新時代のエンタメ舞台裏~ヒットにつなげる旗手たち~ #14
「JO1」「INI」などZ世代に人気のアーティストを続々輩出。 LAPONE社長 崔信化氏が実行した「これまでにない選択」
2025/01/24
「応援してくれるのに、やらない選択肢はない」
徳力 「JO1」のオーディション中から、ファン自身が広告主となって推しのアーティストを宣伝する「応援広告」を出したいファンのために、宣材写真を公式サイトからダウンロードできるようにしていましたよね。2019年当時の日本の業界からしてみれば、相当なチャレンジだったと思います。アーティストの素材は事務所以外での利用は御法度でしたし、一般人が広告出稿の主体になることも基本的になかった。ファンの応援広告がJRの駅に出ているのを見かけたとき、私も当時は広告業界にいたので、衝撃を受けたのを覚えています。
崔 ファンが主体となる応援広告は、韓国ではごく一般的です。『日プ』でも、推しが選ばれるために応援広告を出したいというファンの要望がたくさん来ました。おっしゃるように、アーティストの写真が望ましくない使われ方をされるリスクがあると、多くの人から反対されましたが、僕の中では「応援してくれるのに、やらない選択肢はない」と思い、最低限、守っていただきたい規定を設けて、宣伝素材の提供を決断しました。
徳力 ファンが自分たちで資金を出して、対応してくれる広告会社を見つけ出して実現するという熱量がすごいですよね。「公式」が許可を出したことで一層、「自分も広告を打ちたい」というムーブメントに繋がったのですね。これもやはり、韓国の成功事例を見ていて、うまくいくと想像されたんですか。
崔 そうですね。応援広告を打ってもらうことで、ファンの熱量がひとつ上の段階に高まるという確信はありました。
それに、これは全てにおいて言えることですが、僕らの会社は後発の新しい会社です。既存の会社と同じことをしていては、いろいろな壁を乗り越えることはできないと思っています。「他社がやっていないことは何か」を考え続けていて、応援広告への素材提供はそのひとつです。結果、「JO1」のオーディション中にファンから受けた応援広告の申し出は数百件にのぼりました。
徳力 コロナ禍にも関わらず前例のないことを断行して、ここまでの成功に繋げられたのは、やはりファンの熱量あってこそなんでしょうね。崔社長にとって、ファンはどのような存在なのですか?ファンに対して取り組んだことも教えてください。
崔 この言い方をすると誤解や批判を招くこともあるのですが…やはり「ファミリー」だと思っています。新しい会社だから、いろいろと取り組みをするとファンの方に怒られてしまうことも多いんです。「LAPONEがまたこんなことをしている」と。
ただ私自身、これまで20年以上、吉本興業での仕事を含めて「仕方ない、あいつだから助けてやるか」という感じで周囲に助けてもらいながら育ってきました。LAPONEも、ここで働くスタッフも、時には叱られながらも憎めない存在として、助けてもらえる存在になってほしいと思っています。
徳力 ファミリーに応援されるような人、会社になってほしいということですね。確かに、ファンに怒られない、失敗しない会社でいようとすると、どうしても保守的になって、既存の会社と同じことをやってしまう。斬新な挑戦は一見、ファンからすると間違っているように見えることもあるかもしれないけれど、その選択によってLAPONEらしさが培われている。それがこの5~6年の急成長だと、私は外から見て思っています。
崔 そのように見てもらえたら、ありがたいんですが…。順風満帆に見えるかもしれませんが、内実は結構、大変なことも多いですよ(苦笑)。
徳力 ファンに怒られる状態って「炎上」と表現されがちですけど、LAPONEにとってはある意味、家族に怒られる状態と言えそうですね。だから、ちゃんと意見を受け止める。
崔 もちろんです。なので、企業として利益は大事ですが、利益を減らしてでもファンに気持ちを伝えることを大事にしています。「JO1」の公式ファンのことを「JAM」と呼んでいるのですが、2024年7月に行ったJAM感謝祭のチケット料金は、5年前の結成当初のファンミーティングと同等の金額に抑えたり、JAMの日として制定している12月12日には破格の1,212円でライブ配信チケットを販売したりしました。また、「INI」の公式ファンである「MINI」の方々に向けても、感謝の気持ちを伝える新聞広告を出させてもらったり、1年間の活動を支えてくれた感謝を伝えたいというメンバーの思いから、年末に無料配信をさせていただいたりもしました。
徳力 私もここ数年、K-POPとJ-POPの文化を比較してきた中で、一番異なるのがファンのポジションだと思いました。日本のファンはアーティストを非常に大事にしているものの、どちらかというと受身でした。それに対してK-POPでは、ファンの能動的な力とともにアーティストが成長していく。K-POPがJ-POPに教えてくれているのは、そのためにファンにある程度の「権限」を渡すことではないでしょうか。最近のJ-POPはその点を参考にして、かなり変わってきたと感じますね。
たとえば従来の感覚では、ライブのパフォーマンス動画をネットにあげるのは掟破りとして、批判される場合が多かったと思います。
けれど2024年に私があるイベントに参加した際、オープニングに「JO1」が登場してとても盛り上がったのでその動画をシェアしたところ、ファンの人たちから非常に感謝するコメントが寄せられました。「JO1」に関しては応援する喜びをシェアする文化が根付いているんだなと感じて、良い意味で衝撃を受けましたね。日本のアイドル文化において新しい潮流だと思います。
崔 米国など海外のいろいろなライブを見に行っても、撮影禁止などの禁止事項はほとんどなくなってきていますね。もちろん、スポンサーや放送局など関係者間の合意は必要ですし、みんなが撮影に夢中になると、演出などさまざまな面で支障が出る可能性もあるので、ルールが必要な場面もあるとは思います。ただ、僕個人としては、ファンの応援行為を取り締まるようなルールは基本的に、今の時代にはそぐわないんじゃないかと思っています。なので、僕らのイベントも一部は撮影OKにするなど、できるだけオープンにする方向を向いていますね。
※後編に続く
©︎LAPONE ENTERTAINMENT/LAPONE GIRLS
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