顧客満足を探究する~データと戦略の森から~ #03

「満足度の高いホテル」に泊まれるのは誰なのか? 最新調査から見えてくる顧客基盤の重心【青山学院大学 小野譲司】

前回の記事:
「1位宝塚、2位ヨドバシ」顧客満足を高める鍵はバラツキ抑制、トラップにもご用心 【青山学院大学 小野譲司】
 マーケティングにおいて「顧客満足」が重視されるようになって久しい。顧客ニーズの複雑化と商品サービスの均質化に呼応するように、ますます多様化するデータ、戦略があふれかえるマーケティングの森から、企業やマーケターは目指すべき顧客満足をどう探し当て、推進すればいいのか。

 本連載は青山学院大学経営学部の小野譲司教授が、顧客満足度を業界横断的・継続的に調査するJCSI(日本版顧客満足度指数)調査のデータやさまざまな事例から顧客満足を学術的に紐解き、課題解決を目指すマーケターに科学的な視座と知見を提示する。

 第3回は持続的なブランド成長に繋がる「顧客基盤」について、JCSIホテル・ビジネスホテル部門の最新調査結果と、利用頻度に焦点を当てた「顧客シェア」の視点から解説する。満足度の高いホテルと低いホテルの違いを顧客シェアで捉え直したとき、重心を置くべき顧客基盤の実態と新たな戦略のヒントが見えてくる。
 

顧客基盤をどう可視化するか?


 顧客体験を改善し、顧客満足を高めることは、短期的な収益や利益の拡大を目的とするだけでない。ロイヤルティが高い顧客を創造し、ブランドや事業の持続的な成長と存続の基盤となる「顧客基盤(customer base)」という中長期的な目的を達成するためでもある。

 それゆえ、どのような顧客が、どのような問題やニーズを抱えているかに基づいて、問題発見・解決策の実行にあたるために、顧客基盤の現状を把握し、あるべき姿を描いて目標を設定する必要がある。そこで問題になるのが、自社の顧客基盤をどのように捉えたら良いか、である。

 オンラインサイトのアクセス数であれば、複数回繰り返してアクセスする人もいるため、延べアクセス人数よりもユニークユーザー数が顧客基盤を表すには適切だろう。だが、顧客基盤は企業にもたらす収益の大きさに関わるため、リピーターが全顧客の中にどの程度含まれているかを反映すべきである。

 また、そのリピーターもライトユーザーからヘビーユーザーまで度合いが違うため、何らかの客観的指標を用いてセグメンテーションを行う必要がある。代表的な指標として、過去の購買履歴を反映したRFM(Recency:直近購入日、Frequency:購買頻度、Monetary Value:金銭価値)や、将来にもたらすと期待されるLTV(Lifetime Value:顧客生涯価値)など、CRM(顧客関係管理)でよく知られている指標が挙げられる。

 顧客が同じ製品・サービスを繰り返し購入するだけでなく、関連商品・サービスの関連購入や、より高価格で利益率が高い製品・サービスへとシフトするように、企業はさまざまなマーケティング施策を講じる。そして、そこで重視されるもうひとつの指標が「顧客シェア」である。これは、顧客の財布から支出される総金額から自社に支払われる金額の割合を表すことから「財布シェア」(Share of Wallet)とも呼ばれ、CRM指標のひとつとされる(Kumar and Reinartz 2012)。

 たとえば、1カ月の可処分所得が10万円の個人が、スマートフォンの通信費に平均1万円を支出している場合、通信キャリアへの顧客シェアは10%となる。通信キャリアにとって、同業他社よりも回線契約数を増やす「市場シェア」だけではなく、「顧客シェア」を伸ばすという目標の立て方がある。通信回線を契約した顧客にスマホ上で視聴できる動画、音楽、マンガや雑誌の定期購読から、自宅のWi-Fi回線や電気料金、クレジットカードの加入に至るまでのサービスの追加・関連購入を促すことによって客単価(ARPU:Average Revenue Per User)を1.3万円に伸ばすことができれば、財布シェアは13%になる。

 ところで、財布シェアが高い顧客が増えるほど、顧客満足度は高くなるだろうか。最低限のサービスしか購入していない顧客よりも、追加・関連購入をする顧客のほうが、相対的に満足度が高い傾向がある、といった指摘もある。あるブランドを利用した顧客の満足度は、適切にサンプリングが行われている限り、100人中のほとんどが90点の高評価をしているのは稀である。逆に、ほとんどが60点の低評価をしている、ということも稀であり、母集団を反映したサンプリングが行われていれば、低評価から高評価までバラツキがあるのが一般的である。そこで、ブランド全体の満足度スコアはあくまでも平均値であり、バラツキがどこで発生しているかを特定する必要がある。

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