創造的思考の源泉とマーケティング #04

『ハイパーハードボイルドグルメリポート』上出遼平氏が「テレビCMは嫌い」と語る理由

前回の記事:
「みんなが面白がってくれるものが好き」kakeru 明円氏が語る企画が実現するための秘訣
 リクルートでクリエイティブ・ディレクターとして広告を制作し、武蔵野美術大学では社会人の創造的思考育成プログラムの講師も務める萩原幸也氏が、創造的思考を駆使してビジネスシーンで活躍するプロフェッショナルと対談し、アイデアの源泉やマーケティングにつながる考え方を解き明かしていく「創造的思考の源泉とマーケティング」連載。

 第3回は、元テレビ東京のディレクターで、現在はフリーランスとして映像制作や書籍執筆など幅広く活躍する上出遼平氏が登場。「ヤバい奴らのヤバい飯を通してヤバい世界のリアルを見る」をテーマにした異色のグルメ番組『ハイパーハードボイルドグルメリポート』シリーズなど、同氏が手掛ける衝撃作はどのような発想から生まれたのか。また、どのような視点で世の中を見て、作品を生み出しているのか。昨今のテレビCMに対して感じていることも含めて、クリエイティビティに対する考えを紐解いた。
 

「テレビCMはすごく嫌い」


萩原 上出さんのことは、テレビ東京のテレビ番組『ハイパーハードボイルドグルメリポート』で知りました。これはヤバい人がいると思って、そこから勝手に上出さんの仕事をずっと追いかけています。2024年3月に上梓された著書『ありえない仕事術 正しい“正義”の使い方』(徳間書店)も読ませていただきました。

上出 いやあ、嬉しいです。ありがとうございます。

萩原 上出さんは、もともとテレビ東京のディレクターをしていましたが、現在はどのような仕事をしているのですか。

上出 映像制作や書籍執筆、洋服のプロジェクトなど、いろいろなことに関わっています。いまの職業をひと言で表すのは難しいですが、強いていうなら「ディレクター」ですかね。さまざまなプロジェクトの企画からアウトプットまでを成立させるディレクターであり、作家でもあるという感じでしょうか。
 
上出 遼平 氏
 ディレクター、プロデューサー、作家。1989年東京都生まれ。2011年テレビ東京入社。2022年テレビ東京退社後拠点をニューヨークへ。ドキュメンタリー番組『ハイパーハードボイルドグルメリポート』シリーズの企画から撮影、編集まで全工程を担う。同シリーズはポッドキャスト、書籍、漫画と多展開。ほかにもポッドキャスト番組「上出遼平 NY御馳走帖」や小説「歩山録」(講談社)などがある。

萩原 たしかにひと言では表しにくいですね。僕はテレビCMを制作している立場なのですが、テレビの番組制作に携わられている方に一度お聞きしたかったことがあります。それは番組の合間に流れてくるテレビCMについてどう考えているかです。

上出 シンプルに、かなり嫌いですね。昨今のテレビCMは本当にナンセンスだとよく思います。

萩原 忖度なし!いいですね(笑)。どういった点で、そのように思いますか。

上出 テレビ番組のディレクターは毎週、視聴率のグラフを見ながら番組を設計していきます。そのグラフを見ていると、視聴率がCMに切り替わった途端に大きく下がることが分かります。テレビ業界ではそれが当たり前になっていますが、番組のディクレターとしてはCMで視聴率が下がるのは困るわけです。そこで番組全体の中で、どの位置にお荷物としてのCMをもってこようかを考えるんです。

でも、そもそもすごく大きな予算を割いて制作された15秒や30秒の映像作品が、視聴率を下げることが当たり前になっているのはおかしいですよね。むしろ視聴率が上がってもいいわけですよ。何ならCMを楽しみにしている視聴者がいてもいいくらいなのに、実際はそうなっていないじゃないですか。

それはなぜかというと、画面の向こう側の人を喜ばせようとしていないからです。その背後には、視聴者の印象に無理やり残してやろう、そのために脅迫じみた言葉を並べようという思想が見えますが、視聴者はそれを求めていない。だから、すごく嫌です。

萩原 とても耳が痛い話ですね。でも、本当におっしゃる通りです。そうではなかった時代もあったと思います。僕がリクルートに入社した頃は、まだまだテレビCMが面白かった時代でした。そこから広告業界全般において、データ取得が進み、重視されるようになってから変わってしまったなと思います。
 
リクルート マーケティング室 クリエイティブディレクター/部長
萩原 幸也 氏

 山梨生まれ。武蔵野美術大学デザイン情報学科卒業後(株)リクルート入社。リクルートグループのコーポレート、サービスのブランディング、マーケティングを担当。武蔵野美術大学ソーシャルクリエイティブ研究所 客員研究員。武蔵野美術大学大学校友会 会長。JAA 公益社団法人 日本アドバタイザーズ協会 クリエイティブ委員。県庁公認山梨大使。

上出 ごく稀に面白いと思えるテレビCMもあります。本当は、そういうCMで埋め尽くされるべきなんですけどね。データからCMが量産されると、どれも似たり寄ったりで区別がつかないですよね。

萩原 おっしゃる通りで、客観的な指標や調査を尊重しすぎると答えが似てきますので、企画や表現が似たCMが増えてきますよね。

上出 だから、どのタレントを起用するかしか違いを生むための余地がないわけです。ただ、それさえもほぼデータで決まってしまいます。

萩原 テレビから生まれた人気者がCMに出てきて、視聴者に「この人は知っている」「この人が使用している」と思ってもらって、店頭で商品を見かけたときに購入してもらうという戦略は企業としては間違ってはいないんです。ただ結局のところ、そうしたものが番組の合間に流れてきても、あまり面白くは無いのですよね。

上出 その映像に価値がないです。視聴者に何もポジティブな影響を与えていないわけですから。

萩原 以前、YouTube動画の最初に入る強制視聴の広告に対して、X(旧Twitter)で「素人がつくった動画を見るために、プロがつくったつまらない広告を見ないといけない」と書かれていて、非常にショックを受けました。

広告制作に携わっているクリエイターはとても優秀です。でも、最終的にそのように言われてしまうのは、広告主側の責任だなと感じています。

上出 広告のゴールが「モノを売る」になってしまうのは仕方がないことですよね。皆さん、その中で何ができるのかを試行錯誤をしているとは思いますが、それにしてもナンセンスな状況だと感じています。とはいえ、テレビ番組自体も同様の状況になっていると思いますが。

マーケターに役立つ最新情報をお知らせ

メールメールマガジン登録