TとVがひとつになって~消費者とマーケティングの視点~ #04

競合ひしめく中、新生Vポイントが目指す「習慣化」とキャッシュレス社会【SMCC:佐々木丈也専務執行役員インタビュー】

前回の記事:
新生Vポイント3カ月、真価が問われる今、SMCCキーパーソンが語る事業戦略【佐々木丈也専務執行役員インタビュー】
 2024年4月22日、カルチュア・コンビニエンス・クラブグループ(CCCグループ)のTポイントと、三井住友フィナンシャルグループ(SMBCグループ)のVポイントが統合し、新生Vポイントとして新たなスタートを切った。統合によって会員数(有効ID数)は1.46億人に上り、日本の人口を超える。アクティブユーザーに絞っても8600万人が使っていることになり、国内外のVisa加盟店でも使えることから、「ポイント経済圏」の競争激化を象徴する動きとして、他のポイントサービスの動きと絡めながら、メディアで連日のように取り上げられた。

 新生Vポイントを運営するCCCMKホールディングス(CCCMKHD)と三井住友カード(SMCC)もまた、モバイルアプリの利用やクレジットカードの新規入会でポイントが付与されるキャンペーンを展開し、大盤振る舞いとも呼べそうな一大プロモーションで攻勢をかけた。「祭り」的なスタートダッシュが一息つき、真価を問われるのはこれからだ。

 事業を中心で担うキーマンに取材し、ポイント統合が消費者やマーケティング領域にもたらす影響を探る本連載。第4回は前回に続き三井住友カード 専務執行役員 マーケティング本部長の佐々木丈也氏に、ポイントサービスの競争が激化する中、Vポイントの優位性と目指す世界の姿を聞いた。
 

社会インフラとしてのキャッシュレス推進


―― SMBCグループでは総合金融サービス「Olive」をはじめとしてデジタル化を強力に推進する一方、Vポイントに関してはリアル店舗体験がメインになっている印象があります。ECサイトでのポイント付与を強みとする他社サービスもある中で、どのような展望を描いていますか?

 国内の他の主要なポイントサービスにはECモールがある場合が多いですが、私たちはそういったモールを持っていないのは事実です。ただ、今はまず「Visa加盟店で使える」という特徴をご理解いただくことを最優先して、施策やキャンペーンを打っているところです。

 とは言え、ではVポイントにとってECは重要ではないか、と言うと、もちろんそんなことはありません。EC取引にも参入していきたいと思っており、実際に検討も進めています。

 一方で、たとえECの買い物にVポイントを使わなくても、対象の三井住友カードで決済すれば決済分のVポイントが付与されます。ECモールを持っていなくても、Vポイントが他のポイントサービスに比べてそれほど劣後していないと思うのはそのためです。決済事業者であるということは、大きな強みと思っています。加えて、証券や保険といった金融取引の中でも、しっかりポイントを貯められるのが我々の特徴です。
 
三井住友カード 専務執行役員 マーケティング本部長
佐々木 丈也 氏

 また、Vポイントの体験がお店での買い物にフォーカスされているのは、SMBCグループのキャッシュレス化戦略とも大きく関係します。たとえばコンビニエンスストアで少額の買い物をする際にも、抵抗感なくキャッシュレス決済、できればモバイルでのタッチ決済を使っていただきたい、ということです。

―― キャッシュレス決済にこだわる理由は何ですか?

 コンビニやスーパーは、最近はセルフレジやタッチ決済など決済ツールが普及してDX化が急速に進んでいますが、それでも依然として、現金決済が根強く残る市場です。

 SMBCグループとしては、こういったお店での日常決済の領域を、いかにキャッシュレスに変容していけるかに注力しています。ECは既にキャッシュレス決済がメインであることが多いので、先ほどから述べている「お客さまのお得の最大化」については、お店での買い物にこそ伸び代があることになります。

――コンビニで使うような少額決済だと、決済事業者としてメリットはあまりないのではありませんか。

 そのような見方ももちろんあります。しかし、SMBCグループは2019年に「キャッシュレス決済戦略」を発表しており、社会インフラとしてのキャッシュレス推進を掲げています。キーメッセージは「いいキャッシュレスがいい毎日をつくる」。つまり、お財布がお金やカードでパンパンに膨れるなどの不便がなくなり、ポイントサービスによって消費者が便利で楽しく生活しやすくなる。また事業者も現金決済に伴うコストや無駄を省けたり、データを活用したマーケティングができたりする。そういったお得と便利を最大化するために、キャッシュレスを使いやすい環境を整えていく戦略です。

 確かに、コンビニなどでの少額取引は、携帯電話料金などまとまった額を定期的に引き落とされるのと比べると、ポイント発行額としても、事業者としての経済的メリットとしても、小さいと言われるかもしれません。

 しかしこの「使い勝手の良さ」は、キャッシュレス社会を目指すにあたっては大きな強みになります。目指すのはコンビニから交通、高額の買い物、飲食まで、日常のあらゆる場面でキャッシュレス決済し、どんどんポイントを貯めやすい環境です。

―― 交通の面で言えば、SMCCの公共交通機関向け決済ソリューション「stera transit」を使ったタッチ決済による乗車サービスは全国で広がりを見せています。また、今年5月には、中小事業者の加盟店手数料を従来よりも抑える取り組みも発表されました。これもキャッシュレス普及促進の一環なのですか。

 その通りです。クレジットカード決済はコロナ禍以降、海外に比べて遅れていた日本においても拡大してきましたが、中小事業者のカード決済は6割程度とされています。決済端末導入の手続きの煩雑さや、端末購入コスト、そしてカード会社に支払う手数料が参入の障壁になってきました。

 SMCCはこの課題を解決するため、中小企業向けの決済手数料の上限(3.25%)設定や売上金の早期振込、オールインワン決済プラットフォーム「stera terminal」や手持ちのスマートフォンをタッチ決済端末として利用できる「stera tap」などのソリューション、決済端末の配布策を実施してきました。

 5月には一定の条件を満たせば加盟店手数料を実質1.98%で提供するキャンペーンを開始しました。これらはいずれも、社会インフラとしてのキャッシュレス普及促進の取り組みで、新生Vポイントもそのひとつの画期であることは、先にご説明したとおりです。

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