新時代のエンタメ舞台裏~ヒットにつなげる旗手たち~ #11

企業の縦型ショートフィルムは最も難しい? 『カメ止め』『アングリースクワッド』の上田慎一郎監督が切り開く広告とコンテンツの未来

 

業界の常識を変えていく


上田 働き方改革の面でもうひとつお話しすると、映画『アングリースクワッド』でも、1日の撮影時間を原則12時間、次の撮影までインターバル10時間以上空ける、といった労働基準を決めて撮影しました。

何度か、皆さんの同意をとって超過してしまうことはありましたが、今回のようにスターキャスティング、大勢のスタッフがいる中でも、基準を決めておくのは大事だと思いました。

と言うのは、たとえば深夜2時まで撮影して、翌朝6時集合などとしていたら、みんなのパフォーマンスは確実に落ちます。それで撮りこぼしたりすれば撮影に遅れが生じて、悪循環になります。

徳力 従来は夜遅くまで頑張って、やれている気になっていただけかもしれませんね。トータルパフォーマンスで見れば、きちんと区切ってやったほうがいいと。

上田 そうですね。いつ終わるか分からない…だと心の平安を保てませんから。

あと実験的にやってみたのが、「監督」と呼ぶのをやめてもらいました。現場で、他の皆さんは名前で呼んでもらえるのに、なんで監督だけ「監督」と呼ばれるのか疑問に感じていました。上田さん、上田くん、慎ちゃんと呼んでください、とキックオフで呼びかけて、撮影所でも「上田組」という表示はやめて『アングリースクワッド』とプロジェクト名で書いてもらうようにしました。

徳力 ちょっとした変化に見えますが、そういう小さな所から、従来の撮影現場の常識や上下関係のようなものを変えていこうとされているんですね。上田監督はある意味、映画業界を「外」から見つめる目線を維持されている感じです。だからこそ、縦型ショートフィルムとかXRとか、境界をつくらずチャレンジしていくことに繋がっているんだろうな。

上田 そうですね。あまり何も考えず横断していたんですが、最近は縦型ショートフィルムで僕の作品に触れた人が、長編映画も見てみようかなと言ってくれたりします。自分が横断することによって、いろんな場所に映画の入り口ができてきていると感じます。

徳力 そうですよね。『アングリースクワッド』とTikTokerのコラボ動画なども、普通の映画のプロモーションではなかなか、そんな話にならないと思います。

ある意味、上田監督も縦型ショートフィルムとの繋がりにメリットが感じられるから、また超えていくことを繰り返していくのかもしれませんね。これからまたどんな超越をして、「サプライズディレクター」として驚きを見せてくれるか楽しみです。

本日はありがとうございました。
 

【取材後記】


今回のインタビューで非常に印象的だったのは、上田監督が、自らの肩書きを、「映画監督」が分かりやすいので使っているけど、「クリエイター」や「サプライズディレクター」のほうが定義として近いとお話しされている点でした。

昨今、ネットやSNSの普及により、さまざまな業界の垣根が曖昧になっていますが、上田監督はその中で映画も取り組む一方で、いち早くショートドラマも実践し、数々のヒット作を生み出されている方です。

個人的に、その源泉を知りたいと思ってインタビューをお願いしたのですが、想像以上に上田監督の中で業界や仕事の境界線を意識されていないんだなというのが印象的でした。

我々が狭く定義しがちな境界線を意識せずに軽々と飛び越えて、そこで学んだことや、繋がった人々と次の挑戦をされていく姿勢を、是非多くの人に参考にして頂ければと思います。
  

※徳力基彦氏・上田慎一郎氏の2019年の対談記事はこちら
前編:反対意見を言う人は敵だ、とは思いたくない。『カメラを止めるな!』上田監督の信念
後編:普通、そこまで監督がやる? 『カメラを止めるな!』 上田慎一郎が伝授するTwitterプロモーション
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