テレビCM新時代 #03

ノバセル、日テレ対談「運用型テレビCMの先駆者」と「地上波の覇者」が語るテレビCMの未来

前回の記事:
「カンヌライオンズ=ビジネス評価せず」は誤解 アワードの意義と広がるクリエイティビティ【佐藤達郎】
 デジタル広告の普及によって、広告効果を数値で明らかにし、それに基づいてすばやくPDCAを回すことが当たり前になりつつある一方で、テレビCMは高額であるにもかかわらずその費用対効果が見えにくく、直前の差し替えもできないという大きな課題を抱えてきた。

 その解決策として注目を集めるのが、「運用型テレビCM」だ。広告代理店事業を中心にマーケティングプラットフォームを展開するノバセルは、運用型テレビCMのパイオニアとしていち早く業界に切り込み、その普及を目指してきた。一方で、サプライヤーである日本テレビも、インプレッション(広告表示回数)単位で取引ができ、これまで不可能だったターゲット指定や直前の素材差し替えなどが可能なアドプラットフォーム「アドリーチマックスプラットフォーム」を開発し、ユーザーとの接点となるWebサービス「スグリー」を通じてテレビCMの最適化に取り組もうとしている。

 こうした動きの中でテレビCMは今後、どのように変わっていくのか。Agenda noteではノバセル グロースパートナー事業部 事業部長の綿川奨吾氏と、日本テレビ 営業局営業戦略センター アドリーチマックス(ARM)部の武井裕亮氏の特別対談を実現。前編はそれぞれの視点から運用型テレビCMの潮流と現在の取り組みについて語ってもらった。
 

運用型テレビCMの現在地


綿川 私はもともと電通に長くおり、2023年にノバセルに入社し、現在は広告代理店事業にあたるグロースパートナー事業部の責任者を務めています。電通では、メディア担当営業として日本テレビさまの案件をご一緒したこともありました。

武井 おっ、そうなのですね。

綿川 はい。ノバセルでは総合代理店での経験を活かし、これまで業界ではできなかった、全く新しい代理店事業創造をリードしています。
 
ノバセル グロースパートナー事業部 事業部長
綿川 奨吾 氏

 ADKを経て、2017年電通入社。ナショナルクライアント担当営業を6年間経験、TVCM制作~統合メディアプランニングと幅広く担当。 その後、電通BX局にて経営コンサルティング・新規事業開発のチームリードに従事。
2023年ノバセルへジョインし、 広告代理店事業の責任者。

武井 私は日本テレビに新卒で入社し、報道局で警察担当や宮内庁担当を経験しました。その後、2019年に営業局に異動になり、デジタル担当に。当時の日テレは過去最高益を更新したり、視聴率では全日・プライム・ゴールデンの三冠王を連続で獲ったりと、まだまだ地上波が大きな力を持っているという時代でしたが、デジタル担当としては「本当にこのままでいいのだろうか」と感じていました。

そうした中、コロナ禍で一気にデジタルシフトが進んだことをきっかけに、2021年にテレビ広告のアドプラットフォームを開発する「Ad Reach Max(アドリーチマックス)プロジェクト」を立ち上げました。それが2023年6月に正式に部署となり、現在はアドリーチマックスプラットフォームとユーザーの皆さまの接点となるWebサービス「スグリー」の2025年3月のサービスインに向けて取り組んでいるところです。ノバセルさんのことは、コロナ禍の頃にタクシー広告で知りましたよ。

綿川 ビジネスの立ち上げ当初は、タクシー広告を使って認知を大量に獲得していました。当時の私は、電通でメディア担当をしていたこともあり、自分たちのほうが「成果にコミットした最適なメディアバイイングを担っているんだ」という誇りもあったので、ある意味、ノバセルの広告を、腹立たしく見ていました(笑)。逆に言えば、それほど図星で、印象に残っていたのだと思います。

武井 あの広告に影響を受けた業界関係者は多かったと思います。デジタル担当をしていた私もそのひとりです。ノバセルさんが実際にどういう事業をやっているのかを調べてみると、当時ノバセルさんが掲げていた「運用型テレビCM」の構想は、デジタルの世界の運用型広告に限りなく近づこうとしているけれど、そこにはどうしても埋められないギャップがあるかもしれないと感じました。

一方で、テレビ局にいる私の仕事こそ、そのギャップを埋められるのではないかとも思いました。特に、「テレビCM枠の最適化」については、現状は放送局側のオペレーションの都合で、クリエイティブを変更できるのは最短でも4営業日前までですが、私たちが開発している「スグリー」なら、そこを一気に縮められます。

綿川 我々もここ数年、放送局さまとのいろいろな交渉を行わせていただき、これまで既存の広告代理店ではできなかった「前日や前々日にTVCM素材を差し替えられる」というスピード感ある運用を実現してきました。スグリーでは、どれくらい縮める予定なのですか。

武井 タイムやスポットとして購入いただいた放送枠は、放送20分前まで変更が可能です。

綿川 それは相当すごいですね。

武井 実は、技術的にはもっと直前でも可能です。たとえばスポーツの試合で優勝した直後に流すCMであれば、さらに短縮したほうが望ましいかもしれませんが、放送事故などリスクを考慮すると、現状はまず30分を切ることがひとつの基準と考えています。
 
日本テレビ放送網 営業局営業戦略センター アドリーチマックス(ARM)部 アドリーチマックスプロジェクト 事業統括 
武井 裕亮 氏

 2014年に日本テレビ入社。報道局に配属後、警視庁捜査一課を担当。その後に宮内庁担当として平成から令和への“お代替わり”を取材。2019年に営業局に配属され、X社(旧Twitter社)とのアライアンス締結などデジタル戦略を担う。2021年にアドリーチマックス構想を提言し、地上波広告を「デジタル」に近づけるため、テクノロジー開発から事業開発までプロジェクトリーダーとして奔走中。

綿川 十分だと思いますよ。改めて、我々がパイオニアとして仕掛けてきた運用型テレビCMの変遷をお話すると、大きく4段階のフェーズに分けられると考えています。

まず、既存のプレイヤーが強く、ある意味で閉鎖的なテレビCMという領域で、今まさに貴社の「スグリー」も目指しているような「効果の透明化と可視化」を仕組み化したというゼロイチのフェーズです。ここでは、広告主の方々から大きな反響がありました。というのも、デジタルシフトの流れの中で、テレビCMの効果が本当に事業に直結しているのか、無駄はないのかを知りたいと考える広告主が増えていました。また、サプライヤーや広告会社が業界をやや寡占する中で、デジタルとは異なる指標で運用しなければならないという壁があり、そこに切り込んでいくことに、多くのアーリーアダプターが共感してくれたんです。

具体的に我々が提供したのは、テレビCMが放映された直後にどれだけ検索リフト、つまりインターネットでの検索数が上がったかを可視化するダッシュボードです。これによって、新しい概念を市場に取り入れたのです。

フェーズ2では、電通をはじめとするプレイヤーがノバセルと似たソリューションを提供したことで、運用型テレビCMの認知が一気に上がりました。

こうして新しい市場ができ、新しい選択肢が、徐々にスタンダードになっていきました。実際に、我々が広告主さま向けにアンケート調査を取らせていただいたところ、およそ80%以上が「運用型テレビCMを選択肢のひとつに加えている」という回答をしてくれています。これがフェーズ3です。

現在は、さらにフェーズが変わりました。従来の運用型テレビCMはどうしてもクリエイティブが二の次で、安かろう悪かろうのイメージが強かったのですが、最近は効果の最適化とクリエイティブのクオリティも両立できるようになってきています。特に大手の広告主とは、運用型テレビCMでの効果の可視化・透明化をスタンダードとした上で、さらにブランディングや幅広い指標を追うという先鋭的な取り組みを始めています。ブランディングという中長期的な蓄積価値と、コンバージョンやダウンロードといった事業の利益に直結する短期的な価値が両立できるようになってきたわけです。

そうした状況を受けて、広告主に「タレントを使ったCMを100パターン制作して運用すれば、ブランディングという長期的な指標と、コンバージョンやアプリダウンロードの短期的な指標の両方を追える」と話をすると、まだまだ驚いていただくことが多いので、今後もどんどん推進していきたいと思っています。日テレさんのアドリーチマックスプロジェクトが、我々の追い風にもなるのではと期待しています。

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