能力が十分に活かされていないことを指摘し、国際的な成長の重視、グローバルな経験を持つCMOの起用、情報開示の透明性向上など、具体的な提案を行った。この介入は、企業の経営戦略に対する外部からの視点を提供し、経営陣が見過ごしている可能性のある改善点を明確にするものである。特に、花王のブランドの国際的な成長を重視する提案は、グローバルな競争力を高めるための重要なステップだといえる。
 

花王の対応


 花王はオアシス・マネジメントの要求に対し、自社の長期経営戦略と株主価値向上の努力を強調するした。中期経営計画「K27」における主力ブランドへの投資と構造改革を強調し、オアシス・マネジメントの指摘は十分な理解に基づいていないと反論した。

 花王の対応は、以下の5つのポイントに集約できる。
 
  • 声明の発表自社の立場を明確にするため、公式声明を発表し、現在の経営戦略を再確認した。
  • 長期経営戦略の再確認
「K27」に基づく長期経営戦略を強調し、主力ブランドへの投資と構造改革が長期的な成長に不可欠であると訴えた。
  • データと成果の提示具体的なデータを用いて、2024年1~3月期の連結決算で4年ぶりの最終増益を達成したことや、ヘアケア事業の効率化計画など、すでに成果が出ていることを示した。
  • 批判への反論オアシス・マネジメントの指摘に対し、「K27」の施策が十分に理解されていないと反論し、自社の戦略が合理的であることを説明した。
  • 対話姿勢オアシス・マネジメントとの対話には積極的な姿勢を示したが、その建設性については、同社や一部投資家からは疑問視する声も上がっている。
 

ポジティブな側面


 花王は2024年1~3月期に4年ぶりの最終増益を達成した。これは、主力の化粧品事業や、海外での販売が好調だったこと、そしてコスト削減の努力が実を結んだ結果である。具体的には、スキンケアブランド「キュレル」や「SENSAI」などの高価格帯商品の売上が伸長し、中国や東南アジアでの販売も好調であった。また、物流費や広告宣伝費などのコスト削減も進め、収益改善に貢献している。

 この増益は、オアシス・マネジメントが花王に経営改革を要求する前の2023年度から、花王が構造改革やコスト削減などの取り組みを進めていたことを示している。つまり、同社の要求に反応して急遽業績を改善したのではなく、以前からの企業努力が実を結んだ結果であると解釈できる。

 この事実は、花王が主体的に経営課題に取り組んでいたことを示していて、企業の正当性や信頼性を高める要素といえるだろう。

参考:花王1~3月、4年ぶり増益 オアシス攻勢で探る自律改革(日本経済新聞)
 

ネガティブな側面


 一方で、オアシス・マネジメントが花王に対し、主要な化粧品ブランドの成長に注力するなど、さらなる改革を求める提案を公表したことに対し、花王は「当社が示した構造改革などが残念ながら十分に理解されていない」と反論する声明を発表した。しかし、一部の投資家やアナリストからは、花王は外部からの提案に対してよりオープンな姿勢で対話し、建設的な議論を深めるべきだったとの指摘も出ている。

 企業においては、株主や投資家からの提案に対して真摯に向き合い、対話を通じて企業価値向上を目指す姿勢が求められる。花王の今後の対応がさらに注目されている。

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