マーケターズ・ロード 出口昌克 #02

「史上最低」の社内アンケート評価からの逆転、ソーダストリーム 出口昌克氏が実践した人材育成「10週間対話」

 

目指すは「炊飯器」


 10週間対話の効果は、すぐに現れました。若い社員が目上の人間に意見を述べるのって、気が引けますよね。話す頻度を高めたこと、弱みを共有したことで、私もただの人だと分かり、以前より気軽に話をしに来てくれるようになりました。

 ちなみに、この10週間対話に加えて上司との1on1、メンターとのランチの「三つ巴」で参加者の主体性を引き出しました。直属の上司には、頻度を上げて必ず週1回の1on1面談を行ってもらい、その週の対話で何を考えたのかを振り返ってもらいました。さらに部門横断的なメンターも付け、メンター側から積極的にランチに誘ってもらい、上司には話しにくいような本音や相談ごとをサポートする機会を設定しました。「この期間中はあなたに全力で集中してサポートする」というメッセージを打ち出し、会社一丸となって有望な人材を育て、ケアできる体制を敷いたのです。




 この10週間対話を経て、若い世代のリーダーが次々と生まれています。たとえば、私が入った当初、グローバル本社との定例会議では、私が代弁をする場面の方が多かったのですが、今では若い社員がリードしてくれるようになりました。

 以前は若手が活躍できる機会はほとんど与えられておらず、その若手社員も、本社の重鎮を相手に自分が会議を仕切っていくなんて想像もしなかったはずです。幹部は外部でキャリアを積んだ即戦力の人材が採用される場合がほとんどで、正直なところ、現場の若手社員とは一線を画していたからです。

 この対話と連動して「Promotion within(社内昇進)を強化」することを人事戦略として初めて取り入れ、これからは社内の人を昇進させていくと宣言しました。宣言=実行の約束ですから威力を持ちます。既に多くのポジションで、内部昇進が起こっています。

 翌年の満足度調査では、大きな改善が見られました。けれども一番嬉しいのは数値ではなく、先ほども話したような将来のタレントが育ってくれたことですし、組織全体に主体性が生まれていることです。

 この10週間対話はその後も続けていて、今は、4グループ目の準備中です。最初に対話を行った若手グループは、10週間の対話期間が終わっても自主的に勉強会を続けているそうです。

 当社は大半の社員が中途採用ということもあり、「同期」という存在がほとんどいません。トレーニングで集ったメンバーは健全なライバル、相談し合える仲間として、お互いを高め合える関係を築いてほしい。その効果を最大化するように、メンバーの選定や組み合わせ、実施時期などはかなり戦略的に考えています。その意味でも、10週間対話は私にとって「社内マーケティング」の一番の成果かもしれません。


社員とセッションする出口氏

―― 社内改革を経て、ソーダストリームが目指すものは何なのでしょうか。

 私たちが目指すのは、炭酸水メーカーが「炊飯器のように」各家庭に一台ずつある世界です。そうすれば、人々の飲用習慣が代わり、暮らしはより豊かになり、使い捨てプラスチックも大幅に減らせるなど、人にも環境にもより良い世の中になると思います。でも、そのビジョンを達成するのは簡単ではありません。

 そこに至る具体策をつくっていくための強い組織が必要です。

①積極的な提案が採用される
②学びと刺激があり、自分の成長を実感できる
③自分の貢献が結果と結びつき、それが感謝される
④意見の相違は尊重されるが、役割が明確で決定がされる
⑤プロ意識が高く、それぞれが全力で決定事項を遂行する

 こんな会社を社員と一緒につくっていけば、夢の「各家庭に一台」に到達できると考えています。



※第3回 ソーダストリーム出口氏がP&G時代「首の皮一枚」と評されて気づいた「自分に足りなかったもの」 に続く
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