顧客満足を探究する~データと戦略の森から~ #02

「1位宝塚、2位ヨドバシ」顧客満足を高める鍵はバラツキ抑制、トラップにもご用心 【青山学院大学 小野譲司】

前回の記事:
帝国ホテルとスタバは似た傾向?最新研究から見えてくる顧客「感情」の重要性【新連載:青山学院大学 小野譲司】
  マーケティングにおいて「顧客満足」が重視されるようになって久しい。顧客ニーズの複雑化と商品サービスの均質化に呼応するように、ますます多様化するデータ、戦略があふれかえるマーケティングの森から、企業やマーケターは目指すべき顧客満足をどう探し当て、推進すればいいのか。

 Agenda noteの本連載は青山学院大学経営学部の小野譲司教授が、顧客満足度を業界横断的・継続的に調査するJCSI(日本版顧客満足度指数)調査のデータやさまざまな事例から顧客満足を学術的に紐解き、課題解決を目指すマーケターに科学的な視座と知見を提示する。第2回は「顧客満足(CS)」の高さとバラツキの関係性に着目。バラツキが少ないほどCSが高まるなら、バラツキを抑えればいいと考えがちだが…。企業が陥りやすい「CS推進のトラップ」とは。
 

顧客満足の「高さ」と「バラツキ」


 企業が市場・顧客に提供する製品・サービスがどの程度、顧客のニーズを満たしているかを定量的に表した指標を「顧客満足度(CSI: Customer Satisfaction Index)」という。CSIの作り方には、測定や計算の方法によってさまざまな手法があるが、何らかの算出手法で計算されたCSIスコア(10段階評価の平均値など)か、一定の評価尺度のうち満足と回答した比率(高評価をした回答者の割合%)で表される。いわゆるCS推進活動は、こうした指標をもとにPDCAサイクルを回し、顧客満足度とロイヤルティを高め、将来の業績に結びつけることが課題とされる。

 図では、サービス分野の約30業種・業態における売上高上位の約300あまりの主要ブランドを調査対象として毎年実施しているJCSI(日本版顧客満足度指数)調査の結果を示している。これは一定の利用経験を有する利用者(各ブランド回答者のサンプルサイズは300人以上)がオンラインサーベイに回答したデータから算出した100点満点のCSIスコアである。図中の縦軸に沿ってプロットされた⚫️印は各ブランドを、◆印は業種・業態の平均値を表している。


図 CSI(顧客満足度)とそのバラツキ

(データ出所)JCSI調査2023年度、サービス産業生産性協議会調べ

 図の縦軸の上位にプロットされている宝塚歌劇団(87点)、ヨドバシ.com(85点)、劇団四季(84点)が2023年度調査対象のトップ3である。同調査は2009年から毎年実施しているが、業種・業態ごとに傾向がある。

 エンターテインメント(テーマパーク、観劇)、映画館、ホテル、旅行といった人々に快楽や楽しみの体験を提供する業種のCSIが高い。小売業のうち、EC(オンラインショッピング)、テレビ・カタログ通販といった通信販売、百貨店、衣料品小売、各種専門店のCSIも高い部類に入る。

 一方、スーパーやコンビニエンスストアといった、食料品や日用品といった最寄品を販売する小売業態は、70点付近の全業種平均を下回る位置にある。携帯電話、近郊鉄道、銀行、損害保険(自動車、火災)、生命保険、クレジットカードといった日常生活に欠かせないサービスも業種全体としては満足度が低い。そうした中、電力小売は昨今の電気料金の値上げに伴って急速にスコアが低下したのに対して、携帯電話は料金値下げに伴ってスコアが少し上昇した。値上げや値下げといったプライシングは、いくら高くなったか、安くなったかという絶対的な価格変化だけでなく、製品・サービスの質をどの程度伴っているか、つまり、顧客が感じるコストパフォーマンスの高さを決める要因である。この「コスパの高さ」が顧客の満足度に強く影響しやすい。それゆえ、インフラサービスだけでなく、テーマパークや小売においても、顧客がコスパをどう評価しているかは、CSIと並んで重要な指標と考えられる。

 CSIは、企業ごとに独自に調査し、スコアを算出するほか、競合他社との比較のために業種単位で算出する方法が一般的によく用いられている。それに対して、このJCSIのように異業種・業態を横断して横串で比較するCSIを用いることによって、どのブランドないしは業種・業態がどの程度、顧客ニーズを満たしているかを比較できる。 グラフの横軸には、CSIの標準偏差を表している。たとえば、CSIが70点であったとしても300人の回答者すべてが70点の評価をしているとは限らず、一定のバラツキで分布しているのが一般的である。このバラツキの大きさを標準偏差で表している。

 図を眺めると、各ブランドは左上から右下の領域へと右肩下がりでプロットされている。満足度が高いブランドは、回答者の評価に±15点ほどのバラツキがあるが、低いブランド(±20点)に比べて相対的に似通った評価となっていることがわかる。つまり、これはCSIが高いブランドは利用者の多くが比較的似通った満足度を表明しているのに対して、CSIが低いブランドは、非常に高く満足している人から低い人まで評価の広がりが大きい、ということである。左下もしくは右上の領域にプロットされるブランドはほとんど存在しないのは興味深い。つまり、同調査が調査対象としている、各業種・業態の売上高上位のブランドは、たとえCSIが低くとも利用者の多くが不満という評価で一致しているわけではなく、満足度の評価が高い人と低い人が混在し、結果的にCSIスコアが低い状態にあるようだ。

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