TOP PLAYER INTERVIEW #81

初速が目標の3倍。シャウエッセン ®「夜味」誕生の秘話とは? 日本ハムが引き出した新たなインサイト

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 2024年10月、日本ハムがウインナーブランド「シャウエッセン」の5年ぶりの新作「シャウエッセン 夜味」を期間限定で発売。SNSやさまざまなメディアで取り上げられ、販売の初速が目標の3倍となり、一時供給が追いつかなくなるほどのヒットにつながった。「夜味」というユニークなネーミングが興味を引くこの商品は、どのような背景や意図で誕生したのか。日本ハム 加工事業本部 マーケティング統括部 ブランド戦略室兼マーケティング室 室長の長田昌之氏に聞くと、新しい味の投入背後にあるシャウエッセンの緻密かつ壮大なブランディング戦略が見えてきた。
 

新しい習慣の醸成


―― 本題に入る前に、長田さんがブランド戦略室とマーケティング室の室長を兼務されている背景を伺えますか。

 マーケティング統括部は発足から2年に満たない若い部門です。従来、製造部と営業部の2事業部に分かれていたのですが、メーカーでは珍しくない課題で「つくる」と「売る」がうまく連携できず、部分最適に陥りがちな傾向がありました。そこで製造コストや営業利益を理解した上で、商品開発やプロモーションをコントロールするという目的で立ち上がったのがマーケティング統括部です。
 
日本ハム 加工事業本部 マーケティング統括部 ブランド戦略室兼マーケティング室 室長
長田 昌之 氏

 1995年日本ハム入社。最初の10年間は名古屋で業務用営業を担当し、大阪の本社に異動後、ハムソーセージの商品開発とプロモーションに長く携わる。その中で「シャウエッセン」も担当した。現在はブランド戦略室とマーケティング室を兼務し、ブランド戦略室ではシャウエッセンを含む主力ブランドの戦略立案を、マーケティング室ではコンシューマーブランド全般の広告宣伝やプロモーション、マーケティングを遂行している。

 一方、ここ数年は他の食品メーカーと同様、当社も価格改定を避けられませんでした。特に収益の柱となる3大ブランド、シャウエッセン、中華名菜、チルドピザについては、価格改定によって利益率が高くなっても販売が振るわず、行き詰まる事態が見られました。そこでブランド価値向上に特化したブランド戦略室をつくり、もともと広告宣伝を推進する部署にいた私がマーケティング室と兼務する形になりました。

 マーケティング統括部内に、商品開発室とブランド戦略室、マーケティング室が一緒にいるため、以前よりも機動的な連携が可能になりました。マーケティングで起案したことをすぐに商品開発室が形にし、すぐに流通に回してテストマーケティングして、結果を改善に繋げるというサイクルが理想です。とはいえ、やはり各室とも時間軸も目標も違いますから、即座に上手くいくわけではありません。試行錯誤している状態です。

―― そんな模索の中で、2024年10月1日から期間限定で発売されているシャウエッセンの新しいフレーバー「シャウエッセン® 夜味」のコンセプトは、どうして生まれたのでしょうか。

 シャウエッセンは1985年に発売開始し、2024年で40年目を迎えました。40年を振り返ると、ハムソーセージの売り場には良くも悪くも変化がありませんでした。2袋がセット(2個巻き)になったウインナー、少しずらして並んだパックのロースハム、他にベーコン、焼豚、生ハムなど…。その中でシャウエッセンのユーザーも変わらず、発売当初にファンになられた層が、時を経てそのまま高年齢化しているという状況でした。また、食べるシーンを調べると、ユーザーの約8割が朝食と昼食に食べており、夕食にはあまり食べられていないことが分かりました。

 新たなターゲットとして獲得したいのが30~40代のユーザーです。この年齢層は、ファミリー向けにスーパーで2袋セットを買うというより、コンビニエンスストアやディスカウントストアで、それぞれの好みに合った嗜好性の高い商品を買う傾向が強いです。この方々に、我々の主要な流通先であるスーパーマーケットで、シャウエッセンを手に取っていただきたい。

 この層の関心を喚起するために、これまでも「シャウエッセン®ホットチリ」や「シャウエッセン®とろける4種チーズ」といった、家族全員で食べるというよりは、お酒にも合いそうな嗜好性の高い商品を発売し、若いユーザーの獲得には一定の効果が見られました。ただ、いずれも結局は朝食や昼食に食べられる場合が多く、通常のシャウエッセンのポジションを奪ってしまうという課題がありました。

 そこで、シャウエッセンが今後も成長していくためには、30~40代のターゲットにブランドを浸透させていくのと同時に、これまでのシャウエッセンでカバーできていなかった食シーン、すなわち「夜にウインナー」いう、日本ではまだ根づいていない新しい習慣の醸成が必要だという結論を導き出したのです。

 そこでまず、商品としてはスパイスやスモークを濃く仕上げ、長く熟成して肉の旨みも濃くすることで、夕食にぴったりの濃厚なシャウエッセンをつくりました。次に、これを確実に夜に食べてもらうためには、どのようなネーミングがいいか。「濃い味」はどうか、などと検討した末に「夜味」に決めました。どんな味かはさっぱり伝わりませんが、これくらい尖った表現にすれば、通常のシャウエッセンと並べてもユーザーを奪い合うことなく、明確に「夜に食べよう」という意識を持って買っていただけると考えたんです。
  

―― 発売後、さまざまなメディアで取り上げられるなど、話題になりました。具体的にどのようなプロモーションを仕掛けたのでしょうか。

「夜味」の目標のひとつに、シャウエッセンのブランディング強化があります。過去に価格改定を行った際、お客さまの離脱が起こった苦い経験があり、「あらびきウインナーと言えば迷わずシャウエッセン」という不動のブランドを確立するためには「話題化」が不可欠という結論に至りました。そのため、「夜味」もXを活用したコミュニケーションは最も重視する施策のひとつと位置付け、発売前日に2段階に分けて広告を展開し、ざわついていただくということを試みたのです。

 1段階目は「大切な発表があります」という投稿。これに対しては多くの人から「シャウエッセンが結婚するらしい」などのさまざまな反応がありました。そして2段階目に「5年ぶりのシャウエッセン新味 まさかの?味」と投稿。そこでまた「なんで『?』なんだ」といった反応とともに『?』に当てはまるのは何かという大喜利状態になりました。「まさかの無味」「人の不幸は蜜の味」といった声がありましたね(笑)。シャウエッセンに興味を持って投稿に参加していただけて、十分な話題化に繋がったと感じています。
 
Xの【公式】シャウエッセンのアカウントで投稿した「大切な発表があります」という1段目の投稿
 
Xの【公式】シャウエッセンのアカウントで投稿した「5年ぶりのシャウエッセン新味 まさかの?味」2段目の投稿

 このような話題となるコミュニケーションを経て、正式に10月1日から「夜味」を店頭で販売し好調なスタートダッシュを切ることができました。初速は目標の3倍となるペースで売れました。出荷が追いつかないところもあり、現在は受注と出荷のペースを調整して安定供給できています。社内でも「夜味の可能性を侮っていた」という感じで、驚きを持って受け止められました。

 昨今、お客さまの嗜好もチャネルも多様化し、なかなかヒット商品は出にくいご時世ですが、久しぶりに店頭で「大ヒット」を実感できる商品が出せたと思っています。購買層はターゲットとしていた30~40代の主婦層が中心となっており、Xで話題にしていただけた方にそのまま購買いただけたと考えています。

 その後、実際に夜に食べる様子がXなどに投稿されており、夕食やお酒とあわせて楽しむという食シーン開拓に一定の効果があったと感じています。一方で、通常のシャウエッセンの売れ行きも好調なので、発売前に懸念していた購買層のスイッチという事態は回避できているようです。「夜味を禁断の朝に食べてみた」といった反応もありますが(笑)、夜を意識するからこそ出る言葉なので肯定的に捉えています。またインフルエンサーが食べ比べをするなど、いろいろな方に取り上げていただきました。
 
シャウエッセン夜味「夜味って何?」篇 30秒
 
 地上波とWebでテレビCMも流しました。食品のCMは一般に「こんなシーンでこんなふうに食べればとってもおいしい」というような訴求が多いのですが、今回は「夜味って何?」というコピーを前面に出しました。「夜も食べていいんだ」という発想と、どんな味がするのかという関心を持っていただくことを意識したクリエイティブにしました。

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