TOP PLAYER INTERVIEW #77
サブスクにAI、苦情の次世代化…50年を迎えた広告審査機関JAROが向き合う広告の信頼性への課題
世の中にあふれる広告。中には消費者に悪影響を及ぼす嘘や誇大広告、誤解を招くようなものもある。消費者の声を起点に、そんな問題のある広告を自主規制する民間の機関、日本広告審査機構(以下、JARO)が設立から今年、50周年を迎えた。
50年間に受け付けた苦情・照会(相談)は実に26万件。近年はWeb広告の普及により、その役割はますます増しているが、若年層への認知など課題も多い。今回は博報堂出身で現在はJARO事務局長を務める川名周氏に、JAROのこれまでとこれから、そして広告適正化のために広告主や広告会社、消費者ができることを聞いた。
50年間に受け付けた苦情・照会(相談)は実に26万件。近年はWeb広告の普及により、その役割はますます増しているが、若年層への認知など課題も多い。今回は博報堂出身で現在はJARO事務局長を務める川名周氏に、JAROのこれまでとこれから、そして広告適正化のために広告主や広告会社、消費者ができることを聞いた。
「生の苦情」が最大の強み
―― 50周年を迎えたJAROの役割について教えてください。
1974年に誕生した広告・表示の自主規制機関で、民間の団体です。50年前に書かれた定款上の目的は「公正な広告活動の推進を通じて広告・表示の質的向上を図る」というものでした。
それから広告を取り巻く環境は大きく変わりましたが、この使命は今でも一貫して重要だと考えています。広告の質を良くすることは、企業の事業活動そのものを良くし、消費者の利益にもなり、健全な経済成長を促します。インチキだらけの広告では経済は良くなりません。広告・表示の適正化が国民生活の向上にも寄与するという信念が根底にあり、共鳴する広告関係団体、広告主、媒体社、広告会社などが会費を出し合って運営しているのがJAROです。
川名 周
公益社団法人日本広告審査機構(JARO)事務局長
博報堂に入社後、マーケティングプラナー・ディレクターとして数々の得意先のコミュニケーション開発・ブランディング・商品開発などに携わる。2006年にデジタル領域に転じ、博報堂DYグループの新しいコミュニケーションモデル「エンゲージメント・リング」を発表。10年よりエンゲージメントプラニング局長、14年より博報堂DYホールディングスでイノベーション創発センター長を務める。18年より日本広告審査機構事務局長。 週末は、駿河台大学メディア情報学部客員教授。共著に「自分ごとだと人は動く」(ダイヤモンド社)、解説に「本当のブランド理念について語ろう」(CCC)がある。
公益社団法人日本広告審査機構(JARO)事務局長
博報堂に入社後、マーケティングプラナー・ディレクターとして数々の得意先のコミュニケーション開発・ブランディング・商品開発などに携わる。2006年にデジタル領域に転じ、博報堂DYグループの新しいコミュニケーションモデル「エンゲージメント・リング」を発表。10年よりエンゲージメントプラニング局長、14年より博報堂DYホールディングスでイノベーション創発センター長を務める。18年より日本広告審査機構事務局長。 週末は、駿河台大学メディア情報学部客員教授。共著に「自分ごとだと人は動く」(ダイヤモンド社)、解説に「本当のブランド理念について語ろう」(CCC)がある。
会員社数は設立直後の257社から、2024年9月現在で880社と3倍以上に増えました。内訳は広告主367社、新聞77社、放送178社、出版40社、インターネット(媒体)24社、広告会社165社、広告関連29社。マスメディアはほぼ加盟していますが、Webメディアはまだまだ少ないのが現状です。
JAROの活動でメインとなるのは、広告に対する意見を受け付け、「問題がある」と疑われる広告は審査して改善を促すことです。景品表示法などの法律や規制に違反していないかどうかや、不快表現になっていないかについて、会員社から相談(照会)を受け、アドバイスするサービスも年間1500件ほど行っています。1974年度に54件からスタートした相談・照会の受付件数は2017年度に1万件を超え、50年間の累計では約26万件に上ります。
加えて、セミナー(ウェビナー)や講師派遣を行っています。セミナーは年間7000人ほど参加いただいていますね。
そういった活動やセミナーの情報もまとめた月刊機関誌『REPORT JARO』は通算590冊を発行してきました。会員社や行政機関に配布するために毎回5000部ほど出しており、広告・表示規制に絞った刊行誌がほかにはないこともあって、なかなか評判がいいです。表紙のデザインなども、広告の関連団体らしくかなりこだわっています。海外の広告規制や、たとえば「ジェンダー」など特定のトピックの特集をすることもあります。
―― 情報発信は行政機関も行なっていると思いますが、JAROの情報発信の特徴は何でしょうか。
媒体社の皆さんには、行政機関などが個別に発信する情報だけでなく、さまざまな商材の広告・表示に関するルールや判例、あるいは業界の自主ルールなどを網羅的に知っている必要があるため、重宝されています。JAROは常に広告に関する最新情報をキャッチアップすべく、毎月、専門家や行政機関の人を招いたセミナーを開いているので、そこでの情報を広く周知する意味でも、機関誌の発行は重要な業務になっています。
JAROの強みは、やはり「消費者の生の声」を大量に持っていることです。代表的な声を『REPORT JARO』に毎月掲載するほか、関係機関や行政・自治体などとも定期的に連絡会を設け、情報収集に努めています。たとえば国民生活センターとは毎年懇談会を行い、消費者からの相談事案で広告が原因になっているケースについて意見交換しています。
会員媒体社にもそれぞれ、広告の審査や考査を担当する部署があるので、それらの担当者と連絡会を開いたり、インターネット事業者などとも個別に連絡会を行ったりしています。