TOP PLAYER INTERVIEW #82
2025年、重要度が増すPRの最新潮流と海外戦略、プロフェッショナルの心得とは【本田哲也氏インタビュー】
2024年は「PR」がさまざまな意味で注目された年だった。特にSNSを活用したUGC(ユーザー生成コンテンツ)が商品開発や組織体制など上流の戦略に組み込まれる傾向が鮮明になり、UGCに繋がるPR戦略がマーケティング領域における存在感を急速に増した感がある。
Agenda noteでは世界的なPRメディア「PRovoke Media」(旧ホルムズ・レポート)により「Innovator 25 Asia-Pacific 2024(アジアのイノベーター25人)」に選出されたPRストラテジストの本田哲也氏を取材。日本企業が熱視線を送るアジア・太平洋地域でのPR戦略を含め、2025年のPR最新潮流と展望、そしてPR人材に求められるマインドセットを聞いた。
Agenda noteでは世界的なPRメディア「PRovoke Media」(旧ホルムズ・レポート)により「Innovator 25 Asia-Pacific 2024(アジアのイノベーター25人)」に選出されたPRストラテジストの本田哲也氏を取材。日本企業が熱視線を送るアジア・太平洋地域でのPR戦略を含め、2025年のPR最新潮流と展望、そしてPR人材に求められるマインドセットを聞いた。
オーセンティシティーとナラティブ
―― 最近のPR戦略で重視されるポイントは何でしょうか。
コロナ禍以降のPRで重視される点は主に3つあります。「身の丈に合っているか」「ブランドらしいか」「オーセンティシティー(真実性)があるか」です。これらの対極にあったのが、一時期多く見られた大袈裟なソーシャルグッドや表層的なSDGsでした。身の丈に合わないPRは信頼に欠け、持続しません。
私たちがPRを支援する味の素冷凍食品は、X(旧Twitter)の投稿を契機に「冷凍餃子は手抜きではない」ということを丁寧に発信して「手間抜き論争」として話題になったり、消費者からフライパンを集めて冷凍餃子の改良を行う「冷凍餃子フライパンチャレンジ」が国内外のアワード20冠を受賞したりしました。これらが支持を集められたのは、同社が長年追求する「永久改良」の文化に根差していたからです。売上に貢献するだけでなく、従業員のモチベーションアップやブランド力の向上に大きく寄与するPR施策となりました。
本田事務所 代表取締役/PRストラテジスト
本田 哲也 氏
「世界でもっとも影響力のあるPR プロフェッショナル 300 人」に 『PRWEEK』 誌によって選出されたPR専門家。2006年にブルーカレントを設立し代表に就任。2009年に「戦略PR」を上梓。P&G、花王、ユニリーバ、サントリー、トヨタ、資生堂、ロッテ、味の素など国内外の企業との実績多数。2019年より本田事務所としての活動を開始。2023年にシンガポールに活動拠点を移す。著書に『戦略PR 世の中を動かす新しい6つの法則』、『ナラティブカンパニー 企業を変革する「物語」の力』、『パーセプション 市場をつくる新発想』など多数。海外での活動も多岐にわたり、世界最大の広告祭カンヌライオンズでは、公式スピーカーや審査員を務めている。公益社団法人日本パブリックリレーションズ協会(PRSJ)理事。
本田 哲也 氏
「世界でもっとも影響力のあるPR プロフェッショナル 300 人」に 『PRWEEK』 誌によって選出されたPR専門家。2006年にブルーカレントを設立し代表に就任。2009年に「戦略PR」を上梓。P&G、花王、ユニリーバ、サントリー、トヨタ、資生堂、ロッテ、味の素など国内外の企業との実績多数。2019年より本田事務所としての活動を開始。2023年にシンガポールに活動拠点を移す。著書に『戦略PR 世の中を動かす新しい6つの法則』、『ナラティブカンパニー 企業を変革する「物語」の力』、『パーセプション 市場をつくる新発想』など多数。海外での活動も多岐にわたり、世界最大の広告祭カンヌライオンズでは、公式スピーカーや審査員を務めている。公益社団法人日本パブリックリレーションズ協会(PRSJ)理事。
―― 本田さんは長年、企業がユーザーや消費者と共創する「ナラティブ」を重視されてきました。本田さんは「ナラティブ」をどのように戦略に落とし込むのですか。
独自のメソッドの核は「ナラティブスクリプト」です。簡単に言えば「これから世の中に出したいストーリー」を、スクリプト(脚本)のようにA4一枚程度のテキストに起こします。このメリットはまず現場の社員から経営層、コンサルタントや広告/PR会社などの外部支援者まで、プロジェクトに関わるすべての人が共通の認識やイメージを持てることです。
ナラティブスクリプトにおいて重視するのは、まず「社会的大局観」。企業が主語ではなく、社会を主語として現在の空気感を把握します。それから「身の丈」「ブランドらしさ」「オーセンティシティ」を掛け合わせて、身の丈に合った、そのブランドらしい課題解決のナラティブを練ります。冷凍餃子の「手間抜き論争」であれば、「世の中の過剰な手料理信仰から、料理をつくる人を解放したい」という目的です。そして重要なのが「未来への想像力」。生活者や従業員、株主などの利害関係者、メディアやインフルエンサーといったステークホルダーの解像度を上げ、彼らがこのナラティブをどう捉えるか、具体的なセリフまで想像し、未来の筋書きを立てるのです。
「ナラティブ」は「物語」と訳されることもありますが、企業やブランドが一方的に提供する「ストーリー」とも異なり、「素敵さ」「エモさ」だけを追求するものでもありません。生活者と共に現在進行形で紡いでいくものであり、SNSと親和性が高いです。「オーセンティシティー」と同様、欧米企業では以前からコミュニケーション戦略の企画書にはよく登場していた言葉ですが、日本企業の間でもここ数年、ようやく認知されるようになりました。今後も生活者・ユーザーとのコミュニケーションやUGC創出において一層、重要になるのは間違いありません。