テレビCM新時代 #02
「カンヌライオンズ=ビジネス評価せず」は誤解 アワードの意義と広がるクリエイティビティ【佐藤達郎】
膨大な費用や手間をかけて制作されるテレビCM。その市場は長年、大手広告会社がリードし、優れたクリエイターが手がけるCMは時代を映す鏡でもあった。一方で、その費用対効果は必ずしも明確化されてこなかったのが実情だ。この状況に問題意識を持ち、あらゆる企業がテレビCMに挑戦したり、ビジネスへの貢献を明確にしたりする動きも顕在化してきている。
そんなテレビCMの新局面において、マーケターが目指すべき広告施策のあり方を考えるAgenda noteの本連載。第2回はCM業界に大きな影響力を持つ「アワード」の存在を問う。カンヌライオンズをはじめとする世界的な広告アワードは「クリエイターが競う祭典」と目され、しばしば広告主側が重視する「効果」の視点が十分ではないとの見方があるが、実態はどうなのか。長年、カンヌライオンズの現地取材・研究を続け、審査員経験もある多摩美術大学の佐藤達郎教授(広告論・マーケティング論・メディア論)に聞いた。
そんなテレビCMの新局面において、マーケターが目指すべき広告施策のあり方を考えるAgenda noteの本連載。第2回はCM業界に大きな影響力を持つ「アワード」の存在を問う。カンヌライオンズをはじめとする世界的な広告アワードは「クリエイターが競う祭典」と目され、しばしば広告主側が重視する「効果」の視点が十分ではないとの見方があるが、実態はどうなのか。長年、カンヌライオンズの現地取材・研究を続け、審査員経験もある多摩美術大学の佐藤達郎教授(広告論・マーケティング論・メディア論)に聞いた。
カンヌの「誤解」
広告業界ではある有名な格言があります。「広告の半分は売上に効果があり、残りの半分は効果がない。問題は、自分が関わっている広告がどちらなのか分からないことだ」と。広告の効果測定というのは古典的な難題です。本来、来月の売上への貢献と、中長期的なブランディングの、両方の効果があることが望ましい。しかし広告主の中には、効果が見えにくいブランディング重視の広告に対して「金がかかるばかりで売上につながらない」といった否定的な声や、カンヌライオンズなどの代表的な国際広告アワードに対して「ビジネス効果よりも面白さや美しさを評価している」といったイメージがあるのも事実です。
私は長年、これらの「誤解」を解くことに取り組んできました。特にカンヌについては、近年の企業コミュニケーションの多様化を受けて応募部門や審査員、ゲストの顔ぶれも飛躍的に多面化・複雑化しており、一面的に捉えてしまうと、広告ビジネスの潮流を見誤り、時代から取り残されてしまいかねません。
多摩美術大学教授 / コミュニケーション・ラボ 代表
佐藤 達郎 氏
多摩美術大学教授(広告論 / マーケティング論 / メディア論)、コミュニケーション・ラボ代表。学会活動として、日本広告学会常任理事、日本広報学会理事、日本マーケティング学会ブランドマネージャー制度研究会前リーダー、WOMJ(クチコミマーケティング協会)理事<元理事長>、公共コミュニケーション学会理事等を努める。ビジネスの世界では、小田急エージェンシー・クリエイティブアドバイザー、古河電池社外取締役など。2004年カンヌ国際広告祭日本代表審査員。浦和高校→一橋大学→ADK→(青学MBA)→博報堂DY→2011年4月より現職。著書に『「これからの広告」の教科書』、『自分を広告する技術』、『教えて!カンヌ国際広告祭』等がある。
佐藤 達郎 氏
多摩美術大学教授(広告論 / マーケティング論 / メディア論)、コミュニケーション・ラボ代表。学会活動として、日本広告学会常任理事、日本広報学会理事、日本マーケティング学会ブランドマネージャー制度研究会前リーダー、WOMJ(クチコミマーケティング協会)理事<元理事長>、公共コミュニケーション学会理事等を努める。ビジネスの世界では、小田急エージェンシー・クリエイティブアドバイザー、古河電池社外取締役など。2004年カンヌ国際広告祭日本代表審査員。浦和高校→一橋大学→ADK→(青学MBA)→博報堂DY→2011年4月より現職。著書に『「これからの広告」の教科書』、『自分を広告する技術』、『教えて!カンヌ国際広告祭』等がある。
前提として、カンヌライオンズの審査員は広告ビジネスやマーケティング・ビジネス領域で日々闘っている人ばかりで、その広告は効果があるかないか、効果がありそうかなさそうか、効果的な施策のヒントになり得るか…という視点が基本となります。私が2004年に審査員を務めたフィルム部門のように、最も歴史があってアーティスティックな面が強い部門でさえ、「ブランドの課題解決に貢献しているか」「ブランドの価値を上げているか」という視点が不可欠です。比較的新しく設置された統合型コミュニケーション系の部門では審査ポイントである戦略、アイデア、仕上がり、効果のそれぞれの比率が応募者に事前に開示されます。「効果とは何か」を議論するセミナーや定量的な調査も行われており、「商業的効果を無視している」という批判は当たらないのです。
ただ一方で、その効果の見せ方には、インプレッション数や売上といった分かりやすい数値だけでなく、「SNSで話題になった」「メディアに取り上げられたから広告換算するといくらの価値がある」や、あるいはもっと長期的・サステナブルな指標など、多様性・柔軟性があります。カンヌを貫くのは「クリエイティビティの高い広告こそ効果がある」という思想です。そのため、必ずしも数値的な効果がそこまで大きくなくても、「効果がある」と審査員を納得させられるだけの材料があれば、評価されることもあります。
たとえば、「Outdoor」部門で2024年のゴールドを受賞した英国航空の「WINDOWS」は、“No call for action”、つまり直接的な反応を促さないことに振り切った広告です。飛行機の窓から外を眺める顧客を映すだけで、キャッチフレーズや完全な形でのロゴが無いという型破りなシンプルさが、英国民との間で長年の間に培われたエモーショナルな絆を示し、価格や機能で訴求する格安キャリアとの差別化を図っています。
また、商業的効果を評価する「Creative Effectiveness」部門は、他部門では直近に出稿した広告しかエントリーできないのに対して、前年までのカンヌで「ショートリスト入り」していることが応募条件として課されています。一定のクリエイティビティの高さが認められているからこそ、商業的効果も評価されるのです。