日本の広告最新事例を世界の潮流から読み解く #52

商品価値を「世の中ごと化」して伝える。ゼスプリ新CMとW杯優勝アルゼンチン企画の共通点

前回の記事:
iPad 新製品の動画が大炎上で謝罪。あのアップルが、いったい、どこで何を間違えたのか?
 私は長年、多くの広告コミュニケーションの海外事例を紹介、その分析に努めているのですが、この連載では、いつもとはある意味では逆に、まず日本の話題作に目を向けて解説し、そのうえで、その意図や施策の在り方が、海外のどんな潮流と関連しているのかについて考えていこうと思います。今回は、その第52回です。
 

CMの主役はキウイブラザースではなく猫


 ニュージーランド産キウイの生産・販売会社であるゼスプリのキャラクターとして、もうすっかりおなじみのキウイブラザース。しかし、2024年8月4日の「栄養の日」から流れている新テレビCMの主人公は、猫ちゃん。

 猫ちゃんは、仕事やプライベートに忙しいらしく、食事を抜いたり、栄養バランスを考えずにメニューを選んだりしています。
 
ゼスプリのテレビCM「できることからはじめよう」
 
 朝、ギリギリに起きて時間がなく、朝食抜きで出かけようとする猫ちゃんに、キウイブラザースは何か食べようと訴えます。猫ちゃんはさらに、コンビニに行っては、お菓子みたいなもの(ビジュアルとしては“もじゃもじゃ”で表現されている)をご飯がわりにしています。テレビ番組ではレッサーバンダが「栄養のバランスが大事なんです」と話していて、キウイブラザースもそうしようと促しますが、猫ちゃんは聞く耳を持ちません。

 そうこうしているうちに、猫ちゃんはパタリと倒れてしまいます(という夢をキウイブラザースが見たという設定)。そして、倒れた猫ちゃんからは、魂が昇天して行きかけます。ヤ、ヤ、ヤバイ。昇天しかけた魂を、猫ちゃんの身体に必死に戻すキウイブラザース。この辺りは、この夏に大きな話題となった、熱中症で倒れる人も連想させます。

 そこに円グラフが現れて、日本人の39.7%が栄養不良状態にあるという衝撃の数字を示します。猫ちゃんは、やっと栄養バランスの大切さに気付き、キウイブラザースが進めるバランスの良い朝ご飯を食べ始めます。そのメニューは、食パンと目玉焼きと野菜が中心で、キウイは脇に少し置かれている程度です。

 あくまでも、メッセージの中心は「バランスの良い食事をとろう!」で、ゼスプリが進める「栄養改革プロジェクト」の文字で締めくくられます。「キウイを食べよう!」はもちろん、キウイは健康に良いバランスの取れた食品だというメッセージも、直接的にはほとんど出て来ません。

 あくまでも、「栄養不良状態を解消しよう」という社会課題解決を掲げ、すなわち「世の中ごと化」をメインに訴求して、その活動を通して、キウイは健康食品だというイメージへ繋げようという意図だと考えられます。

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