マーケターズ・ロード 笹本裕 #05

DAZN Japan笹本裕氏が伝える、現代のマーケターに必要な「時間軸」の思考法

前回の記事:
Twitter創業者ジャック・ドーシーから学んだパーパスの重要性【DAZN Japan笹本裕】
 2024年2月、スポーツストリーミングサービスを手掛けるDAZN Japan CEO 兼 アジア事業開発に就任した笹本裕氏。同氏はこれまでMTVジャパン、マイクロソフト、Twitter Japan(現X)など、世界的な企業で要職を歴任。メディアとテクノロジー、エンターテインメント業界を中心にビジネスを牽引し、そのキャリアを築いてきた。現在はDAZNで、日本市場に加えてアジアパシフィック(APAC)での成長に注力している。

 一見、輝かしいキャリアを歩んできたように見えるが、その道のりは決して平坦ではなかった。リクルートでの新人時代の苦労、起業への挑戦、マイクロソフトで感じた大きなギャップ、そしてTwitterで直面した破壊と創造…。2024年8月には、Twitterでの経験をまとめた書籍『イーロン・ショック 元Twitterジャパン社長が見た「破壊と創造」の215日』(文藝春秋)を上梓している。

 本連載では、笹本氏が経験してきた数々の転機やグローバル視点で導いた成長と変革の実績、トップリーダーから学んだビジネスの本質、そして日本産業の未来について全5回で紐解いていく。最終回では、これまで世界のトップリーダーたちと仕事を共にしてきた笹本氏が考える経営者やリーダーに必要なスキルと、今の日本のマーケターが考えるべき「時間軸」について紹介する。
 

経営者は医者であり、トレーナーである


―― これまでマイクロソフトではビル・ゲイツ氏、Twitterではジャック・ドーシー氏とイーロン・マスク氏など、世界のトップリーダーと仕事をしてきた笹本さんが考える、経営者やリーダーに必要な資質とは何でしょうか。

 さまざまな素養が必要ですが、まずベースとして世の中の動向を肌感覚で捉える力と、定量的な数字を読む力のバランスが取れていることが重要だと考えます。そして、それらの力をいかに「創造」につなげていくかが鍵となります。

 創造につなげていくことは「言うは易し行うは難し」です。イーロンのように既存のものを破壊したうえで新たに創造するケースもあれば、ジャックのように何もないところから創造していくケースもあります。経営者には、会社がどのような状態にあるかを診断できる力と、それに対する解決策を持つ力が求められます。
 
DAZN Japan CEO 兼 アジア事業開発
笹本 裕 氏

 2024年2月、DAZN Japan CEO 兼アジア事業開発に就任。日本でのマーケットリーダーとしてのポジションを確固たるものとしながら、アジアパシフィック(APAC)への拡大、DAZN Taiwanの事業成長を担っている。これまでの27年以上のキャリアで、テクノロジー、メディア、エンターテイメント領域でリーダーとしてビジネスを牽引。Twitter Japan株式会社では代表取締役として日本とAPACの成長を主導し、2014年の就任から9年間で本国アメリカに次ぐ事業規模を築く。エム・ティー・ヴィー・ジャパン、マイクロソフトといったグローバル企業・ブランドでの経験も豊富で、日本のみならずグローバルな視点で成長と変革へと導いてきた。現在も株式会社サンリオ、株式会社KADOKAWAで社外取締役を務めている。

 私はいつも、経営者を医者に例えています。ときには外科医として、会社という身体に対して栄養補給のアドバイスをする必要があります。もし会社の筋力が低下している場合には、トレーナーとして筋力増強のアドバイスを行う必要もあります。会社や事業を生き物として捉え、適切な解決策を見出すことが重要です。また、他の人にもそれを見出させ、実現へ導くことができるのが、成功する経営者だと私は考えています。

 ただし、私が述べているのは、あくまで私見です。私自身、これまである程度の成功を収めてきたつもりですが、同時に多くの挫折も経験してきました。振り返ると、ある程度のところまでは成功するものの、どこかで壁にぶつかるのが私のキャリアです。その観点では、イーロン・マスクやジャック・ドーシーとは比べものにならないほど小さな存在です。

 そして、私の考えでは、優れた経営者に求められるのは、まるで医者のように、組織の状態を診断し、適切な解決策を見出す能力です。経営者は企業の健康状態を見極め、必要な処方箋を提示できなければならないのです。

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