TOP PLAYER INTERVIEW #80

競争激化の保険業界で「尖った顧客体験」を追求、SOMPOひまわりCDOが語るLTV向上の秘策

前回の記事:
「3秒で買わせる店頭」から「心をつかむEC」まで、カンロのマーケティング改革の真髄【内山妙子氏】
 生命保険業界といえば、長らく対面営業が最前線を担っていたイメージが強いが、近年はオンラインを含めタッチポイントが多様化している。そんな中、SOMPOひまわり生命保険はLINEで24時間契約可能なシステムや、アバター接客の導入など顧客接点のDXに力を入れる。

 Agenda noteでは2024年9月に新アプリ「MYひまわり」をリリースした同社 執行役員 チーフ・デジタル・オフィサー DX推進部長 西川素之氏をインタビュー。保険本来の価値である保障機能とヘルスケアサービス機能を統合し、保険料割引やポイント付与など大胆な施策で顧客の「健康応援」に振り切ったのはなぜなのか。人口減少の中、顧客体験の洗練とLTV向上に突き進む同社のDX戦略を聞いた。
 

保険料割引やポイント付与で「健康応援」


―― 2024年9月24日にリリースしたアプリ「MYひまわり」の登録状況や特徴、狙いを教えてください。

 当社は、お客さまが健康になることを応援する企業として、保険(Insurance)と毎日の健康増進を応援するサービス(Healthcare)を組み合わせた新しい概念であるインシュアヘルスという価値を届けてきました。このインシュアヘルスで提供する価値を高めるための手段として、複数のWebサービスをリリースしています。たとえば、保険契約内容の確認や手続きができるだけでなく、顔撮影でストレスチェックができたり、歩数計として毎日の散歩を応援したりするアプリを展開しました。

 これらのサービスをご利用いただいているお客さまは、2024年4月に登録者100万人に達しましたが、より多くの人に自然な顧客体験としてインシュアヘルスを実感していただくため、新たなアプリとして「MYひまわり」をリリースし、各サービスを統合することにしました。既存サービスから乗り換えていただくことは、お客さまにお手数をおかけすることになってしまうのですが、アカウントは引き続き同じものを使っていただけるので、2024年度末までに、少なくとも22万人の方に「MYひまわり」のアプリをダウンロードしていただき、ご利用していただきたいと思っています。
 
SOMPOひまわり生命保険 執行役員 チーフ・デジタル・オフィサー DX推進部長
西川 素之 氏

 1995年4月 アイ・エヌ・エイ生命(現SOMPOひまわり生命)入社後、神奈川での営業を経たのちに、2000年から12年間、ダイレクトマーケティング部門でデジタルマーケティングに従事する。その後、企画部門(FD企画、事業企画、CX開発)、静岡での営業を経て、2022年4月より現職。

「MYひまわり」のコンセプトは「見える、つながる、変えられる」です。

 まず、「見える」は現在の契約内容を確認できるのはもちろんのこと、自身の健康診断結果を登録すると、過去の他の人々の健康診断結果の統計データと比較して、5年以内の罹患する可能性が高い疾患や、異常値となる健康診断の検査項目などの健康リスクを独自AIが予測してくれる「健康リスク予測」の機能を備えています。

 さらに、スマホで30秒顔を映すだけで、血管の健康状態と肌年齢とストレス値数が分かる「毎日健康チェック」機能や、将来の健康リスクに対してかかる年間医療費を予測する「年間医療費予測」の機能も近々に実装する予定です。

 このように、現在の自身の健康状態から保障内容、将来のリスクまで「見える化」することで、健康に対する意識変容を促すのを狙いとしています。
 
「MYひまわり」のメイン画面(SOMPOひまわり生命保険提供)

 次に、「つながる」は、お客さまに「おすすめ健康行動」や応援メッセージを表示したり、さらに充実した保障内容を提案したりするなど、お客さまごとに最適なコミュニケーションをとり続けるさまざまな仕掛けを用意しています。

 インシュアヘルスには、一定条件下で保険加入後に健康改善に取り組み、期間内に禁煙や血圧改善などを達成した場合に、お祝い金を受け取ったり、保険料が割り引きになったりする「健康☆チャレンジ!制度」があるのですが、このチャレンジに成功していたただける仕組みを準備しています。それが、3つ目の機能である「変えられる」です。具体的には、日常的に歩くことでポイントが貯まり、Amazonギフト券がもらえる「ポイントプログラム」があります。

 このように、お客さまが健康を応援することが「MYひまわり」の一番の狙いですが、マーケティング点な観点では、お客さまと長期にわたって、良好なリレーションを構築するコミュニケーションプラットフォームという側面もあります。お客さまが健康になるために応援するということは、長期に渡り、お客さまにとって心地良い、最適なコミュニケーションであることが必要で、その結果、お客さまの当社に対する信頼度や親密度があがり、リテンション(契約の継続率)も向上するはずです。

―― 「健康☆チャレンジ!制度」に加えて、企業側の負担があるポイントプログラムを導入した狙いは何ですか。

「健康☆チャレンジ!制度」は2018年に導入しました。当時も今も、画期的な制度だと自負しています。家族のためにタバコをやめたいけれどやめられない人や、体型を改善したいけれど踏ん切りがつかない人にご利用いただいており、実際に健康改善に成功して保険料引き下げやお祝い金の受け取りに至った方が出ています。さらに、健康を改善した人は、未成功者に比べて入院率が50%下がったというデータもあります。まさに、インシュアヘルスによって、お客さまが健康になっていただけたのだと考えています。

 これに加えてポイント制度を導入することについては、社内でも紆余曲折がありました。「MYひまわり」のコンセプト設計にまでさかのぼりますが、「健康応援企業」として、他の多くのヘルスケア事業者と差別化しながら、お客さまにもっと気軽に健康や保障を考えていただくために必要なことは何か、専門家を交えて議論しました。そこで出てきたのが「見える、つながる、変えられる」というコンセプトです。医療費を試算する機能や「毎日健康チェック」機能によって、日常的に健康・保障を考えて、活動する習慣を付けていただきたかったのです。

 ポイントプログラムも、毎日の健康行動を継続していただくための手段のひとつです。これは私のダイレクトマーケティング部門時代の経験ですが、油とり紙のプレゼントを保険に関心のない方に示しても効果はありませんでしたが、関心があって加入を迷っている方にお渡しすると、パンフレット等の資料を請求する方が1.7倍程度増えました。要は、関心があるが迷っている人の背中を押す効果があるということです。健康になることを実現した結果「健康☆チャレンジ!制度」で得られる成功お祝い金や保険料割引は大きなインセンティブにはなりますが、健康になるまでの長い道のりである毎日の健康行動の継続の背中を押すのが、手軽なポイントプログラムです。最適なコミュニケーションプランを組み合わせることで、それぞれの効果を最大化できると判断しました。

 そして、これが、健康な方の健康維持や未病の方の発症予防にとどまらず、病気になった方の重症化予防、そして、QOL向上や社会復帰の支援、さらに、介護までサポートを広げていくことに繋がっていくのです。

 ただし、これらがインセンティブとして機能するには、前段としてお客さまに健康や保険への関心を高めていただかなければいけません。そのために「見える」の機能が重要なのです。

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