新時代のエンタメ舞台裏~ヒットにつなげる旗手たち~ #10
『カメ止め』の上田慎一郎監督が最新映画『アングリースクワッド』に全力投球しながら縦型ショートフィルムでバズを生み出す理由
日本の音楽・映画・ゲーム・漫画・アニメなどのエンタメコンテンツが、世界でも注目されることが多くなった昨今。本連載は、さまざまなエンタメ領域の舞台裏で、ヒットを生む旗手たちの思考を noteプロデューサー/ブロガーの徳力基彦氏が解き明かしていく。
今回は2018年に『カメラを止めるな』で社会現象を巻き起こした映画監督であり、11月22日公開の最新映画『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』の監督も手掛けた上田慎一郎氏に5年ぶりの対談インタビューを実現。長編映画で活躍しながら、実は企業と組んだ縦型ショートフィルムで数々のバズを生み出している上田氏。前編では「第2のカメ止め」と話題になった映画『侍タイムスリッパー』(安田淳一監督)に見る日本映画の新潮流にも触れながら、同氏が縦型ショートフィルムに参入した理由に迫った。
今回は2018年に『カメラを止めるな』で社会現象を巻き起こした映画監督であり、11月22日公開の最新映画『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』の監督も手掛けた上田慎一郎氏に5年ぶりの対談インタビューを実現。長編映画で活躍しながら、実は企業と組んだ縦型ショートフィルムで数々のバズを生み出している上田氏。前編では「第2のカメ止め」と話題になった映画『侍タイムスリッパー』(安田淳一監督)に見る日本映画の新潮流にも触れながら、同氏が縦型ショートフィルムに参入した理由に迫った。
最新作で見せた「本気」
徳力 社会現象になった『カメラを止めるな』(以下、『カメ止め』)は、私の中ではついこの間の出来事のように感じられますが、もう本公開から6年も経つんですね。
今回取材をオファーさせていただいたのは、上田監督の縦型ショートフィルムの取り組みが面白いと思ったからです。さらに話題の映画『侍タイムスリッパー』の安田淳一監督が『カメ止め』を意識していることを公言されていて、上田監督自身も11月22日に最新映画『アングリースクワッド』を公開。あらためて注目が集まる中、再びインタビューを受けていただけて嬉しいです。
上田 こちらこそ、ありがとうございます。トピックが多いですね(笑)
徳力 『カメ止め』の時に印象的だったのは、日本アカデミー賞話題賞を獲られてお祝いのイベントに呼んでもらった時に、「これでインディーズ映画がメジャーになるケースが増えていくのか」と映画業界の方々に聞いて回ったところ、皆さん全否定だったんですよ。「これは上田監督と『カメ止め』メンバーだから起こせた奇跡で、二度とない」と(笑)。
一方、『侍タイムスリッパー』は低予算で1館上映から始まったのがSNSで急激に話題が広がっていて、「第2のカメ止め」とも呼ばれていますが、どのようにご覧になっていますか。安田監督は明確に『カメ止め』を目指して参考にしたと公言されていて、上田さんも既に対談したり、イベントにも登壇したりもしていますよね。
上田 はい。これまでもインディーズ映画がヒットしそうになると「第2のカメ止め」と言われることは結構あったのですが、ここまで盛り上がったのは『侍タイムスリッパー』が初めてです。まだ1館上映だった頃に見に行って、純粋に観客として「これはすごいことになるかも」と思いました。
上田 慎一郎 氏
映画監督/PICORE チーフ・クリエイティブ・オフィサー
1984年、滋賀県出身。中学生の頃から自主映画を撮りはじめ、高校卒業後も独学で映画を学ぶ。2009年、映画製作団体を結成。『お米とおっぱい。』『恋する小説家』『テイク8』など10本以上を監督し、国内外の映画祭で20のグランプリを含む46冠を獲得。2018年、初の劇場用長編『カメラを止めるな!』が2館から350館へ拡大する異例の大ヒットを記録。3人共同監督作の『イソップの思うツボ』が2019年8月に公開、そして劇場用長編第二弾となる『スペシャルアクターズ』が同年10月に公開。2020年5月、コロナ禍を受け、監督・スタッフ・キャストが対面せず“完全リモート”で制作する作品『カメラを止めるな!リモート大作戦!』をYouTubeにて無料公開。2021年、『100日間生きたワニ』『DIVOC-12』が劇場公開。2022年、『ポプラン』が公開。2023年、縦型短編監督作「レンタル部下」がTikTokと第76回カンヌ国際映画祭による「TikTok ShortFilm コンペティション」にてグランプリを受賞し話題に。監督最新作となる劇場長編映画「アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師」が2024年11月に公開。
映画監督/PICORE チーフ・クリエイティブ・オフィサー
1984年、滋賀県出身。中学生の頃から自主映画を撮りはじめ、高校卒業後も独学で映画を学ぶ。2009年、映画製作団体を結成。『お米とおっぱい。』『恋する小説家』『テイク8』など10本以上を監督し、国内外の映画祭で20のグランプリを含む46冠を獲得。2018年、初の劇場用長編『カメラを止めるな!』が2館から350館へ拡大する異例の大ヒットを記録。3人共同監督作の『イソップの思うツボ』が2019年8月に公開、そして劇場用長編第二弾となる『スペシャルアクターズ』が同年10月に公開。2020年5月、コロナ禍を受け、監督・スタッフ・キャストが対面せず“完全リモート”で制作する作品『カメラを止めるな!リモート大作戦!』をYouTubeにて無料公開。2021年、『100日間生きたワニ』『DIVOC-12』が劇場公開。2022年、『ポプラン』が公開。2023年、縦型短編監督作「レンタル部下」がTikTokと第76回カンヌ国際映画祭による「TikTok ShortFilm コンペティション」にてグランプリを受賞し話題に。監督最新作となる劇場長編映画「アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師」が2024年11月に公開。
インディーズ映画って社会派やアート系の作品が多く、エンタメは多くないのですが、その中で『侍タイムスリッパー』も『カメ止め』もサービス精神に溢れたエンタメであり、コメディであり、「映画づくり映画」でもある。限定された公開から映画ファンの熱量がSNSを通してすごい勢いで伝播していく。確かに共通点はたくさんあります。
ただ、安田監督と話してみて何より驚いたのは、彼が『カメ止め』の何を目指したかというと「笑い声と拍手」だったということです。上映中の笑い声と、上映後に舞台挨拶もないのに沸き起こる拍手。この2点をクリアすれば『カメ止め』を再現できるかもしれないと考えたという言葉にハッとしました。それって、映画館以外だと無理だよな、と。
徳力 確かに、テレビの前ではなかなか拍手しないですね。その2点は私も、すごくポイントと思いますね。
上田 だから、映画館で映画を観ることの喜びを体感できる作品が『カメ止め』であり、安田監督の『侍タイムスリッパー』だったのかなと思いました。
徳力 コロナ禍で映画館やミニシアターが潰れるのではないか、映画も配信サービスでいいのではないか、という議論もありましたが、あらためて映画館の良さが見直されてきた感じがありますね。
note noteプロデューサー/ブロガー
徳力 基彦 氏
NTTやアジャイルメディア・ネットワーク等を経て、現在はnoteプロデューサーとして、ビジネスパーソンや企業におけるnoteやSNS活用のサポートを行っている。個人でも、日経MJやYahooニュース!個人のコラム連載等、幅広い活動を行っており、著書に「普通の人のためのSNSの教科書」、「アルファブロガー」等がある。
徳力 基彦 氏
NTTやアジャイルメディア・ネットワーク等を経て、現在はnoteプロデューサーとして、ビジネスパーソンや企業におけるnoteやSNS活用のサポートを行っている。個人でも、日経MJやYahooニュース!個人のコラム連載等、幅広い活動を行っており、著書に「普通の人のためのSNSの教科書」、「アルファブロガー」等がある。
そんな映画の新潮流をつくった上田監督ですが、この流れで、ご自身の最新長編作『アングリースクワッド』についても聞かせてください。主演の内野聖陽さんなど、そうそうたる役者陣ですよね。『カメ止め』の試写を見たプロデューサーが提案して始まった企画だそうで、仕込みにものすごく時間をかけた作品なのですね。
上田 そうですね。ここ数年はコロナの影響も大きく、撮影までにかなりの時間がかかりました。キャストの方々も早い段階から決まっていましたが、内野さんや岡田将生さんや川栄李奈さんなど、近年ますます人気が高まっている方ばかりで、キャストファンの方々の熱量もすごいです。
徳力 仕込みに時間がかかった分、ますますアベンジャーズ感が増したということですね。前回のインタビュー で、上田監督がハリウッド映画をプロモーションするならどうするかとお聞きした時に、大作となると最初が肝心で、事前にものすごく仕込んでいろいろやります、と仰っていました。
その言葉通り、今回は公開より69日も前からカウントダウンの投稿をしていましたよね。公開までにたくさんの仕掛けをしていらっしゃる。上田監督の本気を見た気がしました(笑)。
上田 そうですね。とにかくメディア露出を増やすほか、本編の前日譚をドラマで配信したり、人気TikTokerとコラボした縦型ショートフィルムも公開したり、プロモーションでも新しい取り組みを重ねています。