新時代のエンタメ舞台裏~ヒットにつなげる旗手たち~ #13

人気ゲーム「VALORANT」がZ世代を魅了する理由、ライアットゲームズの企業コラボ戦略

前回の記事:
人気ゲーム「VALORANT」「リーグ・オブ・レジェンド」を生んだライアットゲームズが追求する驚きのビジネスモデルとeスポーツの新潮流
 日本の音楽・映画・ゲーム・漫画・アニメなどのエンタメコンテンツが、世界でも注目されることが多くなった昨今。本連載は、さまざまなエンタメ領域の舞台裏で、ヒットを生む旗手たちの思考を noteプロデューサー/ブロガーの徳力基彦氏が解き明かしていく。

 今回は世界的な人気 PCゲーム「リーグ・オブ・レジェンド(以下、LoL)」や日本でも話題の「VALORANT」をリリースし、驚異的な視聴者数を誇るeスポーツ大会を世界各地で開催するRiot Games, Inc.(米国)の日本法人であるライアットゲームズ 社長 藤本恭史氏に取材。同社は2022年6月にさいたまスーパーアリーナで行われたeスポーツ大会「2022 VALORANT Champions Tour Challengers Japan Stage2-Playoff Finals」を主催し、2日間の総来場者は2万6千人を超え、その市場規模と経済効果に企業も熱視線を送る。

 前編では同社の斬新なビジネスモデルと日本におけるeスポーツの新潮流を聞いた。後編ではZ世代をディスプレイに釘付けにし、熱狂的なエンゲージメントを生み出すeスポーツの秘密と、参入を考える企業が重視すべきことを深掘りする。
 

Z世代が推すカルチャーに


徳力 前編では海外に比べて遅れをとっていた日本のeスポーツが、VALORANTの世界大会の日本開催などを経て大きなうねりを起こしていることを伺いました。特にVALORANTはファン層に女性やZ世代が目立ちますよね。

藤本 そうですね。VALORANTのファン層の7割以上はZ世代で、日本で開催される大会の来場者には女性も多いです。その背景にはプレイヤーたちの魅力もあります。今までのプロゲーマーは比較的「オタク」っぽいイメージがあったと思いますが、VALORANTのプレイヤーは非常にスタイリッシュで、ファッション雑誌の表紙を飾るようなイケメンもいます。彼らが協力して戦う姿を見たことで一気にファンが増えました。

人気を集めるゲーム配信者も日本チームの快進撃を応援していたことで、彼らのファンも一緒になって応援するという一大ムーブメントが生まれました。このような流れに敏感なZ世代の層が惹きつけられています。

Z世代の若者は、YouTube やNetflixなどの動画を早送りして見るほど、タイパ意識が強い傾向にありますが、eスポーツの試合になると驚くほど長時間視聴するのです。1時間ほどの試合を5試合から6試合も平気で視聴し続ける。これはeスポーツとファンがつくり出す世界観が生み出した新しいトレンドと言えると考えています。

その様子を端的に示しているのがこちらの動画です。
 
VALORANT Masters Tokyoのアフタームービー(VALORANT // JAPAN公式YouTubeより)

徳力 おもしろいですね。プロスポーツの試合と同じレベルの熱狂が生まれているのがここに表れています。素朴な疑問なのですが、この観戦者は皆プレイヤーなのでしょうか?それともファンですか?
 
note noteプロデューサー/ブロガー
徳力 基彦 氏

藤本 プレイヤーもいれば選手のファンもいますし、ゲーム配信者のファンもいます。

徳力 スポーツだと、実際にプレイしていない人が観戦するのは普通ですが、ゲームの場合は普段からゲームをプレイしている人が参考にするために観戦するのだと思っていたので、純粋に観客としてのファンがいるというのは新鮮です。従来のゲームセンターでのゲーム大会では考えられないですね。

藤本 ゲームの世界観とeスポーツの環境がつくり込まれ、熱量の高いオーディエンスやコミュニティがしっかりと存在しています。こういった状況がZ世代にとって「自分たちが推してもいいカルチャー」として捉えられたことが重要です。
 
合同会社 ライアットゲームズ 社長
藤本 恭史 氏

会場で一緒に盛り上がったり応援したりすること、たとえ画面越しであっても、全世界で何百万人と見ている中の一員として参加することができる環境が整っていることで、より一層のエンゲージメントを高めていると思います。個人主義が強いと言われるZ世代も、このような形での空気感の共有を楽しんでいるのです。

徳力 熱烈なファン層の大半がZ世代という状況は、企業から見ても非常に魅力的だと思いますが、企業はeスポーツにどのように関わっていくのがよいのでしょうか? コミュニティが強固で熱量が高い場合、企業が不適切な関わり方をすると逆効果になる可能性もあると思います。スポンサーなどアライアンスを考える企業の方々にアドバイスはありますか?

藤本 スポンサーとして、大会に関わる場合は私たちとの関係になり、チームやプレイヤー個人に対する場合は個別に契約する形が一般的です。ターゲット層はそれぞれに異なってきますね。

たとえばLoLの世界大会の場合、ルイ・ヴィトンがトロフィーケースをつくったり、トロフィーをティファニーがつくったり、メルセデス・ベンツやマスターカードがスポンサーに付いたこともあります。ラグジュアリーブランドがスポンサーになった背景には、中国のオーディエンスが多いことを想定し、中国市場を見据えてではと推測できます。
  
ルイ・ヴィトンのトロフィーケースのイメージ画像(提供:ライアットゲームズ)

徳力
 ラグジュアリーブランドに接点のなかった若い人々にとって、ブランドに触れる入り口になるということですね。

藤本 そうですね。ただ、よりローカル色が強いイベントになってくると、通常の広告やスポンサーシップの方法ではあまり効果がないので注意が必要です。なぜなら、オーディエンスの大半を占めるZ世代は押し付けがましい広告を嫌う傾向があるからです。Z世代が5~6時間もディスプレイに釘付けになってくれるからといって、ブランドロゴをずっと出していたりすると逆に嫌われかねません。

徳力 では、企業はどのようにブランドを認知してもらえばいいのでしょうか。
 

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