創造的思考の源泉とマーケティング #03

「みんなが面白がってくれるものが好き」kakeru 明円氏が語る企画が実現するための秘訣

前回の記事:
「友達がやってるカフェ」や「いい人すぎるよ展」の仕掛け人が語る、CMプランニング3.0時代の発想法
 リクルートでクリエイティブ・ディレクターとして広告を制作し、武蔵野美術大学では社会人の創造的思考育成プログラムの講師も務める萩原幸也氏が、創造的思考を駆使してビジネスシーンで活躍するプロフェッショナルと対談し、アイデアの源泉やマーケティングにつながる考え方を解き明かしていく「創造的思考の源泉とマーケティング」連載。

 第2回は「友達がやってるカフェ/バー」や「JANAI COFFEE/JANAI GAMES」などユニークなコンセプトの飲食店に加えて、「いい人すぎるよ展」や「やだなー展」などの展示会のプロデュースでも注目を集めるkakeru代表の明円卓氏が登場する。

「友達がやってるカフェ/バー」は、店員がどんな来客も「友達として」接客するカフェ/バーで、店名の通り友達のバイト先に遊びに行っているような感覚で楽しむことができる。最近では、サントリーと共同開発したジントニックをコンビニエンスストアなどで販売しており、その商品名も「あの田中が一杯目に必ず飲むやつ」や「スペイン旅行でめっっっちゃ美味かった酒」などユニークな名前になる。前編では、「友達がやってるカフェ/バー」や「いい人すぎるよ展」を企画する上での独創的なアイデアは、どのようにして生まれたのかなど、明円氏の考え方をもとに詳しく紹介した。後編では、同氏がクリエイターとして好きなことを追求しながら、経営を行う明円氏の思考の源泉について詳しく聞いた。
 

左脳的な言葉を禁止してお客さんに届ける


萩原 そもそも「友達がやってるカフェ/バー」などのコンセプトはどうやって思いつくのですか。

明円 日常にある普遍的なモノを見つけるようにしています。たとえば「友達がやってるカフェ/バー」を思いつくきっかけとなったのは、大阪旅行で出会った老舗の町中華です。
 
kakeru代表
明円 卓 氏

 2014年より電通でCMプランナー/コピーライターとして活動。2020年に電通を退職後、 kakeruを創業。『JANAI COFFEE』『JANAI GAMES』『友達がやってるカフェ』などの飲食店のプロデュースや、『いい人すぎるよ展』『うれしいすぎるよ展』『やだなー展』などの企画展を主宰。

食事はすごくおいしいのに、提供スピードや順番はぐちゃぐちゃ。いつ食べ物が出てくるかわからない。でも、食べログの口コミを見ると「このお店に行くときはそういうことを心してください」と書いてあって、みんなそれを喜んでいるんです。

そのとき、人はときとして「不完全なサービス」が嬉しくなるんだなという気づきがありました。この体験を抽象化して別の企画に置き換えたときに、「友達がやってるカフェ」というコンセプトが生まれました。

萩原 なるほど。他にも、企画をつくるときに意識していることはありますか。
 
リクルート マーケティング室 クリエイティブディレクター/部長
萩原 幸也 氏

 山梨生まれ。武蔵野美術大学デザイン情報学科卒業後(株)リクルート入社。リクルートグループのコーポレート、サービスのブランディング、マーケティングを担当。武蔵野美術大学ソーシャルクリエイティブ研究所 客員研究員。武蔵野美術大学大学校友会 会長。JAA 公益社団法人 日本アドバタイザーズ協会 クリエイティブ委員。県庁公認山梨大使。

明円 私は「左脳的言葉禁止」と言っています。このような取材では説明するために使うことがありますが、お客さん目線で企画をつくるときには、使いません。

たとえば「友達がやってるカフェ」を分類するのであれば「イマーシブカフェ」だと思いますが、そのように分類することを禁止にしています。人はジャンルで語りたがるわりに、実際に行動するときにはあまり意識していないんですよ。むしろマーケティング用語に括られて、商業的なにおいがすると一瞬で冷めてしまう。分かりやすい事例でいうと、ディズニーリゾートが「イマーシブテーマパーク」と自ら発信していないのと同じです。

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