TOP PLAYER INTERVIEW #73

22年ぶりにダイキンが経営理念を刷新、ブランド実務家の片山義丈氏が大事にする原理原則

前回の記事:
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 世界NO.1のエアコンメーカーであるダイキン工業が創業100周年を迎えた今年5月、グループ経営理念を刷新した。前回に策定した2002年から約20年の間に、空調事業の海外売上高比率は85%に達するなどグローバル化が急速に進み、日本を代表する企業のひとつに躍り出た同社が、新たな理念を掲げた背景や戦略は何なのか。

 Agenda noteでは同社の総務部広告宣伝グループ長で、企業と商品のブランド構築を長年、実務家の立場から実践・研究してきた片山義丈氏にインタビュー。新たな経営理念に込めた思いを聞くと、パーパスや経営理念を巡る日本企業の課題と方策も見えてきた。企業を取り巻く環境や社会情勢が変化する中、複雑化するブランドづくりを成功に導くための普遍的な原理原則とは。
 

順番に注目


―― ダイキン工業は今年5月、22年ぶりに新たなグループ経営理念を策定されました。前回から変わったもの、変わっていないものがあると思いますが、変更のポイントは何でしょうか。

 2002年に策定した前回の経営理念は第1章に「『次の欲しい』を先取りし、新たな価値を創造する」を掲げていました。次いで「第2章:世界をリードする技術で、社会に貢献する」、「第3章:企業価値を高め、新たな夢を実現する」、「第4章:地球規模で考え、行動する」と、全部で9章からなる理念でした。

「『次の欲しい』を先取り」とは、お客さまも気づいていない、いわゆる「インサイト」を探して製品やサービスを提供し、価値を得るということでした。当時、ダイキンは時価総額1兆円に満たず、海外での売上も低い状態でしたから、まずはメーカーとしての技術やサービスをしっかりと磨き、価値としても主に「経済的な価値」を上げていくことを最重要視していました。

 しかしその後、ダイキンが急速に大きくなり、今や時価総額は7兆円ほど、売上は4兆円に上り、世界170カ国を超える国・地域で事業展開して、グループ従業員は約10万人になりました。こうなると、世の中の期待は大きくなってきます。「人にとって良いサービスをつくり自社の経済価値を上げる」だけでは、もはや不十分です。「環境への貢献を含めた社会的価値を高めていくことこそがまず成し遂げるべきことであり、その結果として経済的価値を高める」という順番に変える必要があります。
  
出典:ダイキン公式サイト「ダイキングループ経営理念」

 そのため、新たな経営理念では第1章に「社会課題の解決に取り組み、企業価値を高める」を置き、第2章に「『次の欲しい』を先取りし、新たな価値を創造する」としました。ここでいう「次の欲しい」は、前回の理念では「人が何を欲しているか」の視点だけでしたが、新たな理念においては人間だけでなく、地球環境にとっての「欲しい」は何なのか、ということも含んでいます。順番を変えただけのように見えますが、背景には大きな変化があったのです。

―― ほかにもこだわった部分はありますか。

 経営理念に加え、「人を基軸に置く経営(People-Centered Management:PCM)」にもとづく行動指針「PCM Behaviors」を新たに策定したことです。グループ従業員一人ひとりに求める指針で、「挑戦・成長し続ける」「真の信頼関係・チームワークを築く」「結果にこだわる」といったことを書いています。

 ダイキンは創業以来「人」の持つ無限の可能性を信じることでこれだけの成長を続けていますが、前回の理念ではしっかりと明文化できていませんでした。その後20年で、この「人」に関するダイキンの強みが「人を基軸におく経営」として体系化・言語化が進んだことから、理念の第6章 に「『人を基軸におく経営』を実践し、挑戦するチャンスにあふれ、社員が挑戦・成長し続けられる環境を提供する」として盛り込みました。

 あわせてグループ従業員一人ひとりに求めるものとして行動指針「PCM Behaviors」』を新たに策定しています。
  
出典:同

 新しい理念は、第三者の有識者やコピーライターの意見も伺いながら、2年近くに及ぶ社内外の侃侃諤諤の議論を経て策定されました。最も重要なこととして議論したのは、時代への対応で「変えなくてはいけないことは何か」と、逆に時代が変わっても「絶対に変えてはいけないことは何か」という点です。

 ここを間違えてしまうと、世の中に迎合して自社の強みがなくなってしまいますし、時代に取り残されて独りよがりになってしまいかねません。その結果、「変えなくてはいけない」となった最重要の部分が、先ほど申し上げた点でした。

 文章のわかりやすさについても意識しました。「Together, We Brighten the Future 人の力で、豊かな未来を追求する」というキーメッセージをはじめとして、今や8割にのぼる外国従業員を念頭に置いてつくっています。従業員への浸透はこれからですが、海外拠点の幹部を集めて理念やPCMについて研修し、現地に持ち帰って伝えてもらい、従業員が日々の行動が理念に合致しているかどうかや、理念につなげていくことを意識していけるように促していく計画となっています。
  
出典:同

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