新時代のエンタメ舞台裏~ヒットにつなげる旗手たち~ #12

人気ゲーム「VALORANT」「リーグ・オブ・レジェンド」を生んだライアットゲームズが追求する驚きのビジネスモデルとeスポーツの新潮流

前回の記事:
企業の縦型ショートフィルムは最も難しい? 『カメ止め』『アングリースクワッド』の上田慎一郎監督が切り開く広告とコンテンツの未来
 日本の音楽・映画・ゲーム・漫画・アニメなどのエンタメコンテンツが、世界でも注目されることが多くなった昨今。本連載は、さまざまなエンタメ領域の舞台裏で、ヒットを生む旗手たちの思考を noteプロデューサー/ブロガーの徳力基彦氏が解き明かしていく。

 今回は2009年に米国でリリースした世界的な人気PCゲーム「リーグ・オブ・レジェンド」や日本でも話題の「VALORANT」を生んだRiot Games, Inc.(米国)の日本法人である合同会社ライアットゲームズ 社長/CEO 藤本恭史氏にインタビュー。同社は2022年6月にさいたまスーパーアリーナで行われたeスポーツ大会「2022 VALORANT Champions Tour Challengers Japan Stage2-Playoff Finals」を主催し、2日間の総来場者は2万6千人超と、国内eスポーツ市場の最多動員数を更新。その市場規模と経済効果に企業も熱視線を送る。

 海外に比べてeスポーツが遅れているとされる日本において、これらのゲームやイベントがZ世代を中心に爆発的な人気を生んでいるのはなぜか。前編はその斬新なビジネスモデルと日本における潮流の変化に迫る。
 

全てがプレイヤーファースト


徳力 まず、ライアットゲームズという会社について簡単に説明していただけますか?

藤本 2006年に米国で創業されたゲーム会社です。創業者のブランドン・ベックとマーク・メリルは元々ゲーマーでしたが、銀行員とコンサルタントという別の仕事に就いていました。

2人は、既存のゲーム会社が行う課金モデルやアイテムの売り方などに疑問を感じていました。そこで、「プレイヤーのことを一番に考える会社をつくろう」と考え、ライアットゲームズを設立しました。

プレイヤーファーストのスタンスは、創業以来ずっと続いていて、ビジネスモデルなどに大きな影響を与えています。つまり、プッシュ型でサービスを押し出すか、デマンドプルでサービスやプロダクトを提供するという大きな違いです。
 
合同会社 ライアットゲームズ 社長/CEO
藤本 恭史 氏

国内 IT 企業でのフィールドエンジニアを経て、1998年11月よりマイクロソフト(現 日本マイクロソフト)に入社したのち業務執行役員 Windows 本部長及びセントラルマーケティング本部長、2015年7月からはペイパルにおけるマーケティング統括等を歴任。2018年3月より 合同会社ライアットゲームズにパブリッシング統括ディレクターとして入社。2022年2月21日付けで社長/CEOに就任。

徳力 ライアットゲームズのドキュメンタリー動画を見たことがあります。印象的だったのは、本当にプレイヤーサイドから始まった会社だということです。ファンを大事にしており、5人対5人の対戦型PCゲーム「リーグ・オブ・レジェンド(以下、LoL)」の世界大会「World Championship(通称Worlds)」は、毎年すごい同時視聴数ですよね。

藤本 Worldsで同時視聴数が一番多かったのは2021年の大会で、最大同時視聴者数が7386万人でした。日本のゲーム大会ではありえない数字です。これは一画面ごとのカウントなので、ビューイングパーティーも含めると、実際の視聴者数はもっと多いでしょう。

LoLは基本プレイ無料です。日本の多くのモバイルゲームも基本プレイ無料ですが、ある程度進めていくと、先に進めるためには課金が必要になったり、ガチャの購買意欲を高めたりする仕組みがあります。

一方でライアットゲームズのゲームは、どれだけレベルが上がっても、何時間プレイしても、無料のままで遊ぶことができます。実際にお金を払うのは、キャラクターの見た目を変えるスキン(着せ替え)などを購入する場合だけとなります。

まずゲームを楽しんでもらい、キャラクターをデコレーションしたくなるほどゲームに入れ込んでもらって、初めて対価を得ることができるビジネスモデルです。ゲーム開始から、かなり後になって回収できるという形です。

徳力 日本のスマホゲーム、初期はソーシャルゲームと呼ばれており、ガチャで非常に儲かりましたよね。それによって市場が急速に大きくなったのですが、その分、子どもが課金しすぎてしまうという問題が起き、政府の規制が入るようになりました。つまり、ビジネスモデル先行で進んでしまったわけです。
 
note noteプロデューサー/ブロガー
徳力 基彦 氏

NTTやアジャイルメディア・ネットワーク等を経て、現在はnoteプロデューサーとして、ビジネスパーソンや企業におけるnoteやSNS活用のサポートを行っている。個人でも、日経MJやYahooニュース!個人のコラム連載等、幅広い活動を行っており、著書に「普通の人のためのSNSの教科書」、「アルファブロガー」等がある。

一方でライアットゲームズは設立当初から、プレイヤーがいかに楽しむかを重視し、お金を払わなくてもプレイし続けられるようにしているのですね。それだけだと、どうやってビジネスを成り立たせるのかと疑問に感じましたが、今やLoLは世界的なeスポーツの牽引役として知られます。

初期の頃から、ゲームを競技と捉えてイベント化するeスポーツを意識していたのでしょうか?

藤本 2006年に創業して、LoLの米国リリースが2009年。その少し後にeスポーツを始めました。最初は本当に小さなコミュニティの中で、プレイヤー自身の知識とスキルを人前で発揮してもらう場をつくろうということで始まりました。その後、プレイヤー人口がどんどん増え、よりスキルの高い人たちが現れ、「プロ」と言われるようなレベルの人が生まれ、さらにeスポーツとして伸びていきました。

徳力 元々、eスポーツをやるためのゲームとしてLoLをつくったわけではないのですね。

藤本 そうですね。お金を使わなくてもプレイできるゲームなので、プレイヤーは昔も今もかなり若い方が多くなります。そのためイベント自体も、普通ならチケット代で数万円するようなものも、比較的安価で手に入るようにしています。我々も資金を投じ、プレイヤーからも協力してもらい、スポンサーの方々からも支援をもらって、みんなで最高の舞台をつくり上げるようにしています。

eスポーツは、企業によっては興行、あるいはコンサートのようなイベントとして捉えていますが、私たちはそれとは違う視点をもっています。ゲームのプレイヤーが誰も想像もしていなかった高みに達したとき、その驚くべきプレイを披露し、他のプレイヤーに新しい楽しみ方を還元するためのショーケースとして位置づけています。

eスポーツの文脈で、いろいろな人から相談や質問をもらうのですが、私たちはeスポーツのイベントを単独事業として黒字化できるようなモデルでは展開していません。そのため、専業でeスポーツ事業をしたいと考えている企業とは、方向性が異なる場合があります。

マーケターに役立つ最新情報をお知らせ

メールメールマガジン登録