CATCH THE RISING STAR #24
無印良品「みんなでつくるバウム」大反響の立役者、共感を生む若きマーケター【建石帆乃香氏】
企業におけるマーケティングの重要性が増す一方、「マーケターの仕事はAIに奪われるのでは」とも囁かれる昨今。そんな変革期に、マーケティング領域で働く若者は何を考え、どう行動しているのか。
Agenda noteでは「Z世代」と一括りにされがちな彼らの中でも、各企業が特に期待を寄せる「ライジングスター」にフォーカス。生まれた時からインターネットに触れ、テクノロジーやSNSを使いこなす彼らの多彩な思考や行動を探ることで、マーケティング領域の近未来を照射していきたい。
第24回に登場するのは良品計画の入社5年目マーケター建石帆乃香氏。総投票数7万5420票を叩き出した話題のキャンペーン「みんなでつくるバウム」の立役者ながら、「課題はたくさん」とあくまで謙虚。店長経験と鋭敏な消費者目線に裏打ちされた的確な施策実行力で、社内外に共感を生み出していく若きマーケターの奮闘を聞いた。
Agenda noteでは「Z世代」と一括りにされがちな彼らの中でも、各企業が特に期待を寄せる「ライジングスター」にフォーカス。生まれた時からインターネットに触れ、テクノロジーやSNSを使いこなす彼らの多彩な思考や行動を探ることで、マーケティング領域の近未来を照射していきたい。
第24回に登場するのは良品計画の入社5年目マーケター建石帆乃香氏。総投票数7万5420票を叩き出した話題のキャンペーン「みんなでつくるバウム」の立役者ながら、「課題はたくさん」とあくまで謙虚。店長経験と鋭敏な消費者目線に裏打ちされた的確な施策実行力で、社内外に共感を生み出していく若きマーケターの奮闘を聞いた。
3年目で店長
―― 入社の経緯を教えてください。
当社を志望した大きな理由は、無印良品というブランドの世界観が統一されていることです。当社は実店舗やECサイトを軸とした小売事業のほかに、ホテルやキャンプなど幅広く事業展開しているのですが、そのどれを覗いても「無印良品だな」と分かる世界観があり、その一貫性がかっこいいなと思いました。
無印良品は元々、1980年に西友ストアー(現合同会社西友)のプライベートブランドとしてスタートし、2021年に第二創業として「感じ良い暮らしと社会」の実現に貢献することを企業理念に掲げました。私が入社したのは2020年ですが、当時から社会課題やつくる人、使う人、自然環境、全てにとって望ましい事業を目指す考え方に共感していました。
どんな商品についても過剰ということがなく、「余白」がある、ちょうどいい感じ。これは意図的に生み出そうとしているというよりも、「ちょうどよさ」を追い求めた結果、自然と生まれ出た世界観だと思います。そのような一貫性や世界観、企業理念に惹かれて入社を決めました。
マーケティングに関しては大学時代に少し勉強したくらいで、明確にマーケティングをやりたいと思っていたわけではありません。ただ、当社のこの世界観を広く発信したいと思っていました。
建石 帆乃香 氏
良品計画 食品部 マーケティング担当
良品計画 食品部 マーケティング担当
―― 入社後はどのような業務を担当してきましたか。
はじめは国内に597店舗ある「無印良品」のうち、東京と名古屋にある計4店舗で店長代行や店長を順次、経験してきました。当社では、新卒で入社した総合職社員は基本的に、入社3年目には店長として活躍するために、最初の2年間に社内研修と実店舗経験によって必要なマインドとスキルを身につける「3年目店長プロジェクト」という教育プログラムを実施しています。
最初はレジ打ちや品出しから始まり、シフト作成や店舗「人財」の育成、店舗の売上管理など、1年目から人・物・カネの裁量権が与えられます。私も2年目の終わりに店長に就任しました。
このほかにも、当社は、各店舗が地域のコミュニティセンターとしての役割を持ち、地域の人々とより密接に関わって役に立つことを使命として掲げているので、私も周辺地域に主体的に働きかけるようにしました。
従来から、無印良品のポップアップストアやワークショップを店舗外のスペースをお借りして行うことはあったのですが、無印良品のほうが他店舗のことを発信させていただく機会があまりないなと考えて、私が発案して近隣店舗のショップ情報を掲載した「まち歩きマップ」を作成しました。
近隣店舗の方々とお話ししてショップカードをお借りしたり、店舗スタッフのポテンシャルも引き出したいと思ってイラストを描いてもらったりしました。限られたリソースで、地域との繋がりをどうしたら生み出せるかを考えた企画でしたが、結果的に多くのお客さまに手に取っていただけてよかったなと、印象に残っています。
―― 店長の仕事から学んだことや、課題に感じたことはありますか。
当たり前ですが、一番大切なのはお客さまということです。店舗だとお客様がすぐそばにいるので、リアルなお困りごとをすぐに感じ取れます。本社にいると、なかなかお客さまの存在を近くに感じることが少なくなるので、あくまで「サービスを届ける先はお客さまだ」ということが、現場での経験から今も生きています。
一方で、店長として配属された名古屋の店舗では、スタッフの中で私が一番、社歴が浅かったんです。私よりずっと長く働いているスタッフや社員を部下として持ち、新米店長を務めなければいけないというプレッシャーはありました。実際、私のほうが教えてもらう場面も多々あったので、恐らく不平不満もあったのではと思います。
振り返ると、店長とは何を発信すべきなのかを、ずっと考えていた気がします。店舗の売上はもちろん大事ですが、みんなに気持ちよく働いてもらえる環境や、何が店舗にとってベストなのかを模索していました。本当は、スタッフそれぞれの個性や強みをきちんと理解した上で向き合って、人員配置や育成もしたかったのですが、思うように進められなかったのは反省点です。今後、店舗や本社で組織運営を担う機会があれば、生かしたいと思います。
―― 本社配属後はどのような業務を行なってきたのですか。
2023年に本社へ異動して以降、マーケティングの実務を担当しています。ECデジタルサービス部でのソーシャルリスニング業務を経て、食品部でプロダクトマーケティングを担当するようになりました。中でも印象的なのが、無印良品のロングセラー商品「不揃いバウム」シリーズで、「みんなでつくるバウム」というプロジェクトを発案から企画、運用まで主導させてもらったことです。
―― どのような狙いのプロジェクトだったのですか。
企画の種としては、「不揃いバウム」をさらに愛着ある商品群にしていきたいというところから始まり、「地域との繋がり」をテーマに進めました。名古屋なら「小倉トーストバウム」、東北地方なら「ずんだ生クリームバウム」といった具合に、地域の名産品を取り入れた新作バウムのアイデアを全国の無印良品スタッフから募り、実現可能性やコストなどを食品部の担当者と議論して、最終的に8案まで絞り込みました。
それを2024年6月の10日間、一般のお客さまにWebの特設フォーム、あるいは公式Xから投票していただきました。得票数の多かった上位3種は2025年春に商品化します。
工夫のポイントとしては、まず「推し」と「地域性」に着目しました。推しは、自分の好きなものを共感してもらいたい、周りに広めたいという気持ちです。地域との親和性もあります。実際、投票の際のコメントを見ると「東北県民として『ずんだのバウム』を推します」「好きなアニメキャラクターゆかりの地域のバウムを推したい」といった声がありました。