NEW CEO INTERVIEW #01

dentsu Japan 新CEOの佐野傑氏が語る、広告コミュニケーションの拡張

 

“人間にしかできないこと”


―― 生成AIの登場により広告領域も大きく変化しています。貴社はAIにも注力し、広告クリエイティブ制作のプロセスをAI活用によって革新する「∞AI(ムゲン エーアイ)」など、AIを活用したさまざまなサービスを提供しています。今後AIに対してどのようにアプローチしていきたいと考えますか。

 AIと人間は互いに協力し“知”を高め合うことができると考えます。AIが得意とするのは左脳的(物事を論理的に捉え処理する)な分野や、大量生産などです。そうした部分はAIを積極的に活用すべきです。一方で効率化によって生まれた時間やリソースを使い、人間にしかできない右脳的(クリエイティブ)な活動により一層注力することが可能になります。



 私たちがAIに関して取り組んでいることは、主に4つです。1つ目は、クライアントに向けたサービスでのAI導入です。電通デジタルが中心となって提供する「∞AI Ads(ムゲンエーアイ アズ)」は、運用型広告の広告クリエイティブ制作のプロセスをAI活用によって革新するサービスです。制作プロセスにおいて、効果予測だけでなくクリエイティブの発想、生成、改善の一連の工程をAIによって包括的に支援できます。その他のソリューションも充実している∞AIシリーズを軸に多様なAIサービスを展開しています。

 2つ目は、クライアントへのAI導入のコンサルティングです。企業変革や日常業務の効率化のためのAI活用や、その導入サポートを行っています。電通総研がクライアント向けに、企業内の安全な対話型AIツール「Know Narrator(ノウ ナレーター)」シリーズを展開しています。イグニション・ポイントや電通コンサルティングなど、dentsu Japanが近年強化しているBXチームでも生成AIを活用した組織変革の支援に注力しています。

 3つ目は、私たち自身の業務効率化です。2023年に社内向けにセキュアなChatGPT環境を構築し、社内問い合わせBOTの運用を開始しました。2024年にはよりセキュアな環境整備と多様な生成AIツール導入を行い、私たちの業務に特化したツールの開発も複数進めています。

 4つ目は、AIを広告業界でより安心・安全に活用していけるよう、リーダーシップを発揮していくことです。dentsu Japanでは、AIガバナンスコミッティを設立し、「AIサービス利用ガイドライン」を策定して、経営レベルでAI活用と適正な利用のためのルールづくりを実施しています。またAIの活用方法と関連ルールについて全社向けの研修を設計しました。こうした取り組みを業界全体に波及させていきたいと考えています。

―― “人間にしかできないこと”というのは具体的にどのようなことですか。

 クリエイティビティです。AIは過去のデータを学習し、それを組み合わせることが得意です。一方で、前例のない全く新しいものを生み出すのは、人間ならではの力ではないでしょうか。

 また、人の心を動かして行動を促すことも、人間が得意とするものです。モノを買うのも、組織を動かすのも、結局は人です。AIのCEOがバーチャル映像で発したメッセージと、CEO本人が従業員に向けて熱心に語り掛けるのとでは、受け手の感じ方や組織への浸透の仕方が大きく違うと思います。

 人間とAI、それぞれの長所を生かして協調することで、もっと質の高い仕事ができると思っています。

※後編 dentsu Japanの「現在」と「未来」どう見るか?【dentsu Japan 新CEO佐野傑氏】へ続く に続く
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