マーケターズ・ロード 笹本裕 #02
なぜ元Twitterジャパン社長の笹本裕氏は、次のキャリアにDAZN Japanを選んだのか
2024年2月、スポーツストリーミングサービスを手掛けるDAZN Japan CEO 兼 アジア事業開発に就任した笹本裕氏。同氏はこれまでMTVジャパン、マイクロソフト、Twitter Japan(現X)など、世界的な企業で要職を歴任。メディアとテクノロジー、エンターテインメント業界を中心にビジネスを牽引し、そのキャリアを築いてきた。現在はDAZNで、日本市場に加えてアジアパシフィック(APAC)での成長に注力している。
一見、輝かしいキャリアを歩んできたように見えるが、その道のりは決して平坦ではなかった。リクルートでの新人時代の苦労、起業への挑戦、マイクロソフトで感じた大きなギャップ、そしてTwitterで直面した破壊と創造…。2024年8月には、Twitterでの経験をまとめた書籍『イーロン・ショック 元Twitterジャパン社長が見た「破壊と創造」の215日』(文藝春秋)を上梓している。
本連載では、笹本氏が経験してきた数々の転機やグローバル視点で導いた成長と変革の実績、トップリーダーから学んだビジネスの本質、そして日本産業の未来について全5回で紐解いていく。第2回は、Twitter Japan退社後にDAZNに入社した背景とDAZNでの事業のさらなる可能性、笹本氏が日本を元気にしたいと語る理由について紹介する。
一見、輝かしいキャリアを歩んできたように見えるが、その道のりは決して平坦ではなかった。リクルートでの新人時代の苦労、起業への挑戦、マイクロソフトで感じた大きなギャップ、そしてTwitterで直面した破壊と創造…。2024年8月には、Twitterでの経験をまとめた書籍『イーロン・ショック 元Twitterジャパン社長が見た「破壊と創造」の215日』(文藝春秋)を上梓している。
本連載では、笹本氏が経験してきた数々の転機やグローバル視点で導いた成長と変革の実績、トップリーダーから学んだビジネスの本質、そして日本産業の未来について全5回で紐解いていく。第2回は、Twitter Japan退社後にDAZNに入社した背景とDAZNでの事業のさらなる可能性、笹本氏が日本を元気にしたいと語る理由について紹介する。
DAZNへ入社を決意した理由
―― 2024年2月、DAZN Japanに入社された経緯について教えていただけますか。
実はイーロン・マスクがTwitterを買収する前から、Twitterでのキャリアに一区切りをつけようと考えていました。私はTwitterの創業者であるジャック・ドーシーの思想に強く感銘を受けながら9年間働いてきました。
彼が提唱したTwitterのパーパスは、「世の中の会話を促すこと」です。Twitterにはさまざまな技術や人材が投入されていましたが、それらがシンプルなアプリに凝縮されていました。世の中の会話を促進し、ムーブメントを起こす力を持つアプリを生み出したジャック・ドーシーの思想を私はとてもリスペクトしていたのです。
学生時代、東京・麹町にあった米国NBCのニュース部門でアルバイトをした経験をはじめ、これまでメディアでキャリアを築いてきた私にとって、Twitterは報道や情報発信を進化させた巨大な存在でした。創業者のジャックが退任を決めたとき、私自身もこの仕事を退こうと考えていました。その矢先に衝撃的な買収が起こったのです。
DAZN Japan CEO 兼 アジア事業開発
笹本 裕 氏
2024年2月、DAZN Japan CEO 兼アジア事業開発に就任。日本でのマーケットリーダーとしてのポジションを確固たるものとしながら、アジアパシフィック(APAC)への拡大、DAZN Taiwanの事業成長を担っている。これまでの27年以上のキャリアで、テクノロジー、メディア、エンターテイメント領域でリーダーとしてビジネスを牽引。Twitter Japan株式会社では代表取締役として日本とAPACの成長を主導し、2014年の就任から9年間で本国アメリカに次ぐ事業規模を築く。エム・ティー・ヴィー・ジャパン、マイクロソフトといったグローバル企業・ブランドでの経験も豊富で、日本のみならずグローバルな視点で成長と変革へと導いてきた。現在も株式会社サンリオ、株式会社KADOKAWAで社外取締役を務めている。
笹本 裕 氏
2024年2月、DAZN Japan CEO 兼アジア事業開発に就任。日本でのマーケットリーダーとしてのポジションを確固たるものとしながら、アジアパシフィック(APAC)への拡大、DAZN Taiwanの事業成長を担っている。これまでの27年以上のキャリアで、テクノロジー、メディア、エンターテイメント領域でリーダーとしてビジネスを牽引。Twitter Japan株式会社では代表取締役として日本とAPACの成長を主導し、2014年の就任から9年間で本国アメリカに次ぐ事業規模を築く。エム・ティー・ヴィー・ジャパン、マイクロソフトといったグローバル企業・ブランドでの経験も豊富で、日本のみならずグローバルな視点で成長と変革へと導いてきた。現在も株式会社サンリオ、株式会社KADOKAWAで社外取締役を務めている。
イーロン・マスクという、宇宙開発企業のSpaceXや電気自動車で有名なTeslaなど革新的な事業を手がける人物に触れることで、自分自身のキャリアにスパイスを加えられるのではないかと思い、買収後もTwitterでの仕事を続けることにしました。
しかし、第1回で紹介したように、215日間の激しい変化とストレスの中で仕事を続けていても「私は幸せにはなれない」と感じ、退職を決断しました。その後は、これまでグローバル企業を中心にキャリアを築いてきたので、日本企業のお手伝いをしたいと思い、サンリオ、KADOKAWA、吉本興業などで社外取締役を務めることになりました。
とはいえ、私は仕事が大好きで、昭和の典型的な「仕事人間」です。部分的なお手伝いにもやりがいを感じていましたが、もう一度、自らが大きな責任を持って日々向き合える仕事に戻りたいと思うようになりました。
そして次に何をしようか考えたとき、興味を持ったのがAIの領域でした。いくつかのAI企業からオファーを受ける中で最終的にDAZNを選んだ理由は、AIの可能性と課題に向き合える場だと考えたからです。
日々急速に進化し続けるAIから私たちは大きな恩恵を受けられますが、AIが人間の仕事を代替してしまう懸念もあります。音楽や映画など、これまで人間がつくると思っていたものが、すでにAIに置き換わるケースも出てきています。
その一方で、スポーツは人が実際にプレーし、観客がその様子を見て、喜怒哀楽の感情を選手のパフォーマンスに合わせて動かすものです。この先、少なくとも数十年は、AIがスポーツを完全代替することはないでしょう。ただし、AIを活用してスポーツの楽しみ方を変えたり、感動をより多くの人に届けたりすることはできます。
これまで私はテクノロジーをバックボーンとしつつも、人間の感情が行き交う領域でキャリアを築いてきました。DAZNは、スポーツの分野でそれを実現できる場所だと確信したのです。実際にDAZN Japanのトップとして参画した今、その選択は間違っていなかったと確信しています。