CATCH THE RISING STAR #19

キンドリルジャパン立ち上げから携わる若きマーケターがこだわるブランディングと「勝ち取る」姿勢【立石汐南氏】

前回の記事:
大丸松坂屋3年目マーケターが百貨店を起点に目指すテクノロジー活用と街づくり【近藤慎一郎氏】
 企業におけるマーケティングの重要性が増す一方、「マーケターの仕事はAIに奪われるのでは」とも囁かれる昨今。そんな変革期に、マーケティング領域で働く若者は何を考え、どう行動しているのか。

 Agenda noteでは「Z世代」と一括りにされがちな彼らの中でも、各企業が特に期待を寄せる「ライジングスター」にフォーカス。生まれた時からインターネットに触れ、テクノロジーやSNSを使いこなす彼らの多彩な思考や行動を探ることで、マーケティング領域の近未来を照射していきたい。

 第19回に登場するのはキンドリルジャパンの立石汐南氏。前身の日本IBMで営業として活躍した後、2021年の分社化でマーケティングに手を挙げた同氏は、創立期のキンドリルジャパンのブランディングに深くコミットした。グローバルとの交渉でもタフなトライアンドエラーを踏みながら、積極性を武器に成長を続けるグローバルマーケターの姿に迫った。
 

波に乗ってマーケティングへ


―― 入社の経緯を教えてください。

 日本IBMに新卒で入社し、金融向けの営業を経て、2021年の分社に合わせて社内転職のような形でキンドリルジャパンのマーケティングに携わることになりました。

 自分らしく働けるIBMの営業の仕事が大好きで、必死で目の前の業務に取り組んでいた中、スピンアウトの話が浮上した時は、一度キャリアを立ち止まって考えるいい機会となりました。

 グローバルレベルでここまで大規模な会社の立ち上げに関わることができる滅多にない機会に、先頭に立って進めていくメンバーの一員になりたいと思いました。そして、新会社立ち上げの際は、外から会社がどう見られるかといったブランディングが重要になると考え、ブランドマーケティングのポジションを志望しました。

 今の仕事ができているのは、当時の上司が一人ひとりのキャリアを応援し、チャレンジを後押ししてくれたからです。本当に感謝しています。
 
立石 汐南 氏
キンドリルジャパン マーケティング戦略本部 ブランド戦略&コンテンツ ブランド マーケティング

―― キンドリルジャパンになってからは、どのような仕事を担当してきましたか。

 ブランディングに関わるさまざまな仕事を担当してきました。

 キンドリルは世界中で事業を展開しており、全世界で共通したブランドイメージを伝えていく必要があります。会社名もブランドカラーもキンドリルをマーケットに認知してもらい、ブランドイメージを定着させるために、グローバル本社がつくるものを日本向けに正しくローカライズすることは非常に重要です。グローバルとローカルの意向をきちんと理解した上で、日本のマーケットに合わせて、トランスクリエーションしています。もちろん、必要な時にはグローバルとコミュニケーションをとりながら日本独自のものをつくることもあります。

 設立当時のブランドチームの業務内容として、全世界でキンドリルブランドを力強く、一貫性をもって表現するためのブランドガイドラインの日本版の作成をはじめ、ブランドのタグラインである「The Heart of Progress™︎」の日本語版「社会成長の生命線」の作成や「Kyndryl」というロゴを片仮名にする際のフォント選定などがありました。

 そのガイドラインをベースに、ブランドクリエイティブをローカライズし、広告展開を実施したことも、チームとしての大きな仕事でした。

 立ち上げ当初は、新しい社名やブランドメッセージを多くの方に目にしてもらう必要があったため、新聞やWeb広告だけではなく、OOH、駅や電車のサイネージ広告などを実施しました。私は、より認知してもらいやすいアイデアを積極的に出し、とくに渋谷スクランブル交差点の大型ビジョン広告とラッピングバスは、グローバル全体で反響があり、社員のエンゲージメント向上やインターナルブランディングの構築にも寄与したと考えています。

 なお、広告やWebサイト内で使用する写真は、グローバルの素材をそのまま使用するよりも、日本人を採用したものに差し替えることで、マーケットにより親近感を感じてもらえる効果があります。そこで、よりマーケットとブランドイメージに沿った写真を使用するべく、日本で撮影を行いました。

 私はグローバルブランドチームと日本の制作会社の間に立ち、撮影場所、モデルさんの選出、服装やヘアメイクなど、ブランドイメージに沿ってディレクションしました。モデルさんの服装の提案に対して、スタイリストさんにかなり具体的に、服と希望の色の写真を付けてお伝えするなど、会社のイメージに関わるブランディングなので少しの妥協もせず、より完璧なものを求めて細部までこだわりました。この時に撮影した写真はその後多くの広告や、IR資料などキンドリルとして対外発信する資料に使われることになりました。

―― 制作会社に任せるのではなく、きめ細やかにディレクションを行うことで、新会社のブランドイメージの確立に貢献されたのですね。ほかにはどのような業務を担当されていますか。

 私はキンドリルジャパンのソーシャルメディアの責任者でもあります。ブランドイメージ向上のため、そして日本のマーケットに根差した情報発信をするべく、日本単独でアカウントを運用しています。アカウントを一から作成し、トンマナなどの細かいルール決めから、リスク対策を含む運用ガイドラインの作成をして、キンドリルのニューヨーク証券取引所上場に合わせて運用を開始しました。一度はグローバルアカウントのフォロワーを超えるアカウントにまで成長させることができ、今ではSNSを見てキンドリルに入社したという社員も出てきており、採用にも寄与していると考えています。

 そのほかにも、社外向けのコンテンツやノベルティグッズ制作のリードも実施しています。

 たとえば最近では本社移転に合わせて、会社紹介動画を制作しました。制作会社とともにストーリーラインを決めて社員に出演を依頼し、撮影では休日にも関わらず50名ほどが集まってくれました。私は当日まで、性別・年齢のバランスや個々の出演量にも考慮して香盤表を細かく調整しました。その結果、グローバル全体でも初の試みである、社員が実際に働いている様子をリアルに映す動画を制作することができました。この撮影で、社員同士のつながりの醸成や、帰属意識を高めることにつながったと思います。また、動画を観て、日本の社員だけでなく他の国の社員も、会社が魅力的に見えたと言ってくれました。ローカルの動画の中では、これまでで一番多く視聴された動画でもあります。

 このように、エクスターナルブランディングだけではなく、インターナルブランディングの強化につながるようにも工夫しています。

 いずれの場合においても、グローバル本社の求めるブランディングは非常に厳しく、ブランドガイドラインを正しく理解し、自分の中に落とし込んでいる私が主体的に動くことで、キンドリルとして訴求すべきブランディングと、日本に馴染むようなローカライズとを両立できると考え、積極的にディレクションするようにしています。

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