創造的思考の源泉とマーケティング #05

グロテスクなものに踏み込めるのは親の「愛」があったから【元テレビ東京ディレクター上出遼平】

前回の記事:
『ハイパーハードボイルドグルメリポート』上出遼平氏が「テレビCMは嫌い」と語る理由
 リクルートでクリエイティブ・ディレクターとして広告を制作し、武蔵野美術大学では社会人の創造的思考育成プログラムの講師も務める萩原幸也氏が、創造的思考を駆使してビジネスシーンで活躍するプロフェッショナルと対談し、アイデアの源泉やマーケティングにつながる考え方を解き明かしていく「創造的思考の源泉とマーケティング」連載。

 第3回は、元テレビ東京のディレクターで、現在はフリーランスとして映像制作や書籍執筆など幅広く活動する上出遼平氏が登場。「ヤバい奴らのヤバい飯を通してヤバい世界のリアルを見る」をテーマにした異色のグルメ番組『ハイパーハードボイルドグルメリポート』シリーズなどの衝撃作はどのような発想から生まれたのか。前編では、昨今のテレビCMに対して感じていることについて紹介した。後編では、衝撃的な作品を生み出し続ける上出氏の思考の源泉とさまざまな作品を制作する上で意識していることなどを紐解いた。
 

人間のラベルを疑い、引き剥がす


萩原前編はこちら)上出さんは、人間理解の解像度が高いと感じています。それはなぜなのでしょう。

上出 思考を止めないからだと思います。というのは、限りなく人間のラベリングから逃れよう、そのラベルを剥がし続けようとしているからです。

たとえば、これを机だと認識して、あっちにあるのも机ですよね。同じ机ですが、色も形も重さも全然違うわけです。ただ、ラベル上は同じ机ですよね。それと同じように、人間に対しても多くのラベルが貼られています。ただ、どれだけ言葉を尽くしても、その人の0.01%しか表現できていないと思うのです。
 
上出 遼平 氏
 ディレクター、プロデューサー、作家。1989年東京都生まれ。2011年テレビ東京入社。2022年テレビ東京退社後拠点をニューヨークへ。ドキュメンタリー番組『ハイパーハードボイルドグルメリポート』シリーズの企画から撮影、編集まで全工程を担う。同シリーズはポッドキャスト、書籍、漫画と多展開。ほかにもポッドキャスト番組「上出遼平 NY御馳走帖」や小説「歩山録」(講談社)などがある。

取材対象もラベリングされていますし、もちろん僕もラベリングをした状態で会ってしまうのですが、そのラベルをどれだけ疑い、どれだけ引き剥がせるかが取材者の腕の見せ所です。そもそも大前提として、ひとりの人間を完全に理解しきることは絶対にできないと思っています。

一方で、「こういう人ね」とラベルを貼ってしまえば、そこで理解が止まってしまいます。ラベルの奥の奥にあるその人のバックグラウンドや思考、感情などが見えなくなってしまうわけです。僕はラベルの奥にある細胞のそのさらに奥まで見ようとしているから、人間に対する解像度が高いのではないでしょうか。

萩原 ラベルを剥がすために意識していることはありますか。

上出 自分はこの世界のことを知らなければ、あなたのことも何も知らないんだということを一度きちんとインストールすることですね。僕たちはどうしても知った気になってしまうので、何も知らないということを自分の中に浸透させた上で、その人と向き合えるかがすごく大事だと思っています。

萩原 本当にその通りだと思います。どのようなきっかけでそう考えるようになったでのしょうか。
  
リクルート マーケティング室 クリエイティブディレクター/部長
萩原 幸也 氏

 山梨生まれ。武蔵野美術大学デザイン情報学科卒業後(株)リクルート入社。リクルートグループのコーポレート、サービスのブランディング、マーケティングを担当。武蔵野美術大学ソーシャルクリエイティブ研究所 客員研究員。武蔵野美術大学大学校友会 会長。JAA 公益社団法人 日本アドバタイザーズ協会 クリエイティブ委員。県庁公認山梨大使。

上出 世界中のいろいろなところへ行って、いろいろな人と出会ったからだと思います。もちろん、これも説明できない要素はたくさんあるのですが、基本的に僕は人のことをすぐに好きになります。好きになると、その人のことをもっと知りたくなります。

萩原 マーケターもまずはお客さまを好きになることから始めるといいかもしれないですね

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