CATCH THE RISING STAR #21
伊藤園で「お茶じゃない」飲料を担う若手マーケター、「研究開発」視点をどう生かす?【西田直紀氏】
企業におけるマーケティングの重要性が増す一方、「マーケターの仕事はAIに奪われるのでは」とも囁かれる昨今。そんな変革期に、マーケティング領域で働く若者は何を考え、どう行動しているのか。
次世代を担う「ライジングスター」にフォーカスしたAgenda noteの本連載。今回は特別編として、11月8日に開講された若手マーケター向け実践型アクセラレータープログラム「Rising Academy by ノバセル」の卒業課題に決まった「伊藤園の野菜飲料」に関連して、同社の野菜・果実飲料のマーケティングを担う入社10年目の西田直紀氏にインタビューした。
「お~いお茶」など、日本を代表する緑茶飲料メーカーとして知られる伊藤園に研究開発職として入社し、「お茶ではない」飲料を担当してきた西田氏。野菜・果実飲料が持つ特有の課題に向き合いながら、研究開発目線も生かした幅広いマーケター業務について聞いた。
次世代を担う「ライジングスター」にフォーカスしたAgenda noteの本連載。今回は特別編として、11月8日に開講された若手マーケター向け実践型アクセラレータープログラム「Rising Academy by ノバセル」の卒業課題に決まった「伊藤園の野菜飲料」に関連して、同社の野菜・果実飲料のマーケティングを担う入社10年目の西田直紀氏にインタビューした。
「お~いお茶」など、日本を代表する緑茶飲料メーカーとして知られる伊藤園に研究開発職として入社し、「お茶ではない」飲料を担当してきた西田氏。野菜・果実飲料が持つ特有の課題に向き合いながら、研究開発目線も生かした幅広いマーケター業務について聞いた。
「ビタミン野菜」の売上増
―― 研究開発職として入社し、マーケティング職に移られた経緯を教えてください。
学生時代は、東京理科大の大学院で生物工学系の基礎研究をしていました。生物の中で細胞がどういう動きをするか…といったミクロの世界です。元々、生き物が好きで健康志向も強かったことから、健康に貢献する仕事に就きたいと思ったのと、研究などで手を動かして何かをつくるのもすごく好きだったので、就活においては「ものづくり」や「健康への貢献」を重視して企業を探しました。
その中で伊藤園は日本に根ざしたお茶のトップメーカーですし、持続可能な農業を支援する「茶産地育成事業」などの取り組みをしている点にも共感し、研究開発職として入社を決めました。
西田 直紀 氏
伊藤園 マーケティング本部 野菜・果汁・乳酸菌・機能性・フードブランドグループ
伊藤園 マーケティング本部 野菜・果汁・乳酸菌・機能性・フードブランドグループ
入社時はやはり「お茶」に着目したんですが、実は入社以来、野菜・果実飲料などを担当しており、お茶事業には携わっていないんです(笑)。伊藤園は国内トップシェアを誇る緑茶飲料「お~いお茶」が有名ですが、「1日分の野菜」「充実野菜」「理想のトマト」などの野菜・果実飲料、コーヒーや炭酸水なども幅広く手がけています。
私自身、健康や栄養を普段から気にかけていて、「人々の健康につながる飲料をつくることで社会に貢献したい」と考えました。そこで、最初の配属希望を聞かれた際に「野菜ジュースを担当したい」と希望を出したところ、静岡県の相良工場にある研究所に配属され、最初の2年は野菜飲料、最後の1年は炭酸飲料の研究開発にあたりました。
その後、研究所での働きを評価していただき、4年目に東京本社のマーケティング本部に異動してきました。「技術的な面を知っている人間がマーケティング本部にも必要」と考えられたのが、大きな要因だったようです。以降、ずっとマーケティングを担当しています。
―― 働く環境や業務内容が大きく変わったわけですが、どのように順応されましたか。
研究開発にしてもマーケティングにしても、最終アウトプットというか、目指すところは商品を手に取ってくださるお客さまの満足と健康です。業務内容は変わっても、学生時代に描いた仕事像をぶらさないように心がけています。
異動した当初は、先輩から受け継いだ野菜飲料ブランドの「ビタミン野菜」など、いくつかの新商品を担当しました。マーケティング本部には、商品を企画するブランドグループと、広告宣伝部と販売促進部があり、私は前者で主に既存ブランドの成長を使命としています。商品のブラッシュアップ・品質改良はもちろんのこと、課題を分析した上でのパッケージデザインの改良や、新価値を創造する企画提案を行うとともに、冬であれば「風邪にはビタミン」といった店頭用販促ツールの作成など、売り場でお客さまに手に取っていただけるような取り組みを、販売促進部と連携しながら年間計画を立てて実行しています。
健康志向の高まりとともに、野菜・果実飲料は消費者の関心も高まる一方、栄養成分や機能性の表示などは慎重に行う必要があります。私がマーケティング本部に加わったのには、商品の原材料や成分までよく知る人間が、企画から店頭での表現まで関与したほうがいいという判断もあったようです。
―― 「ビタミン野菜」は西田さんが担当された頃から売上が伸びていると伺いました。その要因は何だったんでしょうか。
私が「ビタミン野菜」を担当した頃はちょうどコロナの流行し始めでした。栄養をしっかり取って免疫を働かせるのが重要といった言説が広まり、12種のビタミンが1日分摂取できる栄養機能食品である「ビタミン野菜」が、一層注目を浴びるようになったのです。
そこで店頭POPなどでビタミンが含まれた商品であることを前面に打ち出したところ、売上が伸びました。これは商品がもともと持っていた優位性を、適切なタイミングで打ち出した結果、購買動機に繋がったと考えられます。オレンジ味で飲みやすく、黄色いパッケージでいかにも元気が出そうといった特徴も生かされたと思います。
「ビタミン野菜」だけでなく野菜飲料はもともと、ビジネスパーソンがお弁当と一緒にコンビニで購入することが多いという特徴がありました。そういった機会に試していただき、美味しいし健康にもいいということを知っていただけることで、通販サイトからケースで継続購入してくださる方も多いのです。テレビCMを打ったりしなくても、根強く売上を伸ばしています。
本当にシンプルですが、その時々の社会環境を捉えて、お客様のニーズに合ったプロモーションを行い、手にとってもらう「きっかけづくり」をすることが重要だと実感しましたね。